ムギツク ちょぼ先生の自己満おさかな図鑑 vol.73
子育ては、他のおさかなに託す「ムギツク」のご紹介です。
・標準和名
ムギツク
・漢字
麦突
・学名
Pungtungia herzi Herzenstein
・分類(仲間分け)
コイ目コイ科ヒガイ亜科ムギツク属
・大きさ
体長は10cm程度になる中小型の淡水魚。体型は細長く、体側にはっきりとした暗色の帯が入っている。これが個人的にはカッコいいと思っている。
口は吻端にあって、1対の口ひげがある。石などをつついてエサを食べるので、それに適した口の形状となっているのだろう。
ちょっと大きめの箸置きみたいなサイズ感である。
・生息地と知名度(認知度)
福井県、岐阜県、三重県以西の本州、四国北東部、九州北部に生息している淡水魚。河川の中流域の淵や淀みなど流れが緩やかなところに住む。底層域の岩盤やコンクリートブロック、沈水植物に潜んでいる。
日本淡水魚好きからすれば常識であるが、ムギツクの知名度はめちゃくちゃ低いと思われる。生息地も日本全国に分布している訳ではないので、レア度も増している。
そのあたりを加味した上で、知名度を例えるなら、冬ソナでチェリン役であった女優の「パク・ソルミ」くらいである。
・ちょぼ's コメント
口先から尾びれの付け根までにはっきりとした黒色の縦帯が、個人的にはデザイン性がありカッコいいポイントだと思っている。この模様が目まで及んでいるので、目がどこについているのかわかりにくくなっている。これは天敵から目を狙われないようにするための特徴なのかなと思う。チョウチョウウオと同じような形態的特徴を有しているのだろう。生息場所が全然違うのに、特徴が似ているので、生物の進化って面白いなぁとつくづく思う。
最近の研究により、托卵をすることがわかってきた。托卵とは、自分の卵を他の種の巣に産卵して、仮親に卵の世話をさせて、子供を育てさせる習性である。托卵といえばカッコウが有名であるし、鳥だけの習性と考えられていたが、1980年代にアフリカに生息するカッコウナマズが托卵を行うことが初めて発見された。カッコウナマズって名前からして「托卵しまっせー」っていう感じですね笑。
その後、このムギツクやほかの日本産淡水魚でも確認されている。この托卵魚の研究は、現在進行形で行われているので、ホットな魚類学研究分野である。近々、新たな発見の発表があるかもしれない。
ムギツクが托卵をするお相手のおさかなは、オヤニラミやギギ、ドンコといった肉食性のおさかなである。なかなかやるなぁと思ってしまう。下剋上的な行動やよね。これらの魚種の中で、最も子育てを任せているのがオヤニラミである。オヤニラミって名前に親が入っているからそういうことねっと思った人もいると思うが、オヤニラミの名前の由来は、まったく托卵の仮親とは関係ない笑。
初夏になるとオヤニラミは岸辺に生えるヨシなどの茎に卵を産む。すると、ムギツクが集団で押しかけ、オヤニラミが産卵したところにこれまた集団で産卵する。オヤニラミはフィッシュイーターで生態系のトップ近くにいますが、そこまで集団でこられたらさすがに無理やでという感じでムギツクの産卵を防ぐことができず、結果的にオヤニラミの卵と混じってムギツクの卵も一緒にオヤニラミの産卵床に存在した状態となる。
オヤニラミはカワニナ(巻貝)やイモリなどの攻撃から自分の卵を守るが、それはムギツクの卵を守ることにも繋がっている。という流れが、ムギツクのほかの魚まかせの子育ての全容である。ただ、カッコウのように、仮親の卵より早く孵化して仮親の子供をすべて殺してしまうようなことはしないので、ベビーシッターに全部任せてます、みたいな感じだろうか。よくドラマとかに出てくる超お金持ちのママみたいな子育てといったところだろうか。
自分で子育てするよりも、オヤニラミの獰猛な性質を利用した托卵の方が、繁殖戦略上有利と判断したのだろうか。托卵をするようになった理由が知りたいので、さらなる研究に期待したいところである。
岡山県高梁市川水系では、食べていたことが確認されているみたいだが、水産資源として活用されてはいない。ただ食味は非常に美味とのことなので、食べてみたいところである。串に刺して焼いて食べる方法が、最もポピュラーらしい。ホンモロコ並みに美味しかったらいいなぁ。今度食べてみたいが、托卵する瞬間の方が見たいので食べるのは辞めておこう。
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