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『塔』7月号(1)

コロナ禍の最中にありて顕るる国の背骨が法であること 藤江ヴィンター公子「特集感染症と短歌 海外レポート」より。ドイツのコロナ対策に、何より法が重んじられるところがいかにもと思った。そう思って掲載歌を読むと味わい深い。

 作者はこの掲載号を受け取られる前に逝去された。何年か前の塔の全国大会でお会いした時の笑顔が目に浮かぶ。心よりご冥福をお祈りします。

うつむける眼とふと遇ふ垣越しに目力のある白い椿と 立川目洋子 「うつむける眼」は作中主体の眼だろう。その眼が垣越しに白い椿の目と合った。椿の花の真ん中の蕊部分はそう言えば目のように見える。うつむく自分と目力のある白椿。椿が何か力をくれたのだ。

わたしもあなたも生きてるうちはやわらかい 春の光の中に出てゆく 上澄眠 初句が八音、大幅な字余りだが、それがやさしい穏やかな印象を与える不思議。上句全体のひらがな多用のせいだろうか。二句三句の把握が好きだ。やわらかいからまだ大丈夫、そんな読後感がある。

ゆうべルオン・ウンの映画をひとり観た炭酸水をときどき飲んで 荻原伸 ルオン・ウン、知らないが敢えて検索しない。アジアの映画監督か。名前がオノマトペのよう。酒ではなく炭酸水。結句の投げ出したような言い方や、ゆうべ・ひとり・ときどきの平仮名での設定がいい雰囲気。

ゴシックの語源に潜むゴート人剛直にして質実な文字 黒瀬圭子 ゴシックはゴート人の、ゴート風の、という意味。ゴシックというとまず直線的な建築を思い浮かべる。作者は文字のゴシック体を言っている。これも直線的。世界史の授業を思い出す。こういう知識情報系の歌もいいなあ。

タキトゥスは記せり 蛮族ゲルマンはただ自分みづからだけに似る 香川ヒサ 今回この歌を思い出した。短歌を始めて間も無い頃に買った『〔同時代〕としての女性短歌』という本に載っていて、とても気に入って記憶に残っている歌。シンプルだけど行間が深い。黒瀬の歌もそうだ。

何だってできると思ってた二十代の頃もあった それだけのこと 高橋武司 何だって/出来ると思ってた/二十代/の頃もあった/それだけのこと と区切った。促音の「っ」が印象的だ。結局何だって出来るわけでもなかったし、若さも過ぎてしまった。人生は「それだけのこと」なのだ。

純粋な悪意がみえてまつすぐなひとだとおもふ避けつつおもふ 西村玲美 真っ直ぐに純粋な悪意をぶつけてくる人。分かりやすいし、避けられるからある意味安全だ。悪意を全く見せずにとことん人を陥れる人に比べて、はるかに「きれい」だと思う。

2021.8.20.~22.Twitterより編集再掲