あんみつの郷愁
透明な寒天。
ゼリーよりもしっかりしているけれど、するりと歯が通る。味のあるような、ないような不確かさが、いい。
あんこの、コクがあってこってりしているようで、すっと溶ける味わいが合うから。
みつ豆がホロ、とキュッの間みたいな、噛み応えのアクセント。
添えられた缶詰のみかんが、さっぱりした水気を与えてくれる。
ふわふわしたぎゅうひの、もっちり感が舌を新鮮に戻してくれる。
そしてアイスクリームをひと口。ひんやり、トロリ。
全部を包み込んで、溶けていく・・・
幼いころ、あんみつを食べたことがなかった。
母が食べさせてくれなかったのか、デパートなどで私が選ばなかったのか。
北海道の、私の住んでいた近所にはあんみつを出す店がなかったのかもしれない。
東京の引っ越し先の駅に、甘味処があった。
「甘味処(かんみどころ)」を何と読むのか知らず、中学生なのにずっと「あまみどころ」と呼んでいた。
今も時どき「あまみやさん」といってしまう。
ある日、珍しく母が買い物に誘ってきた。
近所で見てほしいものがあるという。
アクセサリーだったが、悩んだ末に買わず、日常の買い物をして帰る途中。
「荷物が重いわね。寄っていく?」
そこが「甘味処」だった。
当時、父は単身赴任という名の別居で、母は営業で必死に働き始めた時期だった。離婚準備を考えていたのだろう。
そんな余裕のない母から、甘いものに誘われたのが久しぶりで、驚いてうなづいた。
そこで食べた、あんみつ。
食べなれていない味だな、と思った。
冷たいものとあんこ、というのが初めてだった気がする。
でも、あんこ、寒天、果物、ぎゅうひ・・・そのリピートが気に入って。
なんだか郷愁をそそる味だな、なんて思ったのだ。
生意気にも。
初めてなのに。
中学生なのに。
そのお店の横を通るたびに、「また入りたいな」と思ったけれど、入る機会のないまま、日が過ぎた。
やがて父と母は離婚し、私は一人暮らしを始めた。
家は売られ、その町から遠ざかった。
私は別の店で時どき、あんみつやみつ豆を食べるようになった。
大学時代、女友だちとのおしゃべり。
でもいつもはお茶とケーキで、あんみつは1,2度だ。
やがて。
働き始めて。
ひとりで。
東京国立博物館の帰りに、上野のみはし。
それが一番多いかもしれない。
この日は抹茶あんみつ。
フルーツあんみつも、好き。
ソフトクリームのもおいしい。
あんずもいいよね。
迷うのが楽しい。
小学生のころの息子とも来たら、喜んで食べていた。
でも「また来ようね!」とはいわなかった。
ガリガリ君で、いいみたいで。
寂しいような、よかったような。
そんな息子も好きなマンガ『3月のライオン』(羽海野チカ)に出てくるあんみつ屋さんのシーンが大好きで、何度も読み返してしまう。
アンズ、白玉、練乳、栗、生クリーム、バニラと小豆のアイス・・・トッピングをどんどん載せていく・・・!
棋士・零くんからのごちそうなので、姉妹は思い切り、のせ放題💕
きゃ~~!
やってみたいけれど、もう食べる自信がない。
でも一度くらい、白玉と、あんずとか・・・のせてみたいな。
ささやかな、甘い夢💕
※イラストはピノコマルさんからお借りしました。ありがとうございます💕