レトロゲーム保存の意義~「音楽熱想」サイキック(斎藤滋&菊田大介)回より
いつも話題を拾わせてもらってる「音楽熱想」より今回もネタを拝借。音楽を熱想する番組なのに、今回はレトロゲームの保存問題について熱く語っておられます。レトロゲーム愛好家の皆様は聴いてみると良いかもです。
「音楽熱想」とサイキック(斎藤滋&菊田大介)について
「音楽熱想」とは音楽制作会社の株式会社ハートカンパニーがstand.fmにて提供しているトーク番組。サイキックとは音楽プロデューサーであり同社の社長である斎藤滋氏とアニメ楽曲等の作曲家として知られる菊田大介氏というお二方の呼称です。基本的に土曜日の「音楽熱想」はこのサイキック回としていろいろな雑学や日常系含めたよもやま話をされています。
今回の「音楽熱想」は「レトロゲーム熱想」!
放送前半は「かまいたちの夜」について熱く語っていたりするのですが、話題はそこから「このタイトルって元はスーファミだけど、2023年の現在ではどのプラットフォームで遊べるのか?」という話題になっていきます。
日経記事、動き出す「ゲーム救出作戦」とは
そんな記事日経が書く?ホントにっ!?と思って検索してみたところ、どうやら本当に書いていたようです。
いやそれにしても流石は第一線級のマスコミ。キャッチーなワードを用いてきたものです。ゲーム関係のテキストで「腐食危機」なんて言葉初めて目にしました。
実際にレトロゲームがプレイできなくなる要因は腐食だけじゃありません。フロッピーディスクなら劣化するし、テープは伸びるし、それに肝心の読み取る側の機器がつぶれることだっていくらでもあります。ROMカセットなら腐食もあるでしょうし、ディスクドライブやデータレコーダーの場合はモーター系の故障、光学ドライブの場合はレンズ部分の障害などが故障原因として目立つ傾向にあります。
斯様にコンピュータゲームの動態保存は難しいのです。先日私のnot事で赤松健議員の推進する「過去のゲームの合法的保存」について書きましたが、今回のサイキックお二方によるレトロゲ熱想はこのことをリアルな目線で言葉にしたものと言えます。
で、国はこれに対してどんな救出作戦を考えてるのか。先ほどリンクを貼った記事によれば、
とありますが、これって前述した赤松議員が主張している内容と被ります。するとこれ、実現妥当性が高い政策ということか…。私的には国会図書館に保存も良いけれど、やはり発売時の形そのままで動態保存するのには限界があると思うので、赤松議員が主張するようにエミュレータの使用も視野に入れるのが最適解であるように思うのですけれども。
日本はゲームアーカイブ保存後進国!?
この会話に出てくるアメリカのストロング博物館とは、正確には「ストロング国立遊びの博物館」(Strong National Museum of Play)という名称の施設で、およそ26,200平方メートルの規模の中にほとんどありとあらゆる「遊びと呼ばれるもの」を詰め込んだ広大な規模の博物館です。
いわゆるコンピュータゲームだけではなく、ピンボールなどの筐体ものや、ボードゲームの類、その他さまざまな遊びや玩具、趣味に関する様々なものを貯蔵しているというから、それもういったいどのくらいの規模なのか想像すらつきません。日本のゲームソフトがどのくらい貯蔵されているか、気になるところですね…。
もうひとつ取り上げられているドイツのライプツィヒ大学について。
上記のリンクは我が国の国立国会図書館のサイトですが、その中の「カレントアウェアネス-E」(図書館及び図書館情報学に関する最新ニュースを提供するメールマガジン)における「ライプツィヒ大学におけるゲーム保存・学術利用の試み」にて次のように記載されています。
何とこの大学における日本製ゲームのアーカイブ4,500本は日本から寄贈されたものとのこと。そのいきさつが気になるところではありますが、その資産を活かし「所蔵ゲームの目録作成,学術目的のゲーム記述作成,ゲームを図書館で利用するための環境づくり」とやらを進めてくださっているのは有り難くもあり嬉しくもあり。
ただまぁ、こう言うとナショナリスト的な発言になるんでしょうけれども、「何で日本でやらないのかねぇ?」。
そう、斎藤さんもそこを言っているんですよ。本来日本のゲーム資産は日本で守るべきじゃないのかって。そこを海外に任せてしまっていると、それがひいては観光資産の流出という問題にも繋がるんじゃないかって。アキバのゲームショップで売るのもいいけれど、一方で我が国が誇るコンテンツ産業のアーカイブとして、これらの「所蔵ゲームの目録作成,学術目的のゲーム記述作成,ゲームを図書館で利用するための環境づくり」も進めていくべきなんじゃないんですかね?
ベーマガ(電波新聞社刊)でもゲームアーカイブ的な試みがあった
余談になりますが、我が国(というか私が以前お世話になっていた雑誌)でもこういうのが行なわれていたのですよ。
これは電波新聞社から発刊されていた雑誌「マイコンBASICマガジン」(略称「ベーマガ」)にて行なわれていたゲーム記事企画のひとつ「SUPERSOFT HOT INFORMATION」。本誌発刊前後の月に発売されるゲームを機種別にほぼ総ざらいして紹介するものなのですが、特筆すべきはそのデータベース的な細かさです。
発売されるすべての機種のゲームに対し、このように発売日、メーカー名、ジャンル、価格、容量、そして内容をこと細かに記しているのです。
このコーナーは本誌内に掲載されていたときと別冊付録になったときを通算すると1990年4月号~1998年6月号までのおよそ8年間に渡って存在していたようです(情報:「ALL ABOUT ベーマガ」サイトより)。ベーマガがこのような連載をずっとマメに続けてきたのは、まぎれもなくコンピュータゲームのデータベース的なものを残すためだったと思われます(少なくとも私はそう信じています)。このクラスの情報保存が発売されたゲーム全部に対して行なわれ、そして今後もアップデートされ続けるのであれば、それこそライプツィヒ大学が言うような理想の目録に近付くのではないでしょうか。
レトロゲームを巡る権利問題
それでは「音楽熱想」のトークに話を戻しますね(もはやどの辺が音楽の番組なんだろうって感じですが…まぁそういう番組なんです)。
私もこないだ自分とこのnoteにこんな記事書いたんだけど。
過去作品のアーカイブに触ろうとするとき、避けて通れないのがこの「権利問題」です。例えばそれについての記事を書くとか、それのエミュレーションプログラムを作成するとか、それを収益が発生するような施設に展示して誘客目的に使用するとか。何にせよそのような際には、そのコンテンツに関する権利保持者にお伺いを立て、許諾を得る必要があります(引用で通る記事の場合は必ずしもそうではありませんが、それがとても危うくて曖昧な概念であることは上のリンク先記事に書いた通りです)。
これね、権利保持者が分かっている場合は良いのですよ。金額や契約が発生するにせよ、話を進められる余地がありますから。だけど、ここで斎藤さんや菊田さんが言ってるように「つぶれちゃったとこ」ってどこの誰がこれの権利持ってるのか。追いかけようがないケースもあるのですよね。
ここで、「え?でもどんなゲームにも作者がいるんだから、会社がつぶれてても作者に聞いたらいいんじゃないの?」と思ったそこの貴方。「作者」っていったい誰のことだとお思いで?まさかプログラマーがひとりでそのゲーム作ったとか思ってないでしょうね?(昔のゲームならそういうケースありましたが…)ゲームのエンディング見れば分かりますが、ひとつのゲームにどれたけのスタッフが関わっているか。もしかするとそのゲームの権利は、そこに刻まれたひとりまたは複数人が持っているのかも知れません。
さらに言うと、そのゲームに原作者がいたりする場合はゲームプログラムと原作で別々に権利が存在していたりすることもあるのですよ。それも絵はこちら、物語はあちらみたいに権利関係が複数に絡まっていたりすることだってあります(俗にいう「権利グチャグチャ」って奴です)。こういうのメーカーが存在すればまだいいのですが、そうでない場合は大変でしょう。誰しも権利グチャ×2には関わりたくないので、こうしたややこしそうなネタのアーカイブは難航しそうだなーって気がします。
斎藤さんも菊田さんもそれぞれ音楽業界でコンテンツを取り扱っているだけあって、こうした権利関係を巡るしんどさは骨身に沁みている模様。それだけにこのお二方の「大変」という発言は大変重いのです。
レトロゲーム保管サービスに物申したい!
気持ち分かる~!!めっちゃ分かるわ~!!
だから私はこうした「過去のゲームがプレイできる」サービスがあっても、よっぽどやりたいゲームがない限り手を出しません。
パソコンゲームのプロジェクトEGG的なやつだったらまだプラットフォームがWindowsなので良いのですが、結局そこがハード依存になってしまうと、本当にそれ永遠なのかな?ってなってしまう。それに結局サブスクって自分のものになるわけじゃないから、それにお金を払い続けるのってどうなのかなぁって思っちゃったり。
そうなると私の場合はどうしても「実機を大事に取っといてあるからこっちで遊ぼうっ」ってなっちゃうわけでして。
あと斎藤さん菊田さんが仰っているように、ここでもまた「権利処理」という問題の影がチラついていたり。
そう、なので先に挙げたプロジェクトEGGにしても、微妙に遊びたいゲームがエントリーされてなかったりするのですよね…。全部選びたい遊びたいっていうのはそりゃワガママに過ぎるかもだけど、でもゲームアーカイブの保存って言ってみればそこを目指すべきじゃ…ないのかなぁって。
言い続けましょう、こういうことは
この後も斎藤さんと菊田さんのゲーム熱想は続いていきますので、気になった方はぜひ放送を聴いてみてください。後半では斎藤社長がかつて在籍していたバンプレストの「スパロボ」や「コンパチヒーロー」など、複数の会社にまたがる権利コンテンツがどのようにしてひとつのゲームパッケージになったのかなどといったアツい話も語られていたりします(さすがにこれはnoteに書いていいのか微妙な気がしたのでここには記しません)。
ともあれ国がこうしたことに対して動き始め、我が国の国会図書館がそこに向けてその在り方を模索し始めているいま、私たちゲームファンはこれらに呼応し、声を挙げて応援すべきだと思うのですよ。
レトロゲームフリークなんて分からない方から見れば骨董品収集とどこが違うのか分からない趣味だと思われているでしょうが、それがコンテンツ立国を目指す我が国に著しい収益をもたらす(かも知れない)観光資源となり得ると思えば、自身が人生の一部としてきたこの棚も、むしろ誇らしく思えてくるってなもんです。
音楽を熱想する番組で、時にはゲームについて熱想したっていいじゃない。
日本人は熱しやすく冷めやすいって言うからね。いろんな立場の人が、いろんな場でこういうことを言い続けることで、この「レトロゲーム保存問題」への取り組みが風化せずにしっかりと根付いていくと思います。私も自身のnoteでたまにでも言い続けます。皆様もご自身の好きの範囲でどうかぜひ。
それと斎藤さん&菊田さん、私のおたより紹介してくださりありがとうございました!!
じゃじゃーん!!この「音楽熱想」にはおたより紹介のコーナーというのがあるのですが、これに私ことちとせあーくの書いたおたよりをご紹介いただきました(27分55秒くらいのところから)。
内容は「音楽熱想」をネタに下記のnoteを書いたのでその報告をさせていただいたものなのですが、斎藤さんに「これはすごくいいnote」とか言っていただけて感謝感激です。むしろこちらの方がありがとうです。
ということで、皆様も「音楽熱想」よろしければ聴いてみてください。音楽に様々な立場で関わる方々が持ち回りで業界秘話や現場のよもやま話を語ったりしていますが、中には今回のように音楽と関係ない話について熱く語っている回もあったりします(笑)ので、そんなに音楽に詳しい人でなくても楽しく聴けると思います。リンク先は本ページ末尾にて。
***宣伝*** 音楽熱想フェス2023
昨年数多の音楽好きを河口湖に集結させたあの夏祭りが!!
今年も還ってくる!!
今年は9月9日(土)~9月10日(日)に渡って、河口湖円形ホールにて開催されます。出演アーティストやチケットなど詳細はリンク先の案内をご覧ください。なお出場アーティストの詳細については私のnoteでも一部書いているので、よろしければこちらもどうかご覧くださいませ。
この記事にてどんな放送なのか気になった方ならびに斎藤滋さんが気になった方は、ぜひこちら「音楽熱想」をお聴きくださいませ。音楽業界のよもやま話やなかなか表に出てこないネタ、アーティストなどの雑談が聴けちゃうトーク番組です。毎朝のお供によろしければぜひ。
(了)