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「ゼブラコミュニティ」というコミュニティデザインの未来像

「ゼブラ企業」という言葉をご存知でしょうか?それは経済性と社会性を両立し、長期的視点で持続的な繁栄を重視する新しい在り方の企業のこと。

経済性と社会性は両立が難しく、白と黒のように相反するものとも言えます。その白と黒の矛盾を超えて両立させる様子がシマウマの縞模様に重なることからゼブラ企業と呼ばれているのです。

なぜ今、ゼブラ企業が注目されているのでしょうか?その背景を探りつつ、今回の記事ではその在り方をコミュニティに転用できる可能性を構想していきます。もしそれが可能なら、「ゼブラコミュニティ」はどんな存在価値を持ち得るでしょうか?

ゼブラ企業をヒントにしてコミュニティの未来像について考えます。



ゼブラ企業という新潮流

「ゼブラ企業」が注目されるようになった理由は、ユニコーン企業に偏重した既存のエコシステムです。

2010年代、シリコンバレーを中心に「ユニコーン企業」という言葉が生まれました。これは、評価額が10億ドルを超える未上場企業を指します。Uber、Airbnb、SpaceXなど、破壊的イノベーションによって急成長を遂げるスタートアップが脚光を浴びる一方で、そうしたユニコーン企業に投資が集中するアンバランスな状況が生まれました。

多くの起業家や投資家がユニコーン企業の成功モデルを追いかける中、一部では社会貢献を犠牲にするケースや、従業員を過酷な労働環境に置くケース、環境問題への配慮が欠如しているケースなどが指摘されるようになりました。ユニコーンを目指して無理な事業拡大を進めた結果、早期に破綻するスタートアップも少なくありません。

加えて、ユニコーン企業に特徴的な「Winner Takes All」の世界観は、一人勝ちを是とする価値観を生み、競争の激化を招きました。効率や利益を最優先する成長モデルは、多くの企業の疲弊と持続可能性の喪失につながったのです。

こうした状況に危機感を覚えたのが、米国の4人の女性起業家たちでした。彼女たちは2017年、「ゼブラ企業」というアンチテーゼを唱えます。

ゼブラ企業とは、「社会性と経済性の両立」「周囲との共存・共生」「長期的視座」を重視する企業を指します。一人勝ちを目指すユニコーンと異なり、ゼブラは群れをなして助け合いながら生きる動物。その黒と白の縞模様は、経済合理性と社会的意義の二律背反を表しています。

ゼブラ企業の特徴は、持続可能な経営と社会課題の解決を両立させることにあります。利益の最大化ではなく、ステークホルダー全員の幸福を追求する経営を実践します。具体的には次の点が挙げられます。

  1. 社会的使命の優先:社会課題の解決を主要な事業目的とし、持続可能な社会の実現を目指す。

  2. 長期的視点:短期的な急成長を求めず、長期的視座で経営を行い、社会全体への影響を考慮する。

  3. 多様な価値の統合:経済性だけでなく、環境保護や地域の発展など多様な価値を重視する。

ユニコーン企業の体現する「短期・独占・株主至上主義」の限界が露呈するなか、ゼブラ企業は新たな価値創造のあり方を示しました。環境問題や社会的不平等など複雑化する社会課題に対し、革新的かつ持続可能な解を提供することが期待されています。


ゼブラコミュニティというコンセプト

ここまで見てきたゼブラ企業のあり方をコミュニティに転用するとどうなるでしょうか?「ゼブラコミュニティ」がどんなコンセプトになるか、という思考実験をしてみましょう。

ゼブラコミュニティは、ゼブラ企業の理念を踏襲して「社会性と経済性の両立」「共存・共生」「長期的視座」といった価値観を共有する人々によって形成されるコミュニティになるでしょう。それは、単に地理的な近接性や共通の趣味・目的によって結びつくだけでなく、共通のビジョンと価値観のもと、互いに協力し合い、共に成長していくことを目指す、より有機的で進化したコミュニティの在り方だと言えます。

ゼブラコミュニティの特徴として、まず「社会的使命の優先」が挙げられます。コミュニティが単なる利益追求ではなく、社会課題の解決を主要な目的とし、メンバーがその達成に向けて協力し合うということです。例えば、環境保護や地域社会の発展に取り組むコミュニティは、その活動を通じて社会全体に貢献します。メンバーは共通の目的意識を持ち、積極的に関与することで、強い絆と連帯感が生まれるでしょう。

次に、ゼブラコミュニティは「長期的視点」を重視します。短期的な利益や成果を追求するのではなく、持続可能な成長と発展を目指すことで、メンバー全員が長期的に安心して参加できる環境が整います。これにより、コミュニティは安定した基盤の上に成り立ち、時間と共に深まる信頼関係が築かれます。教育やスキルアップの機会を提供し、メンバーの成長を支援することで、長期的な価値創出も可能となるでしょう。

さらに、ゼブラコミュニティは「多様な価値の統合」を実現します。経済的利益だけでなく、環境保護、文化活動、社会的包摂など、多様な価値を尊重することになるでしょう。そこでは、背景の異なる多様なメンバーがそれぞれの強みを発揮し、相互に補完し合う関係性を築くことができます。異なる業界や専門分野のメンバーが協力することで、創造的なアイデアや革新的なソリューションが生まれることも期待されます。


ゼブラコミュニティが現代に必要なわけ

ゼブラコミュニティを今この時代に考えることには理由があります。現代社会は、経済的な豊かさを追求する一方で、様々な社会問題に直面しています。気候変動や環境破壊、格差の拡大、コミュニティの崩壊など、持続可能性が脅かされる事態が進行しているのです。

こうした問題に対し、従来型の経済成長モデルや競争原理だけでは、もはや有効な解決策を見出すことができません。利益追求と効率性を優先するあまり、社会や環境への配慮が欠落してきたことが、今日の行き詰まりを生んでいるとも言えるでしょう。

ゼブラコミュニティは、まさにこの時代の要請に応える新しいコミュニティのあり方を示唆しています。経済性と社会性の両立、共生・共存の精神、長期的視点といったゼブラの理念は、持続可能な社会を実現するための指針となり得ます。

例えば、環境保護と地域経済の活性化を同時に目指す取り組みは、ゼブラコミュニティの典型例と言えるかもしれません。自然環境を守りながら、エコツーリズムや6次産業化による雇用創出を図る。そこには、単なる利益追求ではない、社会的価値の創造が見て取れます。

また、少子高齢化や人口減少が進む地域社会において、ゼブラコミュニティの発想は大きな意味を持ちます。行政サービスや地域の支え合いを、官民協働や共助の仕組みで支えていく。そこには、効率性よりも持続可能性を重視する姿勢が表れています。

同時に、ゼブラコミュニティは多様性を尊重し、あらゆるステークホルダーを包摂する場ともなり得ます。高齢者や障がい者、外国人など、社会的マイノリティの課題解決を図るコミュニティ。そこには、競争よりも共生を大切にする価値観が必要になるでしょう。


ゼブラコミュニティの具体案

では、ゼブラコミュニティが実際に存在するとしたらどのようなものになるでしょうか?モデルケースをいくつか考えてみましょう。希望を込めて、既にあるものとして書いてみます。

環境保護のゼブラコミュニティ

地域の自然環境を保全するための活動を行うコミュニティです。定期的なクリーンアップ活動や植林プロジェクト、環境教育プログラムなどを通じて、地域住民の環境意識を高めると同時に、コミュニティの結束を強めることができるでしょう。 さらに、リジェネラティブ・ツーリズムの要素を取り入れ、観光客が地域の自然や文化に触れ、その魅力を再発見する機会を提供します。これにより、観光収入増加による地域経済の活性化を促すと同時に、環境保全への理解と参加を促進できます。 住民参加型の観光プログラムも特徴的です。地域住民がガイドを務めたり、地元食材を使った料理を提供したりすることで、観光客と住民双方にとって、より良い相互理解と交流を生み出します。歴史的建造物の修復や伝統文化の継承にも力を入れ、地域文化の保全と継承を図ります。 こうした活動は、雇用創出や新規ビジネスの創出など、地域経済の活性化にも貢献するでしょう。そして何より、環境保護意識の向上や、持続可能な社会の実現に向けた意識改革を促す効果が期待できます。

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教育や学習のゼブラコミュニティ

このコミュニティでは、子どもから大人まで幅広い年齢層を対象に、持続可能な社会を築くための教育プログラムが提供されます。 具体的には、リサイクルや再生可能エネルギーの利用方法を学ぶワークショップ、地域の伝統工芸を復興させるための技能講習などが考えられます。こうした教育活動を通じて、コミュニティ全体が知識とスキルを共有し、共に成長していくことが可能となります。 さらに、シェアリングエコノミーの考え方を取り入れ、車や住居、衣服など個人が所有する遊休資産の共有を促進するのも効果的でしょう。モノやサービスの利用を通じて地域通貨やポイントを付与し、コミュニティ内での経済循環を生み出す仕組みを構築します。 コミュニティメンバーが共同で利用できるシェアスペースを設置し、コワーキングスペース、イベントスペース、子ども食堂など、多様な用途に活用することもできるでしょう。シェアリングエコノミーを通じて、所有から利用への価値観の転換を促し、環境負荷の低い持続可能なライフスタイルを提案するのもいいですね。こうした取り組みは、遊休資産の有効活用による経済効果を生み出すとともに、コミュニティ内での助け合いを促進し、地域住民の繋がりを強化します。そして、環境負荷の低減や資源の節約など、持続可能な社会の実現にも貢献するのです。

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多文化共生びゼブラコミュニティ

「多様な価値の統合」を実現するために、異なる文化や背景を持つメンバーが互いの文化を尊重し合いながら共存することを目指すコミュニティも重要です。 例えば、国際的なフェスティバルや文化交流イベントを開催し、異文化理解を深めるとともに、多様な価値観を受け入れる柔軟なコミュニティを築くことができるでしょう。こうした取り組みは、地域の社会的包摂を促進し、より豊かで多様性に満ちたコミュニティの形成につながります。 また、海外からの移住者や留学生などを積極的に受け入れ、彼らが地域社会に溶け込み、活躍できる環境を整備することも大切です。多言語対応の行政サービスやビジネス支援、外国人の子供たちへの教育サポートなど、きめ細やかな施策を講じることで、真の多文化共生社会の実現を目指します。 多様な文化的背景を持つ人々が集い、互いの違いを認め合いながら共に生きる。そんな姿は、これからの地域コミュニティのあるべき姿の一つと言えるでしょう。言語や文化の壁を越えた相互理解は、新たなアイデアやビジネスチャンスを生み出す源泉にもなり得ます。多文化共生を目指すゼブラコミュニティは、グローバル化が進む現代社会において、ますます重要な存在になっていくと考えられます。

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以上、ゼブラコミュニティの具体案をいくつか挙げてみました。 これらの事例に共通しているのは、経済性と社会性の両立を目指し、持続可能な未来を創り上げようとする姿勢です。そういった創意工夫の積み重ねが、ゼブラコミュニティを多くの人々にとって魅力的な選択肢へと変えていくのだと思います。


ゼブラコミュニティの難しさ

ゼブラコミュニティは未来のコミュニティの理想像の1つかもしれません。しかし、現実には様々な難しさもあり、実際にどこまで普及するかは未知数です。

まず、ゼブラコミュニティを実現するためには、価値観の共有が不可欠です。「社会性と経済性の両立」「共存・共生」「長期的視座」といったゼブラコミュニティの理念は、多くの人々にとって理想的な目標ですが、実際にこれらの価値観を共有し、行動に移すことは容易ではありません。特に、短期的な利益を追求する従来のビジネスモデルに慣れ親しんだ人々にとっては、新しい価値観に順応するまでに時間がかかることがあるでしょう。

次に、経済的な持続可能性も大きな課題です。ゼブラコミュニティは社会的使命を優先するため、短期的な利益を追求しない傾向があります。そのため、初期投資や運営資金の確保が難しくなることが予想されます。環境保護活動や教育プログラムなど、長期的な視点で取り組むプロジェクトは、即座に収益を上げることが難しく、資金繰りに苦労する可能性があります。

また、社会的な認知と支持の獲得も課題です。ゼブラコミュニティの理念や活動が広く社会に認知され、支持を得るためには、積極的な広報活動とコミュニケーションが必要不可欠です。しかし、従来のコミュニティモデルやビジネスモデルに対する根強い信頼や慣習がある中で、新しいモデルの理解と受容を促進することは容易ではありません。メディアや教育機関、政府機関などと連携し、ゼブラコミュニティの価値を広める努力が求められるでしょう。

ゼブラコミュニティの普及と成功には多くの挑戦がありますが、これらの課題を克服することで、持続可能な社会の実現に向けた新たな道が開かれるはずです。経済性と社会性を両立させるための努力と工夫を続けることで、ゼブラコミュニティは未来のコミュニティモデルとしての可能性を広げていくことができるでしょう。


おわりに

今回の記事ではゼブラ企業をヒントにした「ゼブラコミュニティ」というコンセプトについて考えてきました。その可能性を感じていただけたでしょうか?

ゼブラコミュニティは、経済性と社会性を両立させ、共存・共生の精神を基盤とした持続可能なコミュニティモデルです。地域社会や環境、文化、教育など様々な分野での実践が可能であり、多くの課題を抱える現代社会において、持続可能な未来を築くための新しい選択肢を提供してくれます。

ゼブラ企業と同様、ゼブラコミュニティはこれからの社会において、ますます重要な役割を担う可能性を秘めています。もちろん、ゼブラコミュニティの実現には、乗り越えるべき課題も少なくありません。経済性と社会性のバランス、メンバー間の合意形成、リーダーシップと組織運営、そして外部環境の変化への対応など、様々な困難が予想されます。

しかし、これらの課題を克服し、ゼブラコミュニティを実現していくことができれば、人々がより幸せに、そして安心して暮らせる社会を創造していくことができるかもしれません。

この記事を通じて、ゼブラコミュニティというコミュニティデザインのコンセプトとその実現可能性について考えるきっかけとなれば嬉しいです。



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黒田悠介@ Commune Community Lab 所長
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