シェイクスピア「ヴェニスの商人」(1594年から1597年)
本編の面白さもさることながら、解説も含めて読むと、シェイクスピア作品がどうして現代にいたるまでの400年という時の流れで生き残ってきたのか、というのがなんとなく理解できた気がしてよかった。
タイトルになっている「ヴェニスの商人」はアントニオという男のこと。
彼は、友人のバサーニオのために借金をする。金を貸してくれたのは、ユダヤ人の金貸しであるシャイロック。借金をする際に、返せなかったら、自分の肉を1ポンド与える、という証文を書く。
アントニオの保証で借りた金を使い、バサーニオはポーシャという女性に求婚する。そして、ふたりは結婚することになる。
アントニオはすぐに金を返すつもりだったが、思わぬ事態になり、返済期間に間に合わなくなってしまう。
シャイロックはアントニオに肉1ポンドを求めて訴訟を起こす。
といった物語。
疑問だったのは、冒頭でアントニオが「おれの信頼があれば、ヴェニスで金を貸してくれるやつはいくらでもいるさ!」みたいなことを言うのだが、なぜかよりによってアントニオを憎んでいるシャイロックから金を借りてしまう。誰でも金を貸してくれるのではなかったのか。
また、シャイロックはユダヤ人なのだが、アントニオは思い切り彼を罵倒するし、全体的にユダヤ人の扱いというのが低い。キリストを殺した民族という宗教的な問題があるのだろうが、このあたりはキリスト教徒の闇だなあと思った。
ちなみに、本作は男性が美女に熱烈な求婚をして射止める、というのが中心になっている。結婚に際して「命を捧げます」みたいな誓いをたてるにもかかわらず、結果としては男の友情が優先される。このあたりの女性の扱いの軽さは時代性なんだろうか。
本編も面白いのだが、解説も面白い。
シェイクスピアの作品はいつもネタ元がある。どんなネタ元なのか、というのが書いてある。
自分の印象だと、シェイクスピアのネタの扱いって、ほとんどパクリとか盗作といったレベルなのだが、長い年月を経て誰もが知っているのはシェイクスピア作品のほうだ。
なぜシェイクスピア作品が生き残っているのか、というあたりが解説を読んでいるとわかる。つまり、表面的なプロットを追うのではなく、その行動をとる人間の心理を把握しているのだ。
これは現代におけるクリエイティブでも同じことだと思う。
うわっつらだけとりつくろっても、人の心をつかむことはできない。魂がこもっていなければならないのだ。
シェイクスピアはそれができたのだと思う。
これは大切なことだ。
シェイクスピアに限らずどの芸術作品でも、作者が生きたそれぞれの時代や場所に、考え方や時代背景といったものがあって、その中でそれぞれの作品が生まれてきた。だから、現代にはそぐわない考え方などはいろいろあって、そういうものに目を止めて、いろいろと考えてみるのも面白い。