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『塔』2020年5月号(1)
①永田淳「八角堂便り」〈川本千栄さんが、私が参加した去年の年間回顧座談会について、以下のやうにツイートされてゐた〉何と!私のツイートが八角堂便りの話題に!ありがたい。でもそのツイート、上手く言えてなかったようだ。一度ちゃんと書いてみようと思う。
②ドクターは「ああ、良いお顔」と手を合はせ看取りの日々をただしきものに 河野純子 看取りに正しいも正しくないもないのだが、ドクターの言葉で「ただしきもの」に思えた。というより「ただしきもの」になった。自分はこれで良かったのだ、と確信できた。静謐な感動を受けた一首。
③何歳になっても子ども 宅配の隙間にあまたお菓子を詰める 大森千里 ハイ(挙手)、私もやってます。本来の荷物よりも緩衝材という名のお菓子やらフライドオニオンやらカップスープの素やら布巾やら洗濯ネットやら・・・の方が多い。詰めに詰める!そんな小包を送っています。
④ちりりんと三日月懸かる 翼なきあなた腕なきわたしの空に 朝井さとる 詩情あふれる歌。三日月が小さな鈴のよう。あなたは飛べないし、私は腕を伸ばせない、そんな空に、澄んで冷えた音を湛えて月が浮かんでいる。豊穣祭七首、とても詩的だった。
⑤死は無といふこゑ肯へど寒の日の白き昼月あふぎ見るなり 杉本潤子 この歌の魅力は「ど」。前後にはっきりした因果関係が無いところが短歌。「白き昼月」は「無」と対照的に使われているが、明るい何かという程ではない、静かな存在。「寒」のちゃんとした意味、調べて初めて知った…。
⑥菓子パンのかす放りしが大寒のすずめ本気なり空(くう)にて獲(と)りぬ 篠野京 一年で最も寒い時期、「寒」のまん中に当たるのが「大寒」。1月20日ぐらい。「大寒のすずめ」は簡潔に時と状況を表している。「本気なり」の擬人化が面白いが、飢えた雀は必死なんですよね。
⑦要するに甘く見られていたのだろうストーブ消して出る会議室 芦田美香 会議の時に話が噛み合わない。向こうは何も歩み寄ろうとしない。言いたいことだけ言って相手方がさっさと部屋を出た後、片づけをしながら今の会話を反芻する。要はなめられていたということか。
⑧ぢいちやんは本当は猫の仲間だと動く耳みせ教へてやりぬ 安永明 じいちゃんに動く耳を見せられてびっくりする子供。目をまんまるにして見つめている。その後自分も一生懸命動かそうとしてみる。そこへじいちゃんが言うのだ。ダメだよ、お前は猫の仲間じゃないから・・・。
⑨のぞいたらおそらく見える傷のこと河と呼ぶのは傲慢ですか 小田桐夕 仕事をやめたがっている相手。心を覗き込んだらその人の傷が見えるかもしれない。でもその苦しみを自分の傍を流れている河と思いたいのだ。相手を理解することにはならないと分かっているけれど。
⑩ガレージに学習机の並びをりサッカー少年のふたりゐし家 竹尾由美子 家の前でサッカーの練習をしていたのだろうか。でもいつの間にか彼らは少年ではなくなり、今は学習机が不用品としてガレージに置かれているのが見える。もちろん作者の上にも歳月は流れたのだ。
2020.5.18.~25.Twitterより編集再掲