『塔』2021年5月号(1)
①名前には優しいルビをひと房をわけあふやうにあなたを呼んだ 澄田広枝 読みにくい字にルビをふる、そんな優しい気持ちで、さらに一房の果物を分け合うような気持ちで、あなたを呼ぶ。全て喩のようで、淡い優しさだけが伝わる。「を」の重なりが気にならない。
一連、全て良かった。自分もこんな歌が詠みたい。
②チューリップ開ききらずに乾きゆく大事にするってどうすることなの 大和田ももこ 人は安易に「大事にする」とか、ふわっと抽象的に言う。それってどうすることなのと問うと具体的には何も考えていなかったりする。下句の問いは自分に向けているのかも知れない。上句との付きが絶妙。
③囚われていたのはわたし冬木立見上げて去年の諍い思えり 芦田美香 諍いがあった後、何となく気まずくて以前と同じ応対ができなくなる。そんな時、相手が自分にわだかまりを持っていると思いがちだが、持っているのは自分の方だったりする。相手の言動が自分の鏡になっているのだ。
④鮒ずしにブルーチーズの好きな吾 外れて逸れて一人山いく 市居よね子 苦手な人の多い食べ物を好む主体。大勢から外れて一人山に登る。一匹狼的クールなカッコ良さ。激しい登山を淡々と詠んだ歌にも惹かれる。
⑤花束を抱きてゆきかふ 三月は好きがあふれてあかるくさびしい 森永絹子 出会いは四月、別れは三月に多い。別れ際に好きだったと告げたり告げられたり。明るくて少し寂しい季節。〈「娘が俳句をしてるのよ」まちがった個人情報を流しつづける母。〉エッセイにクスッ。あるある!
2021.6.15.~16.Twitterより編集再掲