引用とはどこまでか。「ゲームプレー動画無断公開で逮捕」のニュースを見て思ったこと
「いつか捕まると思ってた」と言ってしまうのはカンタンですが、どこまでならセーフなのかについて、貴方は答えることができるでしょうか?これはゲームを語るすべての人にとって他人事ではない出来事です。
「ゲームプレー動画無断公開で逮捕」事件のあらまし
ざっくり言うと、ゲームやアニメのストーリーを編集したり解説を加えたりした動画を著作権者等に無断でYouTubeに配信した者が著作権法違反の疑いで逮捕された事件です。
いくつかのニュースサイトを見たところ、この違法配信のターゲットとなったタイトルは「シュタインズ・ゲート」、「比翼恋理のだーりん」、「SPY X FAMILY」など。立件対象となっている動画は削除されているとのことですが、氏のYouTubeチャンネルは現時点(2023年5月25日)でまだ残っている模様。リンクは貼りませんが興味ある方は「うさぎとびチャンネル」で検索してみてください。
「うさぎとびチャンネル」のケースに関して言えば、「体験版やプロモーションムービー以外の公開は認めていない」とアナウンスされている作品の動画が「ゲームのオープニングからエンディングまでがすべて映っていた」というのだから、まぁそりゃ逮捕もされるやろという感想しかありません。しかしながらこうしたプレー動画の摘発は全国で初めてだそうなので、そういう意味では世間的な注目を集めた事件と言えるかもしれません(少なくともゲーム画面を配信したりするような方は注目したでしょう)。
余談ですが、名古屋市千種区の人を何で宮城県警が逮捕したのか、私自身はそっちの方が気になっていたりします。
昨今のゲーム動画公開を巡る状況について
件の方がやり過ぎなのは論を待たぬところですが、じゃあどこまでだったらいいのか。例えば前述したケースだと「体験版やプロモーションムービー以外の公開は認めていない作品」って書き方がされてるから、逆に言えばそこに留めた使い方をするならOKと受け取ることが出来ます。
ここ近年はYouTube等における「実況動画」というジャンルの登場に伴い、メーカー側がコンテンツの公開についてとても寛容になっています。例えば任天堂の例を挙げますと…。
例示をあげていくとキリがなすぎるので気になる方は各々調べてほしいのですが、昨今のゲームメーカーの多くはコンテンツ公開に対する何らかのガイドラインを定めております(包括的に書かれていることもあれば、作品ごとに異なることもあります)。
こんな風にメーカーがユーザーに対しておもねることは昔だったら考えられませんでした。昨今になってこんな風にメーカー側が態度を軟化させてきた背景のひとつにはYouTube等がもたらした「実況動画」という文化の販促的な有用性が広く認められるようになった実情があるでしょう。
メーカーや作品によるとは言え、我々はそこについてはかつてないくらい恵まれた時代を生きていると言えます。何もわざわざ違法に手を染めずとも、私たちが好きなゲームについて語り、広めることについてのハードルは昔に比べてずっとずっと低くなっているのです。
▲私が自身のnoteで書かせていただいた「メメントモリ」(バンク・オブ・イノベーション)では、一定の条件はあるもののプレイ動画も画像も自由に使用して構わない旨が公式によって記されています。
昔はどうだったの?
昔はこうでした。
手元にあるゲームパッケージの中からとりわけ画像や動画の使用・配信について記載があるものを探してみました(ちなみにここに挙げた3社はいずれも現在では動画掲載などについてのガイドラインを定め、公開していることを付け加えておきます)。
もっともここまで明記してあるケースはまれで、実際には画像や動画の使用について何も書いていないことの方が多かったです。当時はそれよりむしろ違法コピー問題の方にメーカーの目が向いていたためかもしれません。
ともあれ、全体的な傾向としてこうした行為が歓迎されていなかったことは確かです(これは私の肌感覚なので、異論ある方もいるかもしれません)。加えて現在で言うスクショという概念もなかった当時、ゲームの画面を記録するためには画面を撮影するしかありませんでした(これを「ガメシャ」と呼んだりしました)。これらの理由から、総じてゲーム画面を他者に共有するという行為に対するハードルが現在に比べて高かったのです。
どこまでなら許される?「引用」という概念
さて、私たちが任意のゲームをプレイして「このゲームを紹介したい」とか「このシーンを自身の記事に流用したい」と思ったとき、どんなことに気を付ければ良いでしょうか?
メーカーがあらかじめガイドラインなど示してくれていれば良いのですが、そのようなケースばかりではありません。特に昔のゲームなんてほとんどそのような記載がなされていないことがほとんどです。著作権者に問い合わせしようにも、メーカーが既に存在せず誰が権利を持っているのか分からないことも多いです。さぁどうする?リスク承知で黙ってやっちゃう?ねぇねぇどうするの?どうするの?
ご安心あれ。実のところ私たちがゲーム画面を紹介したり流用したりする権利は法律で保障されています。良かったねぇ。
ということで、著作権法内「引用」の項目から引用させていただきました。
(ダジャレじゃないよ)
この法律の注目ポイントは「公表された著作物」と定義されていること。つまり「動画」「画像」「文章」等のジャンルによる縛りがありません。Oh!何て懐の深い法律!!
(ここで鋭い方は「…え?文章や画像はともかく、動画ってそもそも引用って概念が成り立つの?」という疑問を持たれる方もおられるかと思います。私も実際そこは疑問だったのですが、調べてみると「動画の引用」が適法と判断された判例があるようです。これについては書くと長くなるので、以下のリンクをご参照ください)
…とは言え、ことはそれほど単純でもないのですよ。
このように適用範囲の広い「引用」という概念ですが、後半部分の制約が気になります。「公正な慣行に合致するもの」とか「引用の目的上正当な範囲内」って具体的にどういうことなんだろう?
そう、まさにここが最大のポイントであり争点となる部分です。「公正な」とか「正当な」ったって、その正しさは誰が定義するの?正義なんて人の数だけあるんだよっ(おぉっ!)と思わず名言が飛び出しちゃう次第でございますが、実際「それが引用かどうか?」の線引きは難しく、しばしばそこが争点となる部分だったりするのですよ。
ということで、この「公正」「正当」を巡り、幾多の歴史を経てこの「引用」法律にはいくつかのガイドラインが記されました。まずは最も説得力があると思われる文化庁からの発信を一部引用します。
先の条文に比べるとだいぶ具体的になってきました。このうち(2)と(4)はそのようになっていれば良いので難しくないのですが、さらに疑問を挟む余地があるのが(1)の「必然性」と(3)の「主従関係」ですよね。
(1)の「必然性」っていうのは、つまり「コンテンツの成立にその引用が必要不可欠であるか否か」ってことなワケですよね。うーん難しい。だって何をもって必要不可欠と見なすかなんてそのコンテンツを作る人次第ですもの。この基準が原作者と引用者で著しく異なると、最悪最後は裁判所で会いましょうって結論になっちゃうわけで。
(3)の「主従関係」は、引用を行なった結果、その引用元の方がメインになるようなコンテンツ作ったらあかんよということです。なので丸パクリは論外。今回逮捕された事例はこれに当たるワケですね。
ただねぇ…引用元と自分のコンテンツ、どっちが主でどっちが従かっていうのも、これまた作者のサジ加減になっちゃいます。ほとんど引用して「私はこう思う」って感想を最後に付け加えただけのコンテンツを作って「メインは私の感想だから!」って言っても「お前それは無茶やろ」ってなると思いますが、「じゃあ引用部分と自身のコンテンツどの比率ならいいのよ」ってところは、これまた争点となり得るところです。
このように「どこまでならいいの?」はどこまでも終わらない根が深い問題です。ゆえに本稿でも「ここまでだ!」と言い切ることができません。
この沼はキリがないので、最後にゲーム関係の引用については最も説得力があると私的に感じている「ゲーム保存協会」の基準を紹介して本章を締めくくりたいと思います。
ゲーム保存協会 著作権法における引用について
https://www.gamepres.org/media/contents/fairuse/
さすがゲームに関するコンテンツを専門に扱う団体だけのことはあり、基準をより明確化しようとする意志が文面から伺えます。それでもなお何か言われたときの可能性について言及せざるを得ないことが、本件がいかに難しく厄介な問題であるかを物語っていると感じます。
私のnoteではどうしているか
このような問題の難しさから、私のnoteでコンピュータゲームについて書くときは割と慎重です。ここでは過去にアップした記事について、ひとつひとつ解説(言い訳)していきます。
本記事においては前後編で4つのゲーム作品を紹介しているのですが、そのビジュアルはすべてコンシューマゲームのパッケージから採用しています。これは以前に私が自作のWebサイトを作る際に弁護士の方に相談し、いただいた回答が元になっています。
弁護士の方は「違法性」はないと言ってくださりましたが、これがアウトかセーフかは著作権者によって受け止め方が異なるであろうということも承知しております。いまからでもご指摘があったなら対処いたします。
任天堂については前述した通り、「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」にて
と書いてあるので、ゲーム画面の引用については問題ないと思っています。
むしろここで問題になりそうなのはYOASOBIの「夜に駆ける」の権利の方なのですが、YouTubeに演奏した動画をアップすることについては何とJASRACが認可しているのです。抜粋しますと、
ということなので、いわゆる「演奏してみた」系の動画は大丈夫というわけなのです。こういうのも調べてみるものですね。
今だから言ってしまいますが、この記事の主旨はオリンピック批判です。コロナ禍全盛期の当時、国民に感染対策を強要し、学生の修学旅行も運動会も制限していたさ中に、諸外国から大勢の人を流入させるオリンピックを時の政府が強行したことに対する抗議の意味を込めて書いた、私にしては珍しい時事エッセイです。
この記事のタイトルに1画面だけ写真を使いました。またキャラクターの台詞をいくつか引用しています。これを公開するにあたって実は相当悩んだのですが、引用している部分はゲームの中におけるワンシーンのみで、先に述べた「主従関係」を鑑みてもこれは引用で通るだろう、と思い公開に踏み切りました。文章の主旨から言っても、私にはこの例え話が最も自身の思想を適切に語れる~すなわち「他人の著作物を引用する必然性がある」と思ったのです。興味のある方はぜひご一読くださいませ。
余談ながら私は今もあのオリンピックを強行した奴等を許しませんし、支持することもありません。選手たちには何の罪もないのですけれどもね。
note有志によって行なわれている俳句大会のタイトルが「白熊杯」だったので、「ソーサリアン」というゲームに登場する「ホワイト・ベアー」という敵キャラについて掘り下げた、言うなればネタ系記事です。
この記事はゲーム画面を見せないとその面白さが伝わらないと思い、割と思い切ってガメシャを使いました。ただし使用しているのは作品内の「氷の洞窟」というシナリオの1場面のみで、それも記事中の「ホワイト・ベアー」を解説するという唯一の目的による使用なので、これは引用で通るだろうと思っております。一応記事中には以下のような断りを入れました。
現時点でのchitoseArkのnoteからは以上です。
私のことを良くご存知の方からすれば、意外とコンピュータゲームについて取り扱った記事が少ないのに驚かれたかもしれません。
それもゲームを真っ向から紹介した記事というのがあまりありません。
それが何故なのか、ここまで読んでくださった方なら自ずと明らかだろうと思います。
本当はもっとゲームのこと語りたいよ!!
本当に!
語りたいゲームがたくさんあります!!
古くなった作品であっても、語り方次第ではまだまだ新たな輝きを見出せる可能性が、それこそ宝の山くらい眠っているのです。
ガイドラインが定められた新しいゲーム語ればいいじゃないかって?
うーん、でもそれはみんな語るでしょ?
語るだけじゃなくて!!
それこそ、私だってゲーム配信動画とかやりたいよ!!
私、それこそ誰もアップしてないような過去作品の紹介とか攻略とかの動画作れますよ?
(本業はデジタルサイネージのコンテンツ屋さんなんだから)
しゃべりは自信ないので実況は難しいかも知れんけど。
だけど「引用」という概念の取り扱いの難しさがここにブレーキをかける。
「これは引用で通る?通らない」
「どこまでならやっちゃってOK?」
私の創作活動はいつもここと戦っています。
たとえば「電子工作マガジン」の紹介記事にしても、ゲームマーケットの取材記事にしても、それぞれ関係者やスタッフの方に様々な方法でお伺いし、なるべく問題が起こらないように取り計らっています。
これでもほら、かつて商業誌で記事書いてた人間なので。
私が何かやらかして古巣の編集部に泥を塗るようなことがあったらとか思うと、軽率な行ないはなかなか出来ないわけですよ。
(もう十分に泥塗りまくってるって噂もありますが)
とは言え、先の写真に挙げたような旧き作品群はその時代を知っている者として、何らかの形で残しておきたいなっていう気持ちがあります。特にゲームプログラムは、ロードして実行する者がいなくなってしまったら文字通り過去の遺物と成り果ててしまうので。
コンピュータゲームを第三者に分かりやすく紹介しようと思ったら、どうしたってある程度は画面を見せないと伝わりません。文章で伝えるには限度があります。富士山の山頂から見える景色をどれだけの口上で語ろうとも、その光景を見せずして登ったことがない人に共有するのが不可能であることを考えれば、このことはご理解いただけましょう。
これまで私がやってきたような「記事の図解としてゲーム画面を掲載する」くらいであれば、引用で通るかと思います。
でも、そのゲーム作品をガッツリ紹介するとなると、やっぱりそれなりに画像を使うことになるし、場合によってはゲーム内の文面やキャラクターの台詞だって掲載することにもなるでしょう。
これははたして「他人の著作物を引用する必然性がある」と見なしてもらえるでしょうか?
著作者から「お前なんかに俺の著作物を引用される必要なんかねえよ」とか言われない?
それに「自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること」についてもどうなんだろうって考えてしまいます。
「ある任意のゲームを紹介する」っていう意図で書かれた文章は、図らずも引用する著作物の方が主になってしまわないだろうかと。
そしてそれを著作者や出版社に確認するのは極めて困難です。このことが、noteにゲームの紹介記事を書くという行為をことさら難しくしています。
ましてや紹介動画をYouTube等に挙げるとかなおさらでしょう。
私のこういう考え方が固すぎる、自分を不必要に縛り過ぎているっていうことは、私自身も理解しています。
実際にやったところで、ほとんどの場合どこからも文句なんて言われないと思ってます。
ただそれでも…どうにも一歩踏み出せないんですよね。
ネットにゲームの紹介記事や紹介動画をあげている方々を非難したりはしないけど、私はどうしてもそこを考えてしまう。
(それ引用で通るのかな?)
(その画像、載せちゃっていいの?)
(その音楽、使用許諾取れてますか?)
これはもう、ライター時代から何十年もコンテンツの世界で仕事をし続けてきた私の職業病みたいなもの。何ひとつ使うのにも、必ずその使用許諾条件を調べる癖がついてしまっている私のアキレス腱です。
悪癖だって、自分でも分かっているのですけれどもね。
今回の「ゲームプレー動画無断公開で逮捕」のニュースを見て、他人事には思えない私がそこにいます。
「いつか捕まると思ってた」と言ってしまうのはカンタンです。
ですが、私のこの「ゲーム作品を紹介したい」欲も、実行してしまえば件の作者と何ら変わるところはありません。
せいぜい「やり過ぎかそうでないか」程度の差でしかないでしょう。
そしてその境目がどこかは、著作者にしか分からないのです。
長々と書きました。万人が納得できるような結論はありません。
私に言えるのはせいぜい「お互いそれなりに気を付けましょうね」くらいのものです。
ほら、油断してると貴方の行く手に著作権が…。
(了)