ウマ娘の精神分析 第23章 エイシンフラッシュ -何事にも几帳面で計画性を重視するドイツからの留学生-


●実在馬

サラブレッド オス 黒鹿毛(限りなく黒)

2007年3月27日-存命中(2021年12月現在)

父キングズベストベストはアメリカで5戦3勝で引退、母ムーンレディはドイツ生まれで18戦6勝、受胎した状態で来日(「持ち込み馬」と言います)。 

ドイツ産競争馬が日本で活躍したことはほとんどありません。

その黒い美しい馬体はイケメンと呼ばれました。

2010年の日本ダービーでGⅠ初制覇します。

2012年の天皇賞(秋)天覧レースで優勝、レース後当時の天皇(現在の上皇)皇后両陛下に、騎手デムーロは帽子を脱ぎ、片ひざついて一礼しました。

頭は非常によく、飼い葉はきちんと食べるうえに自分で調整もできていました。

騎手は、内田博幸が一番多く乗りましたが、デムーロも結構多いです。

通算成績:国内25戦6勝、国外2戦0勝 2着3回、3着7回。

●ゲーム・アニメの声:藤野彩水

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真っ黒な髪、上半身黒、スカートは赤と紺の縦縞ストライプの、民族衣装、ティアンドルの勝負服を着る、ドイツからの留学生。

しっぽをきれいに刈りそろえています(実在馬と同じ)。

レース直前の"Auf geht's"(「行くぞ!」)をはじめとして、ドイツ語がついつい口に出てしまいます。ケームをする人は、そのドイツ語を、ネットの辞典とかで調べてみる楽しみがあります。

固有スキル(レースの必殺技)の発動の際には、フェンシングの剣を振るいます。

レースに勝つと、片ひざついて、深くお辞儀をします。この礼儀正しさは、中世ドイツの騎士みたいです。

父親はマイスター(親方)の資格をとった有名なケーキ職人。母は4年間でウマ娘を引退、家業を手伝うようになりました。

父は1グラムの砂糖の調合にもこだわり、独自の厳密なレシピに基づいてケーキを作ります。非常に自分にきびしい人。

エイシンフラッシュはそれを見て育ちます。父親に、仕事に手を抜かないのは「ケーキを買って食べる人の幸せのため」と言われていました。

エイシンフラッシュ自身も、お菓子づくりを趣味としていて、記念日にトレーナーにロールケーキをまるごとプレンゼントしたりしています。

彼女自身は、何事も事前に自分で計画を立てて、寸分の狂いもなく実現しないと気が済みません。レースタイムだけではなく、休憩時間に至るまで秒単位で予定通りに実行しようとします。ルームメイトのウマドル、スマートファルコンがライブを見に来るように誘っても、「それは何分何秒かかるのですか?」と言い出す始末。

この機械のような精密な正確さ・厳密さの追求は、サイボーグウマ娘、ミホノブルボンと一見似ていますが、ミホノブルボンが「マスター」と呼ぶトレーナーの命令にひたすら従おうとするのに対して、エイシンフラッシュは、計画を全部自分で立て、それを実現することにこだわり抜く点が違います。

こうしたエイシンフラッシュの性格は、ドイツ人についてよく言われる、正確さと厳密さを追求する勤勉な真面目人間という国民性を模写したものと言えます。

ドイツには"Kopfmench"という言葉があります。直訳すれば「山の人」となりますが、私なりの理解では、「石頭」「頭でっかち」といった意味合いの言葉だと思います。これがドイツ人気質の典型という意味で使われます。

ともかく「空気を読まない」。感情より規則と理屈を重んじ、それから外れることを忌み嫌い、外国人には冷たい印象を与えるとのことです。感情というものをうまく扱えない。そのくせ言いたいことははっきり言い過ぎる。

もっとも、ドイツ南部のバイエルンや、ウイーンのあるオーストリアに行くと、もっとおおらかでちゃらんぽらんなところもあると言われますが。

次に、ちょっと別の観点からとらえてみましょう(結局はここまでとつながって来る話なのですが)。

ドイツの有名な精神医学者に、クレッチマーという人がいまたした。

この人は、人の体格によって生まれつきの「気質」が3つのタイプに分けられるという仮説を立てました。

1つめが、細長いやせ型の人。「分裂気質」と呼ばれます。静かで控え面で真面目で、あまり社交的ではないとされます。

非常に敏感で繊細で、平均的な人の気づかないような些細な徴候(きざし)から気づけてしまうところと、鈍感な側面の両面があるとされます。

日本の著名な精神科医、中井久夫先生によれば、狩猟採集民族に多かった特性だそうです。

動物の足跡からそれがどんな動物で、どれくらい前にそこを通ったかを見分けたりできます。あるいは、自分たちを襲おうとしている猛獣が近づいてくると、かすかな草のざわめきからそれを察知することができます。

ところが、こういう性格の人は、思い込みが激しいところがあります。異性がちょっと微笑んでいたら、それは自分のことを好きなのだと早合点したりします。

統合失調症になった人に、生まれ持ってこうした気質だった人が少なくないとされていました。

2つめが、体型が太り型の人で、「循環気質」と呼ばれます。調子のいい時は、開けっぴろげで社交的で、友達もたくさん作ります。感情の喜怒哀楽を素直に表現します。

ところが、いったん落ち込みだすと、ふさぎ込んでしまうのですね。

気分の波が、すごくあるのです。

双極性障害(躁(そう)うつ病)の人に多い気質とされます。

最後に、ずんぐりむっくりとした、筋骨型(闘士=レスラー)の体格をした人。マッチョ型ということになりますが、「粘着気質」というタイプに属するとされます。

まじめで勤勉、何事についても礼儀正しく、几帳面で正確さを求め、忍耐強く、自分の決めた決まりに厳格に従うタイプです。

仕事の上ではすごく頼りになる人ということになります。もっとも、技術系や職人、デスクワークには向いていますが、セールスなどの営業職には向いていないかもしれません。

この「粘着気質」が、先ほど説明した、ドイツ人の国民性、すなわちその典型として描かれたエイシンフラッシュやその父親の気質にあたるものです。

エイシンフィラシュ自身は全然マッチョではありませんが、きっと父親はそうなんじゃないかな?

ただ、このタイプの人って、仕事で無理をし過ぎたり、過酷過ぎる環境に置かれ、自分の定めた決まりを自分で守れなくなると、一気にまいってしまいます。

重いうつ病になるのも、このタイプの人が多いとされます。

エイシンフラッシュの物語の中でも、厳しいスケジュールを立てすぎて、疲労が重なり、貧血で倒れてしまうシーンが出てきます。

彼女は、そういう自分のやり過ぎになりやすいところに助言をしてくれる存在として、トレーナーを選んだようなところがあるようです。

ルームメイトのスマートファルコンは、そういう彼女を「不器用だ」と言いました。

彼女をリラックスさせようとして、海のバカンスに連れ出すこともありました。

また、エイシンフラッシュには、数字で測れない、人間の感情というものをどう扱ったらいいかわからないようなところがあるようです。

感情のバランスを見失いそうになると、"toi toi toi"という、母親に教わった呪文を唱(とな)えます。

レースを前にして自分の身体に生じてきた、ばく然とした「感じ」を、不安や緊張ではなくて、「高揚感」だと気づくのにも時間がかかりました。

あと、大事なのは、エイシンフラッシュは、ケーキを作る父親の正確で厳密な仕事ぶりを見て育ったわけですが、決して、親に厳しくしつけられて育った様子はないことです。

精神分析のフロイトは、ちょっと面白いことを言っています。

子供は、ただ単に、親に厳格なしつけを受けて育てられたから、自分も几帳面でルールに従う人間になるのではない、というのですね。

親の「自分自身」への厳しいルールと態度を見て育ち、そういう親の「自分自身への」厳しさを取り入れる、というのです。

親が、自分のことは棚に上げて、厳しくしつけようとしてくるばかりなら、思春期に入って、子供は反抗しかしないでしょう。

実際、このゲームのストーリーに出てくるエイシンフラッシュのお父さん、お母さんは、冷たくて厳しい人間としては全然描かれていないんですよね。

むしろ、子煩悩で、愛情あふれる、暖かい人間として描かれています。エイシンフラッシュの成長を、誇りに思いながらも、率直に喜んでいる人たちなんです。

何回も来日して、応援していますが、別にエイシンフラッシュを監視し、管理するためにやってきたのではありません。

繰り返しますが、エイシンフラッシュの両親は、自分自身に厳しいだけです。

いずれにしても、エイシンフラッシュは、レースを勝つにつれて、自分の中の感情と情熱に気づき、少し柔らかいウマ娘になっている気がします。

父に対する見方も、以前とは変わって来るのですが、それは実際にゲームをやってのお楽しみということで。

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