潮鳴り 葉室麟
読書は、同じ作者のものを一度に複数読むことが良い。作者の特徴が非常によく理解できるからだ。
葉室氏の作品の中でも泣かせる作品。しかも、激しく泣ける。一方で、切なく、さわやかで、晴れ晴れとした余韻が残るのがこの作品のすばらしさ。主人公、伊吹櫂蔵(通称:襤褸蔵)の人生再生物語であり、お芳の再生物語。必ずしもうまくいくことばかりではないのが人生。むしろうまくいくことばかりの人生を送ることが出来た人などいるはずもない。そんなうまくいかないときに読むことで思い切り涙し、清々しさをもう一度取り戻したい人にはお勧めしたい。蜩ノ記よりもこちらのほうをお勧めしたい
主人公は、伊吹櫂蔵、豊後羽根藩がその舞台。役目をしくじりお役御免となり、弟に家督を譲り漁村で雨露をようやくしのぐことが出来る程度の襤褸家に住まう。実家より多少の金銭をもらうが、それもその日のうちに酒色に使ってしまうという荒れ様。ついたあだ名は「襤褸蔵」。
主な登場人物は、俳諧の道を進む「咲庵」もとは三井越後屋の大番頭。櫂蔵が酒を飲む時に女中を務めていた「お芳」、櫂蔵とも懇ろの仲になる。彼らも櫂蔵と同じ落ちた花であった。
家督を継いだ弟、新五郎は新田開発の奉行並みに取り立てられるが、切腹させられる。弟の遺書を読み、博多の播磨屋庄左エ門と井形清左衛門の企みによって、切腹させられたことを理解する。ここから、櫂蔵の生まれ変わりが始まる。そして、咲庵、お芳の生まれ変わりも始まる。
生家の継母の染子は、戻ってきた櫂蔵、お芳、咲庵を当初は毛嫌いするが、その働きぶりと、噓をつかないお芳を認め心を通わせていく。
そんな充実した日常も井形清左衛門の行動によりお芳は、自死を選ばざるを得ない状況に追い込まれる。ついには自死を選択する。櫂蔵は悲嘆にくれ、井形を殺害しようとするが染子に叱責される。染子は藩主兼重の母である妙見院を通じて井方を誅するよう仕込んでいく。
櫂蔵は弟小五郎、お芳の仇をとることが出来るという勧善懲悪的なストーリーだが、その間にも様々な話が織り込まれ、最後には「潮鳴り」をタイトルとした理由も理解できる。
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