川あかり 葉室麟

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歴史小説を読んで笑えたのは初めて。葉室氏のユーモアがあふれている作品であり、読んでいる間は歴史小説というよりも吉本新喜劇の人情モノを見ているような錯覚に陥った。

舞台は巨勢川。同じ名前の川が筑後には存在するが、その名前を使ったものと思われる。主人公は、伊東七十郎。綾瀬藩で一番の臆病藩士と噂されるという設定。どういう訳か、藩命により刺客として家老を撃つ役割に抜擢される。その巨瀬川は雨のために川が増水していて渡ることができず、足止めを食らう。しょうがなく言われるがままに泊まることとなった川側の木賃宿。ここでの出会いが七十郎の人生を大きく変える。

人の人生は誰と会うかによって大きく違ったものとなるというのがテーマ。一方で、こうも思う。「今の自分の要因は自分自身であり、他の人ではない。自分自身の行動と言葉が自分自身すべてを創り出している」。相反するような考えだが、他の人との出会いも実は、自分自身が創り出していると考えている。

そんなに肩ひじ張らずとも、人との出会いは、自分の考えをより深くできるし、人の考えも深くできる。自分だけで考えてもどうしようもないことが山ほど人生には転がっている。だから、他の人の助けがいる。

時代小説の面白さを求めるとがっかりするかもしれないがそれを上回る面白さがある。粋に笑って人と出会うことが出来るようになる一冊。

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