コミュニティマネージャーに必要なスキルセットはヒト・コト・ソト
「熱量の高いユーザーがなかなか増えない…」「イベントを開いても盛り上がりに欠ける…」「コミュニティの価値を社内で説明できない…」
そんな悩みについてご相談を受けることがあります。これらの課題は多くのコミュニティマネージャーが共通して直面している壁のようです。
さまざまな個人や企業、地域や団体などがオンライン・オフラインでのコミュニティづくりに力を入れる中で、コミュニティマネージャーという職種の需要が急速に高まっています。しかし、その業務内容は多岐にわたり、求められるスキルセットも複雑でつかみどころがないようにも思えます。
そのため「うちの会社でもコミュニティを始めたいけど、誰に任せればいいの?」 「コミュニティマネージャーって具体的に何をする人?」 「自分はこの職種に向いているのかな?」という疑問を持つ方も多い。今回は、そんな捉えどころのないコミュニティマネージャーについて、スキルを大きく3つのカテゴリーに分類してみようと思います。
ユーザーの心を掴む「対ヒト」スキル
魅力的な場を作り出す「対コト」スキル
事業を成長させる「対ソト」スキル
この「ヒト」「コト」「ソト」の3つの視点から見ていくことで、コミュニティマネージャーの役割がクリアに見えてくるはずです。
本記事では、私の経験と業界動向を踏まえて、コミュニティマネージャーに求められるスキルセットを解説していきます。コミュニティ運営に携わる方はもちろん、コミュニティを事業上の戦略として検討している経営者の方にも参考になる内容になるかと思います。それではいきましょう!
なぜ「ヒト・コト・ソト」の視点が必要なのか?
企業や組織がコミュニティに期待するものはかつてないほど高まっています。その影響で数多くのコミュニティが日々立ち上がっており、アテンションを奪い合っている状況です。他にも様々なメディアやサービスがアテンションの争奪戦をしているなかでわざわざコミュニティに参加するメンバーは、貴重な可処分時間を割いて参加するだけの独自の価値や体験を求めていると言えるでしょう。
その結果として、コミュニティマネージャーの役割は複雑化し、多様化しています。場を提供するだけして一方的に情報発信するだけのコミュニティ(それをコミュニティと呼べるかは分かりませんが)では、メンバーの心を掴むことも運営母体の組織の期待に応えることもできません。ここで重要になるのが、「ヒト・コト・ソト」という3つの視点です。ヒト→コト→ソトの順に具体性は低くなり、一方で大局観が必要になっていきます。
まず、「対ヒトスキル」はコミュニティの心臓部(ハート)とも言えるものです。コミュニケーションスキル、エンパシー(共感)スキル、などが含まれます。例えば、新規メンバーを温かく迎え入れる雰囲気づくりや、ベテランメンバーの知見を活かす場の提供など、メンバー一人ひとりの個性や強みを活かすことがコミュニティの活性化につながります。
次に「対コトスキル」は、コミュニティの魅力を具現化する力です。プロジェクト管理スキル、企画立案スキル、などが含まれます。オンラインとオフラインを効果的に組み合わせたハイブリッドイベントの開催や、メンバーの興味関心に合わせた定期的なニュースレターの配信など、具体的なアクションを通じてコミュニティの価値を高めていきます。
最後に「対ソトスキル」は、コミュニティと外部をつなぐ重要な役割を果たします。ステークホルダー管理スキル、分析スキル、事業理解などが含まれます。コミュニティ活動を通じた商品開発が売上増加につながったり、地域コミュニティの活性化が移住者の増加をもたらしたりと、その成果は多岐にわたります。これらの成果を適切に測定し、関係者に分かりやすく伝えることも、コミュニティマネージャーの重要な役割です。
コミュニティマネージャーは、「対ヒトスキル」を活用してコミュニティメンバーと信頼関係を築きながら、「対コトスキル」で魅力的な場を作り出し、最終的に「対ソトスキル」で事業成果に繋げていく存在だと言えるでしょう。
このように「ヒト」「コト」「ソト」の視点を持つことで、コミュニティマネージャーは単なる場の管理者ではなく、コミュニティで生み出した熱量を成果に接続する戦略的に不可欠な存在となるのです。
では、「ヒト・コト・ソト」のそれぞれのスキルについて詳しく見ていきましょう。
①ユーザーの心を掴む「対ヒト」スキル
コミュニティマネージャーの役割において、最も重要かつ繊細なのが「対ヒト」スキルです。なぜなら、コミュニティとは人が集まって初めて成り立つものだから。どんなに素晴らしいコンテンツやイベントを用意しても、コミュニティマネージャーがメンバーとのコミュニケーションを事務的に行なっていてはしらけてしまい、メンバーは定着しないでしょう。
「対ヒト」スキルの本質は、高度な対人知性と柔軟性にあります。コミュニティメンバーとの関係を築き、彼らのニーズを理解し、エンゲージメントを高めることが肝心です。
まず、多様なユーザーを理解する対人知性について考えてみましょう。コミュニティには、様々なバックグラウンドや価値観を持ったユーザーが集まります。そのため、一人ひとりに最適なコミュニケーションを取るためには相手の立場や気持ちを理解する対人知性が求められます。
積極的に発言するユーザーもいれば、オーディエンスとしてその場にいるだけでコミュニティの様子を伺っているユーザーもいるでしょう。コミュニティマネージャーはそれぞれのユーザーの特性を見極め、後者のようなユーザーにはコメントしやすいように質問を投げかけたり、反応しやすいテーマのイベントに招待するなど、個々に合わせたコミュニケーションが求められます。このような対人知性は1on1の場面でも重要で、オープンエンドの質問を活用してメンバーの本音を引き出したり、非言語コミュニケーション(表情、声のトーン)にも注意を払ったりする必要があります。
コミュニティマネージャーのタイプにはいくつかありますが、この「対ヒト」スキルに着目すると2つに大別できそうです。それは、伴走者としてのコーチングタイプと、黒子としてのファシリテータータイプです。
コーチングタイプのコミュニティマネージャーは、メンバーの伴走者としてメンバーのやりたいことやコミュニティに所属する動機を理解し、彼らが目的を達成できるようサポートします。コミュニティ内で新しいプロジェクトを始めたいと考えているメンバーがいれば、そのメンバーの強みを活かせるようなアドバイスをしたり、必要な情報や機会を提供したりすることでメンバーの背中を押すことができるでしょう。
一方、ファシリテータータイプのコミュニティマネージャーは、ユーザー同士の繋がりを促進する役割を果たします。コミュニティ全体を俯瞰し、時には裏方に徹することで、メンバーにとって居心地の良く適度な刺激のある場を提供するのです。イベントで多くのメンバーが集まる場面でも、ファシリテーションによってメンバー間のコミュニケーションを円滑にし、意見交換を促進する必要があります。
どちらのタイプであれ、適切な距離感を維持することもコミュニティマネージャーにとって重要なスキルでしょう。ユーザーとの距離感はコミュニティの特性や自身の性格によって変化します。重要なのは、コミュニティのビジョンや目指す方向性を理解した上で自分らしい関わり方を見つけることです。ユーザーとの信頼関係を築き、コミュニティに愛着を持って活動することで、自ずと結果はついてくるでしょう。ただし、コミュニティの目的と文化を常に意識し、自身の関わり方が適切かどうか定期的に振り返ることを忘れないようにしたいものです。
優れた「対ヒト」スキルを持つコミュニティマネージャーは、メンバー一人ひとりの声に耳を傾け場の熱量に目を凝らし、適切なサポートを提供します。その一方で、全体としての融け合いも保つことができる。それは単なるテクニックの寄せ集めではなく、対人知性と柔軟性、そして何よりもメンバーへの真摯な関心から生まれるものだと思います。
こうした「対ヒト」スキルを基盤として、いかに魅力的なコンテンツやイベントを企画・運営していけばいいのでしょうか。次に「対コト」スキルについて詳しく見ていきましょう。
②魅力的な場を作り出す「対コト」スキル
メンバーとの関係性を築く「対ヒト」スキルと並んで重要なのが、魅力的な場を作り出す「対コト」スキルです。コミュニティを活性化しメンバーの継続的な参加を促すには、魅力的なコンテンツやイベントを企画・運営する能力が不可欠です。
コミュニティを一本の木に例えるなら、定例化したイベントやコンテンツは木の幹のような役割を果たします。この幹が安定していなければ、コミュニティという木は倒れてしまうでしょう。一方で、メンバーのニーズや社会の変化に応じたタイムリーな企画は幹から伸びる枝葉のようなものです。枝葉がなければ、木は光合成でエネルギーを得ることができません。つまり、コミュニティの成長と活性化には、定例化した企画とタイムリーな企画の両方が必要なのです。
まずはコミュニティを支える「幹」を作ることから始めましょう。定例的なコンテンツやイベントは、コミュニティに安定感と継続的な参加意欲をもたらします。例えば、毎週開催されるオンライン勉強会や、月に一度のオフライン交流会などが考えられます。これらの企画は、メンバーにとって「いつもの場所」となり、自然とコミュニティに愛着が湧くようになります。
定例イベントを成功させるためのポイントは、メンバーにとって参加するメリットが明確であること、無理なく参加できる頻度や内容に設定すること、そしてマンネリ化を防ぐための工夫を取り入れることです。例えば、毎回テーマを変えたり、ゲストスピーカーを招いたりすることで、定例イベントに新鮮さを加えることができます。
次に、熱量を高める「枝葉」を展開することが重要です。社会のトレンドやメンバーのニーズをいち早く捉え、その時々に応じたイベントやコンテンツを企画することで、コミュニティに新鮮な風を吹き込むことができます。例えば、話題のニュースについての意見交換会やコミュニティのコンセプトにフィットする書籍の読書会、コミュニティ内でプロジェクトを立ち上げるキックオフイベントなどが考えられます。
これらのタイムリーな企画はメンバーにコミュニティの新しい価値を提示し、コミュニティの存在意義を再確認してもらえる効果があります。また、外部からの注目を集めることで、新しいメンバーの獲得にもつながる可能性もあるでしょう。
こうした魅力的な「幹」や「枝葉」を生み出すには、具体的にどのようなスキルが必要でしょうか。以下にいくつか挙げてみます。
プロジェクト管理:複数のイベントやコンテンツを同時に管理する能力が求められます。タスクの優先順位付け、時間管理、リソース管理などが含まれます。プロジェクト管理ツールを活用することで、効率的にプロジェクトを進行させることができます。
企画立案:コミュニティ戦略に基づいた施策を設計し、具体的なイベントやコンテンツを企画する能力が求められます。メンバーのフィードバックを反映させ、魅力的なプログラムを作成していけるとベターですね。
イベント運営:企画を立案するだけでなく、それを実際に成功させる能力が求められます。タイムマネジメント、参加者の動線設計、会場設営、進行管理など、多岐にわたるスキルが含まれます。オンラインイベントの場合は、デジタルツールを活用できる程度のリテラシーも必要です。
ストーリー設計:個々のコンテンツやイベントが単発で終わるのではなく、コミュニティ全体の成長ストーリーの中に位置づけられることが理想的です。例えば年間テーマを設定し、そのテーマに沿って各イベントやコンテンツを展開していくことで、メンバーに成長の実感と期待感を与えることができるでしょう。
これらの「対コト」スキルを効果的に活用するためには、常にメンバーの声に耳を傾けつつ、一方でコミュニティの目的も見失わない両輪の思考が大切です。また、他のコミュニティの事例研究や新しい企画手法の学習なども継続的にやっていきたいものです。
コミュニティマネージャーはこれらのスキルを駆使して、安定性(幹)による安心と新規性(枝葉)による刺激のバランスを取りながら、魅力的な場を作り出していきます。それによってメンバーの継続的な参加意欲とコミュニティ全体の活性化につながっていくのです。
次に、このようなコミュニティの活動を外部に発信し、成果として示していく「対ソト」スキルについて深掘りしていきましょう。
③事業を成長させる「対ソト」スキル
コミュニティマネージャーの役割はコミュニティ内部の活性化にとどまりません。特に企業戦略の一環としてコミュニティを運営する場合、その活動が具体的な事業成果に結びつかなければ継続的なリソース(予算や人員)を得ることは困難です。ここで重要となるのが、コミュニティの価値を外部に示し、事業成長に貢献する「対ソト」スキルです。
「対ソト」スキルの核心は、コミュニティの活動と成果を運営母体の企業や外部のステークホルダーにとって意味のある形で可視化し、伝達することにあります。これは単なる数字の羅列ではなく、コミュニティの価値を説得力のあるストーリーとして紡ぎ出す創造的な作業といえるでしょう。
まずは適切なKPI(重要業績評価指標)の設定が不可欠です。このあたりは他にさまざまな方が論じているので割愛します。重要なことは、定期的にこのKPIを測定しその推移を追跡すること。それによってコミュニティの貢献度を数値化するのです。しかし、数字だけでは伝わりきらない価値がコミュニティには存在します。そこで重要になるのが、ストーリーテリングのスキルです。
例えば、ある製品の改善アイデアがコミュニティ内の議論から生まれ、それが実際の製品改良につながったケースを考えてみましょう。この成果を社内外に報告する際、単に「コミュニティからの提案により製品改良を実施」と伝えるだけではその真の価値は伝わりません。代わりに、以下のようなストーリー形式で伝えることで、より強い印象を与えることができるでしょう。
「先月のコミュニティ内ディスカッションで、ユーザーAさんから製品Xの使い勝手に関する提案がありました。その提案に対して、他の10名以上のメンバーが賛同の声を上げ、さらなる改善アイデアが寄せられました。我々はこの声を製品開発チームに伝え、わずか2週間で改良版をリリースすることができました。この迅速な対応により、コミュニティ内の満足度が大幅に向上し、SNSでの好意的な投稿にも波及しました。」
このようなストーリーテリングにより、コミュニティの存在が企業にもたらす具体的な価値、すなわち顧客の声を直接聞ける場としての価値、迅速な製品改善サイクルの実現、顧客満足度の向上、そして口コミ効果の増大などを、より説得力のある形で伝えることができます。
さらに、「対ソト」スキルには、社内外のステークホルダーとの効果的なコミュニケーション能力も含まれます。例えば、以下のようなアプローチが考えられます。
他部門との連携:マーケティング部門、製品開発部門、カスタマーサポート部門などと定期的に情報交換を行い、コミュニティから得られた知見を共有する。
外部向けの成功事例発信:コミュニティを通じた成功事例をブログやSNSで発信し、コミュニティのブランディングや新規ユーザーの獲得につなげる。
メディア対応:必要に応じてコミュニティの取り組みや成果についてメディアに情報提供を行い、より広範囲への認知拡大を図る。
また、コミュニティの価値を最大化するためには、長期的な視点も欠かせません。短期的な数値の変動に一喜一憂するのではなく、コミュニティが企業文化や顧客との関係性にもたらす長期的な影響を常に意識し、それを適切に伝えていく必要があります。
例えば、「コミュニティを通じて培われた顧客との強い信頼関係が、不測の事態(製品の不具合や企業の失策など)が発生した際のリスク軽減につながる」といった視点を持っておくことで、いざという時に対処が可能になるかもしれません。
コミュニティマネージャーはこれらの「対ソト」スキルを駆使して、コミュニティの価値を多角的に可視化し、説得力のある形で外部に伝えていくのがよいでしょう。それによって企業内でのコミュニティの地位を確立し、さらなる成長のためのリソースを獲得することができるはずです。
コミュニティの内部で熱量を高める「対ヒト」「対コト」スキルと、その価値を外部に伝える「対ソト」スキル。この3つのスキルのバランスを実現させることがコミュニティマネージャーに求められているように思います。もちろん、この3つのスキルを1人でカバーする必要はありません。複数人のチームで担当範囲を分けることも考えられます。
そのようにして適切に運営されたコミュニティは顧客とのエンゲージメントを高め、共感や信頼を生み出す強力なマーケティングツールにもなる。「対ソト」スキルを持つコミュニティマネージャーは、コミュニティを事業成長のエンジンへと進化させ、持続的な成功に貢献するのです。わかりやすさのために運営母体を企業として説明しましたが、企業に限らずあらゆる組織においてこの「対ソト」スキルの重要性はあてはまるはずです。
おわりに
コミュニティマネージャーに必要不可欠な「ヒト」「コト」「ソト」にまつわる3つのスキルセットについて詳しく見てきました。これらのスキルは、まるで三本の柱のように、成功するコミュニティの基盤を支えています。
これら3つのスキルセットは互いに密接に関連し、補完し合っています。「対ヒト」スキルで築いた信頼関係が、「対コト」スキルでの企画の成功を導き、それが「対ソト」スキルを通じて具体的な事業成果として現れる。このサイクルが円滑に回ることでコミュニティは持続的に発展できるわけです。
ただし、コミュニティはそれぞれ固有の特性を持っています。ここで紹介したスキルセットはあくまでも基本的な枠組みに過ぎません。実際の運用においては、各コミュニティの目的や文化、メンバーの特性などに応じて柔軟にアプローチを調整していく必要があるでしょう。
今回整理した「ヒト」「コト」「ソト」という観点は、そのままコミュニティマネージャーの評価基準として適用することもできます。コミュニティマネージャーを正当に評価する企業や組織が増えるひとつのキッカケに本記事がなれば嬉しいです。
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