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『歌壇』2021年5月号

この表紙の鈴蘭、可愛い。こんな横長なぷっくりした花なんだ。

体内に湖面いちまい揺らしつつ高飛び込みの動画を触る 田村穂隆 体の中で揺れる湖面、思わず手で触れてしまう動画。生々しい欲動が喩と実際の動作を通して伝わる。密度の濃い歌だが、水のイメージで清新にまとめられている。

串揚げの揚がるあいだを職務上知り得た秘密に相槌をうつ 松野広美 その秘密、串揚げ屋で語り合っちゃダメでしょ?とツッコミを入れたくなるようなところを掬い取って歌にしている。これダメなヤツな、と思いつつ、遮れず相槌を打っている。「あいだを」の「を」が効いている。

③篠弘「戦争と歌人たち」書評 屋良健一郎〈若い世代の自分が太平洋戦争をどのように教えられるか、悩んでいた。この(戦争と歌人たちの)連載と、同じ時期に読んだ菅野匡夫『短歌で読む 昭和感情史』とにヒントを得て、短歌を紹介しながら戦時下を講義することにした。〉

 この話はすごく難しい問題を含んでいる。確かに教える立場として、しかも実体験の無いことを臨場感を持って教えなければならない時に、屋良の言うことは説得力がある。屋良の実践は学びとその発展の良い例だ。ただ、生徒側が他のタイプの短歌にも、続けて興味を持ってくれたのかが気になるのだ。

「やつてやる」同室の人ふといひきカーテンの向かうそののちしづか 都築直子 骨折して入院した作者。病室で同室でも、カーテンを引いているのでどんな人か分からない。その人のつぶやき。何をするか不明だが、前向きな発言で無いことは確か。他人の心の闇に自分の闇が見えてくる。

2021.5.31.~6.1.Twitterより編集再掲