辛夷の花 葉室麟
葉室氏の小説は、清々しい読後感が得られる。この小説にもそれを期待して手にしたが予想に違わず清々しい気分を得られる。「辛夷の花」の花言葉は友情、友愛、愛らしさだが、子どもの手の握りこぶしにそのつぼみが似ていることからも名づけられている。その「辛夷の花」は何を意味するのか。
主人公は、豊前小竹藩勘定奉行の長女、志桜里(しおり)。こちらも花にちなんだ名前でなんとも穏やかな名前。志桜里は嫁いで、3年経つが子どもが出来ずに離縁され実家に戻っている。その実家の隣に越してきたのが「抜かずの半五郎」と呼ばれる藩士。この二人を中心に物語は進んでいく。
二人ともなんとなく惹かれていくが、心の内をどうしてもお互いに打ち明けることが出来ずに時間が過ぎていく。そうしているうちに志桜里の父、勘定奉行の澤井庄五郎が藩の権力闘争に巻き込まれ、半五郎そして澤井家自体がその渦に巻き込まれていく。争いの中で、抜かずの半五郎はついにその刀を抜く時が来る。大切なもの、志桜里と澤井家のために。
その戦いを切り抜けるにつれ、二人の心も漸く開いていく。ちょうど辛夷の花が固く閉じた蕾から、華やかな真っ白な花となるように。その花だけをイメージするだけでも、どれくらい清々しい気分になるか想像してもらえるのではないか。歴史小説ではあるが、時代設定がそうであるだけで、細やかな人間模様は現代よりも繊細だ。時代小説は男性が中心だが、葉室小説では、女性を描いた作品も注目したい。
歴史小説は面白い!
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?