『歌壇』2021年4月号(3)
⑦吉川宏志〈身体的なリアリズムの歌は、長い時間が過ぎても残っていく感じがします。〉篠弘〈(…)人間関係と身体感覚というのは昔から主張してきた。ただそういう(戦争の)実体験をしろと勧められないからね(笑)。〉
吉川〈逆に実体験しても、普通の人はこういうふうに表現できないんんでしょうね。(…)言葉で深く表現できたのは、ほんのわずかな人だけなんでしょう。〉体験があり、言葉が体験を伝える、しかし、誰でもが深く表現できるわけではない。言葉と体験の関係はこれに尽きると思う。
⑧吉川〈身体で捉えた言葉が戦争の本質を見通していた、ということも、この本の大きな主題であるように感じます。〉〈(土屋文明は)もともとは陸軍の報道部からの依頼で中国の占領地を取材したんですが、(…)軍のプロパガンダを超えて、中国の民衆の力強さを浮き彫りにしてしまった。〉 篠〈情報局が期待していたこと以外のことが光っちゃったんだよね。〉写実、リアリズムに徹した時に、作者の意図を超えたものが出てくる。これが短歌の持つ深い力の一つだろう。
⑨吉川〈渡辺直己は、戦争映画を参考にしながら、虚構の歌を詠んでいるんですよね。これには批判もあるんですけど、ただ、自分という存在を外側から見る眼がないと、戦場の歌は作れなかった気もするんです。〉渡辺直己と虚構の問題は、今、もう一度考え直されてもいい時期と思う。
⑩篠〈「自由」って言葉がだめで、弾圧の対象となった。〉〈昭和十年代に入ると「自由律」が使われなくなる。〉 吉川〈「新短歌」と呼ばれるようになったそうで。〉この辺り、もうちょっと勉強したいと思った。
⑪吉川〈歴史書的な記述だと、その時代には高い評価を受けていたものを、多く取り上げざるをえない。しかし、後の時代になって評価が変わってくると、そうした書き方では逆に不十分な記述になってしまう。〉優れた物が評価されるとは限らないし、その時代の評価が続くとも限らない。
色々考えさせられた対談だった。それと、特集1ページ目の写真にちょっと驚いた。篠弘さん、お年を召されたな…。すばらしい本をありがとうございます。我々後進のため、益々ご健筆をふるって下さい。
⑫佐佐木定綱「皆川博子著『知床岬殺人事件/相馬野馬追い殺人事件』」書評 歌集や歌書じゃなく、どうしてミステリー小説の書評が載ってるんだろう。不思議。
2021.4.24.~25.Twitterより編集再掲