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『塔』2021年5月号(2)

案は出てそののち静まること多し策を支える人手が足らず 岡本潤 目が覚めるような案が提出されて、誰もがそれだ!と思ったとしても、誰がやるんだ、ということになると誰もやりたくない。みんな今の自分の仕事で手一杯だからだ。大いに期待された案が萎んでいく現実。

子のために費やされていく休日をあたりまえだと思えなかった 春澄ちえ 「あたりまえだと思え」という圧があるのだろう。子供が可愛いから楽しくないことはないんだけど、一人の大人として、休日の終わりに空しくなる感じはある。この感じが続くと子供に優しくできなくなってくる。

街燈の灯りの中に舞う雪は闇には見えねど髪を濡らしぬ 藤江ヴィンター公子 街灯の光の中では見える雪が、光から外れると目に見えなくなる。でも確かに存在しているから、主体の髪が濡れる。見えないけれども確かにあるもの。その存在の把握の仕方が具体的で実感がある。

やわらかき現実主義を受け継ぎてこの世をくぐる我は母の子 山﨑大樹 生活に関する多くを母から教わったと一つ前の歌にある。父は働くばかりで主体にあまり関わらなかったか、あるいは理想ばかり追う人だったのか。母から教わったことだけでこの世を渡っている。結句に寂しさがある。

⑩この世には余人をもって代えがたい人間なんていないよね、蟻 逢坂みずき 二句三句の大仰な言い方にユーモアが漂うが、言っていることはシビア。誰だって働き蟻と同じく、いくらでも代えが効く存在なのだ。自分の事を代えが効かないと思いたい気持ちを振り切って、蟻に同意を求める。

2021.6.17.~18.Twitterより編集再掲