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松木邦弘著:「耳の傾け方―こころの臨床家を目指す人たちへ」書評


本作は、松木先生が大学院教育に関わられてから書かれた書です。

そのためか、最初の方の章は、実に平易な、「支持療法」の解説から入ります。

この平易さは、業界で、あの「カミソリ松木」と畏怖される、「痛みを感じないうちに斬り捨てられてしまう」怖さ(私も「斬られた」一人です)とは全く別の顔を見る思いです。

ステップ4のp.89以下引用:

「他者に共感し受容するには、他者のこころに真に触れるには、何より私たちが私たち自身のこころに触れていることが必要です。たとえそれが強い痛みを私たちに感じさせるとしても、必要なのですそしてそれは、私たちがこの仕事に就いている限り、続けられていなければなりません。このことが私たちの職業の大変厳しいところです。しかしそれは同時に、私たちの人生の質を高めてくれることでもあることも、忘れてはならないことだと思います。人と共に生きていることがどんなことであり、そのためにどんなことが求められているかを真に学ぶ、他にない貴重な機会を得るのです」

ステップ5(第8章)までは事例も豊富で、読みやすかったのですが、ステップ6、いよいよご専門のビオンが出てくるあたりになると、文章への感情移入ができなくなりました。それは私の限界であるというだけではなく、この、ほんの2,3時間で読める「小著」(169ページ)には押し込めない領域についてお書きのためもあるのではないかと思います。

安易に最新の応用技法に走らず、精神分析の本流を極めようという先生の意識が伝わる本でもありました。

いすれにしても、松木先生の峻厳さのみ覚えている若い臨床家の皆様、必読でしょう。

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