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『うた新聞』2021年4月号

火は盗むものなれば今も盗まれて火に従はむと走れる人よ 大口玲子 聖火リレーとプロメテウスの神話を重ねて詠む。初句の言い切りがいい。聖なる火などと言うが、火は神から盗んだものではないのか?人間の智恵の象徴でもあり、狡猾さの象徴でもある火が手渡されてゆく。

校歌斉唱聴くのみにして唄はざるマスクの内の数百の口 月岡道晴〈だが新年度を始められぬまま、保育園に連れていけない子ども二人とひねもす過ごしていた三月から五月初旬は、今思えばたぶん人生で二度と得られない貴重な、濃厚な時間だったのだろう。〉

 学校の式典で校歌が流れるが誰も歌わない。歌うことを禁じられているのだ。普段の式典でも学生はあまり元気に校歌を歌うわけではないのだが、それでも禁止されると殺伐とした雰囲気になるのだ。エッセイも良かった。去年大学生は大学生活が味わえず気の毒だったが、教員側も大変だったことが分かる文。

 しかしエッセイ後半で、子どもと過ごした日々を肯定的に捉えている個所に出会い、救われる思いがする。子どもの側もきっと親が一生懸命関わってくれたことを良い思い出として持ち続けるだろう。人はその環境でしか生きられない。環境は選べないが、そこでの感情は自分で選べるのだ。

2021.5.8.~9.Twitterより編集再掲