コミュニティはなぜハブ型からメッシュ型に進化するのか?(1/2)
わたしたちは、抽象度を上げたり下げたりすることでモノゴトを多様な観点から眺め分析できるようになります。コミュニティの運営ノウハウのような抽象度が低く具体性の高い観点も日々の運用に重要ですし、一方でコミュニティの構造を捉えるような抽象度の高い観点も大局観を持つ礎になります。
コミュニティを極端に抽象化すると、コミュニティメンバーや運営者を「点」、そのつながりを「線」で表す図になります。コミュニティは点とそれらをつなぐ線の集合体になるわけです。
ここまで単純化してしまうと役に立たないのではないかと思われそうですが、実はコミュニティのタイプを大きく2つに分類する観点が手に入ります。
今回の研究では、その2つの分類を「ハブ型」と「メッシュ型」と名付け、それぞれの特徴を見ていきます。また、コミュニティが誕生し進化する過程でどのような構造上の変化があるのかを分析します。
それではいきましょう!
ハブ型とメッシュ型の見た目の違い
まずは2つの分類の見た目における特徴を挙げます。
ハブ型:コミュニティの中心(Hub)的な人物や運営チームと各メンバーはつながっているが、メンバー同士のつながりが無い。中央集権型。
メッシュ型:コミュニティに中心的な人物や組織が無く、メンバー同士が縦横無尽に網の目(Mesh)状につながっている。
また、同じ点(メンバー)の数の場合に引ける線(つながり)の数にも違いがあります。少し計算をはさみますが、実は結構重要なポイントなので説明しておきます。
上の図にあるハブ型の図もメッシュ型の図も、同じ9つの点でできています。それぞれ何本の線が引かれているでしょうか?数えてみると以下のようになります。
ハブ型:8本 メッシュ型:16本
さて、メッシュ型にはまだ結ばれていない点同士がたくさんありますよね。これを全て結んだ場合に引ける線の数は「9つの点から2つの点を選ぶ選び方の数」に等しいので、9×8÷2=36本 となります。
つまり、ハブ型もメッシュ型も同じ9つの点でできた図なのですが、そこに引ける線の数の最大値はそれぞれ
ハブ型:8本 メッシュ型:36本
となり、ハブ型に比べてメッシュ型はMAXで4.5倍の線が引けるわけです。
線はメンバー同士のつながりを表していたことを思い出してください。つながりの数は、コミュニケーションやコラボレーションの可能性の数でもあります。それだけのポテンシャルの差がハブ型とメッシュ型にはあるのです。
これが100人のコミュニティだとどうでしょうか?図で表現するのは大変なので、想像したり計算したりしてみてください。ハブ型では99本の線が引けて、メッシュ型では4950本の線が引けます。つまり、つながりの数においてメッシュ型はハブ型の50倍のポテンシャルがあるわけです。
さて、ここまで非常に抽象的な観点としてハブ型とメッシュ型の見た目の違いを確認してきました。では、その違いはコミュニティの運営や体験において具体的にどのようなかたちで表れるのでしょうか?
ハブ型コミュニティの特徴
ハブ型コミュニティは、中心人物(ハブ)を軸とした車輪のような構造を持つコミュニティです。この構造には、以下のような特徴があります。
中央集権的な構造
情報発信や意思決定の中心がハブに集中し、ハブがコミュニティの方向性やルールを決定します。
メンバーはハブからの発信に呼応するように行動し、ハブとの接点やハブからの発信が重視されます。
ハブの影響力
ハブとなる人物はカリスマ性や専門性、影響力を持ち、メンバーからの尊敬や信頼を集めます。
リーダーの個性や価値観がコミュニティの雰囲気や方向性に大きな影響を与えます。
情報発信の効率性
ハブが一元的に情報を発信することで、メンバーへの情報伝達が迅速かつ効率的に行われます。
情報の一貫性を保ちやすく、誤解や混乱が生じにくいというメリットがあります。
意思決定の迅速性
ハブを中心とした意思決定プロセスにより、コミュニティは機動的に活動を進めることができます。
プロジェクトの推進に適した構造と言えます。
メンバーの役割と参加
メンバーは主に受動的な立場となり、ハブからの情報を受け取り、指示された活動に参加します。
自発的な貢献やリーダーシップを発揮する機会が限られる傾向があります。
リスクと脆弱性
ハブへの依存度が高いため、ハブの活動が停滞したり、離脱したりするとコミュニティが崩壊する可能性があります。
リーダーシップの継承や分散化が課題となり、メンバーが依存体質になりやすいというデメリットもあります。
ハブ型コミュニティの具体例としては、カリスマ的なインフルエンサーを中心としたオンラインサロンや、特定の専門家を中心とした勉強会コミュニティなどが挙げられます。
ハブ型コミュニティは、立ち上げ初期には効果的な構造ですが、長期的な発展のためには、メンバーの主体性を育み、徐々にメッシュ型へと移行していくことが望ましいでしょう。メンバー同士の多様な接点を生み出し、創発的なコラボレーションを促進するには、ハブ中心の構造から、メンバー同士が有機的につながるメッシュ構造へのシフトが求められます。
メッシュ型コミュニティの特徴
メッシュ型コミュニティは、メンバー同士が自由につながる網目状のネットワーク構造を持つコミュニティです。この構造には、以下のような特徴があります。
分散型の構造
情報発信や意思決定がメンバー全体に分散しており、特定の中心人物に依存しません。
メンバー同士が自由につながり、情報交換やコラボレーションを行います。
メンバーの自律性
メンバーは自律的に行動し、自らの興味関心に基づいてコミュニティに貢献します。
各メンバーがリーダーシップを発揮する機会が多く、能動的な参加が促進されます。
多様性と創発性
メンバーの多様なバックグラウンドや知見が交流することで、新たなアイデアやプロジェクトが生まれやすくなります。
予期せぬ価値の創発が起こる可能性が高く、イノベーションや創造性の源泉となります。
コミュニティの強靭性
特定の個人に依存しないため、メンバーの入れ替わりや役割の変化などの影響を受けにくく、コミュニティが存続しやすくなります。
メンバー間の密接なつながりにより、支援や協力といった社会性が促されます。
スケーラビリティ
コミュニティの規模が大きくなっても、メンバーが分散的に役割を担うことができるので、運営の負担は増えず一体感も失われにくいです。
新たなメンバーが加わることで、新しいつながりやネットワークが形成され、コラボレーションの可能性も広がります。
意思決定の複雑化
メッシュ型の構造では、意思決定にメンバーを交えた協議を要するため、時として決定プロセスが長引くことがあります。
多様な意見と合意形成の必要性から生じる複雑さがあるため、適切なガバナンスや合意形成の仕組みが必要となることがあります。
メッシュ型コミュニティの具体例としては、オープンソースソフトウェアの開発コミュニティや、分野横断型の学際的な研究コミュニティなどが挙げられます。
メッシュ型コミュニティは、メンバーの自律性と創発性を引き出し、持続的な価値創造を可能にする構造です。多様性と協力を重視する現代社会において、メッシュ型のアプローチがますます重要になっています。
ハブ型からメッシュ型へと移行する際には、メンバー同士の接点を増やし、自律的な活動を促進する仕組みづくりが重要になります。また、ハブの役割を徐々に分散化し、メンバーのオーナーシップを高めていくことも求められるでしょう。
次回へ続く…
コミュニティを抽象化して捉え、「ハブ型コミュニティとメッシュ型コミュニティの特徴の違い」という観点から分析してきました。
ハブ型が中央集権的で効率的である一方、メッシュ型は分散的で創発的であるという構造上の特性が明らかになりました。また、ハブ型はハブに依存するリスクを抱えているのに対し、メッシュ型はより強靭で持続可能なコミュニティを形成できる可能性を秘めていることがわかりました。
一方で、メッシュ型コミュニティは意思決定プロセスが複雑化するという課題も抱えています。この点については、適切なガバナンスやメンバーを巻き込む仕組みづくりが重要になるでしょう。
次回は、コミュニティがハブ型からメッシュ型へと進化していくメカニズムについて、掘り下げて分析していきたいと思います。
進化の過程では、メンバーのエンゲージメントを高める施策や、ボトムアップ型の活動を促進する場づくりなど、コミュニティデザインの視点が欠かせません。メッシュ型への移行を成功させるためのポイントを考察していく予定です。
また、ハブ型とメッシュ型を融合したハイブリッド型といったコミュニティの形についても言及できればと考えています。
コミュニティの可能性を最大限に引き出すには、その構造とデザインを理解することが不可欠です。次回以降も、コミュニティの進化について皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。
お楽しみに!
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