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本の紹介 海猫沢めろん(訳)「古事記」
海猫沢めろん(訳)「BL古典セレクション② 古事記」左右社
「BL古典セレクション」とある通り、いわゆる古典作品をBL風にリメイクした作品なのですが、非常に興味深い作品になっています。
そもそも、古事記(こじき)に登場する神々には、性別が明示されていないことも多いのです。特に上巻の登場する神々の性別は、さまざまに解釈することができます。
この本の中では、一般的に女性として解釈されるイザナミ、アマテラスが男性として登場します。ですが、それも全くの見当違いとも言えず、そういった解釈もできなくはないのです。
また、この本のおもしろさは、さまざまに解釈できる原作を、筋の通ったストーリーになるように、イマジネーションを働かせてアレンジしているところです。BLの王道的展開もありつつ、原作の解釈として、筋の通ったものになっています。
たとえば、有名な場面に「ウケヒ」という場面があります。これは、アマテラスとスサノオが互いに神を生みあって、生まれた神によって互いの正当性を判断するという場面です。実は、直訳だけしても、どうやらスサノオの正当性が認められたようなのですが、詳しい部分は書かれておらず、よくわからないのです。
この本では、この場面を「引き分け」と解釈しています。これは非常に自然な流れに感じました。
また、印象的なのが、大国主(オオクニヌシ)を多重人格と捉えているところです。大国主にはたくさんの名前が登場します。それらを、多重人格として解釈したのです。これもとても実体に即していて、納得がいきます。これも直訳からは決して出てこない発想でしょう。
この本は、BLという文脈を持ちながらも、古事記の筋の通った解釈の一つとして、とてもおもしろいものになっています。訳者の思い切った解釈と、物語性を重視した姿勢をとても好意的に受け止めました。
こっけいな描写もあり、いかにもBLといった展開もありつつ、古事記に親しむのにとても良い本だと思います。
執筆者:古原大樹/1984年山形県生まれ。山形大学教育学部、東京福祉大学心理学部を卒業。高校で国語教師を13年間務めた後、不登校専門塾や通信制高校、日本語学校、少年院などで働く。2024年に株式会社智秀館を設立。智秀館塾塾長。吉村ジョナサンの名前で作家・マルチアーティストとして文筆や表現活動を行う。古典を学ぶPodcast「吉村ジョナサンの高校古典講義」を公開中。学習書に『50分で読める高校古典文法』『10分で読める高校古典文法』『指導者のための小論文の教え方』がある。