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「法隆寺」を堪能する-第4回~法輪寺と中宮寺跡

前回はこちら

ランチの後は、法隆寺から北へ直線距離で1.5Kほどにある「法輪寺」へ向かいました。
ちょうど法隆寺・東院伽藍の真北にあるので近くではありますが、車で行くにはいったん県道9号線(大和郡山斑鳩線)に出て回りこむため、8分ほどかかります。
しかも混雑することが多いので意外と時間を要し、この日も10分ほどかかったと思います。


飛鳥時代創建の「法輪寺」

創建年は不明で622年と670年の2つの説がありますが、聖徳太子の病気平癒のためにその子・山背大兄王やましろのおおえのおうが創建したとするなら、前者の推古天皇30年(622)となります。

かつて聖徳太子ゆかりの井戸が3つあったことから地名にもなり、現在でも住所は「奈良県生駒郡斑鳩町三井●●であり、別名「三井寺みいでら」とも呼ばれています。
三井寺といえば、私も2年前に訪れた滋賀県大津市の大寺・園城寺えんじょうじ(三井寺)が浮かびますが、ここもそう呼ばれているのですね。

案内リーフレットより

3分の2の大きさではありますが、当時から東に金堂、西に三重塔という法隆寺と同じ伽藍配置なのです。

飛鳥時代の創建ではありますが、境内には当時の建造物は現存しておらず、落雷や台風などで罹災し、いずれも近世~近代の再建なのが残念ではあります。
そもそも、法隆寺のように千年以上も残っていることが稀なのですが…


🍃宝祐ほうゆう上人の貢献

17世紀ごろの法輪寺は、3層目を台風で失った三重塔以外、他の伽藍もことごとく失うという悲惨な状態でした。

しかし享保11年(1726)宝祐ほうゆう上人が伽藍の再興を発願し、妙見菩薩山尊像みょうけんぼさつさんそんぞうの修理から着手しました。
なぜ他のご本尊ではなく妙見菩薩からなのか?
おそらくそれは、太子が自ら彫った妙見菩薩像を祀って当寺を開いたという伝承からではないかと考えられています。

その後、順に諸仏の修復を進め三重塔の修繕にも着手しますが、延享元年(1744)に宝祐ほうゆうは志半ばで逝去してしまうのです。
それでも彼の意思は弟子たちに引き継がれ、宝暦12年(1762)に全修復を無事に終えますが、それは実に宝祐ほうゆうの発願から36年もの長い年月を費やしたものとなりました。

現存の金堂は宝暦11年(1761)、講堂は昭和35年(1960)、三重塔は昭和50年(1975)に再建され、見た目にも新しい事がわかります。


🍃講堂の仏像たち

講堂に入ると、狭いスペースに整然と仏像が並べられていました。
堂内は撮影禁止なので、観光リーフレットに掲載された配置図をお借りしました。

観光案内リーフレットより

仏像は1体だけ江戸時代のものですが、飛鳥と平安時代のものがほとんどでした。
特に上図中央の3体。
中央(5)「十一面観音立像」は像高3.5mを超える大きさで、講堂のご本尊です。
(6)薬師如来坐像は当寺のご本尊であり、鞍作止利くらつくりのとりの作だと伝わり、なるほど法隆寺金堂のものとそっくりでした。

そして、(4)虚空蔵菩薩こくうぞうぼさつ立像は、立ち姿が法隆寺の「百済観音」のように下腹を突き出して、横から見ると緩やかなS字カーブなのです。
そういえば「百済観音」も明治までは「虚空菩薩」と言われていたのを思い出し、このスタイルは虚空菩薩の一般的なものなのかもしれません。

ただ大きく違うのは、プロポーションがよろしくない。
私の愛する百済観音様は、八頭身でスーパーモデルのようなのですが、こちらの虚空菩薩は頭でっかちでどこかずんぐりしているのです。

そもそも「虚空菩薩」とは、聖徳太子に関わる地域信仰の対象と推定され、本来の名はわかっていません。
もしかしたらこの「虚空蔵菩薩」も観音菩薩として作られたという説もあるのです。

「百済観音」も作者不明、意図不明の謎だらけですが、その元と考えられる「虚空菩薩」は、「無量の智慧と福徳を人々に与えて願いを叶える智恵を授ける仏様」であり、その名の「虚空」とは何もない大きな空間、「無量」とは無制限に大きい事だという意味から、これらから限りないふところの深さを持つ仏様だとわかります。

🍃北極星の仏様・妙見みょうけん菩薩

めうけん大悲者は
きたのきたにぞおはします
衆生ねがひを満てんとて
空にはほしとぞみえたまふ

『梁塵秘抄』より

観光リーフレットより

梁塵秘抄りょうじんひしょう』とは、平安時代後期の歌謡集であり、これも「都都逸どどいつ」のような軽快な調べがあります。

~妙見菩薩さまは北の果てにおられ、全ての人々の願いを叶えるために空の星となられています~

Wikipedia

さて、ここを訪れた本来の理由は、この日は境内の北にある「妙見堂特別公開」の秘仏・妙見菩薩像の御開帳期間で、前述の宝祐ほうゆう上人も一目置いたという秘仏が見れるからなのです。
もちろん堂内は撮影禁止ですので画像はありませんが、無料配布の観光リーフレットよりまとめたいと思います。

おまけに小雨が降ったり止んだりしていたせいか、「妙見堂」の外観を撮るのも忘れていることに今になって気付きました。

本来の「妙見堂」は享保16年(1731)に建立されましたが、あまりの老朽化のため、現在のものは平成15年(2005)に新たに建てられたものです。
しかし、堂内の三面にある「壁画」や「天井画」の一部は旧・妙見堂から移築したものだそうです。

観光用リーフレットより
これらが全て絵として描かれているのは圧巻です。

それにしても、「高松塚古墳」や「キトラ古墳」でも感じた事ですが、古代の人々の天文への関心度の高さはいつからなのでしょう。
星を仏化して位置を定めた天井画は新旧の違いこそあれ見事なものでした。
まだ詳しい認識はなかったにせよ、はるかな宇宙へ壮大な想像をめぐらしていたのが、ここでも伺い知ることができました。

そして前中央の「妙見菩薩像」には独特の存在感がありました。
たった1週間の御開帳の秘仏だけに、私はしっかりと拝顔しましたが、皆さんは上記のWikipediaから引用した画像を参考にしてください。

🍃ご住職みずからの御朱印

この記事を書くにあたって、検索する中で知ったのですが、ご住職が自ら「講堂」の受付に立ち、当寺や仏像の説明、その上、御朱印まで書かれていたのだとわかり驚きました。

頭は丸めておられるようでしたが、服装は法衣も袈裟もなく、どちらかと言えば使用人が着るような白い作務衣さむいのような軽装だったので、下っ端の雑用係の尼僧にそうさんだと思っていたのをお許しください💧

女性でありながら、ご住職の井ノ上妙康みょうこうさんで、とても物腰が柔らかく丁寧な接客をしてくださいました。
この歴史ある斑鳩いかるがの地に根付いた小さな古刹は、最も大切な教えを今も守り続けているのがよくわかるような対応でした。

祈りの回廊より

一緒に写真でも撮らせてもらったら良かったなぁ…
「山背王誕生の水」は山背王が誕生の時、
寺内の井戸水を産湯としたという故事から。


中宮寺跡でコスモスふたたび

いつもオシャレな写真を撮るロコさんが、前回は参加できなかったため、ぜひともコスモスを撮りたいというので、今回も法輪寺からの帰り道に立ち寄りました。

なんでもインスタで「中宮寺跡」の素晴らしいコスモスの投稿を見たとかで行きたいらしいのですが、そこがどこにあるのかよくわからず、ひとまず前回と同じ「法起寺」の裏へと案内しました。

ところがその帰り道、県道9号線を南下していると、ふいにその「中宮寺跡」が東側に現れ、一面にコスモスが咲き乱れているではありませんか!

ここなら何度も通っているのに全く気付きませんでした。

このシリーズの第1回で訪れた現在の「中宮寺」は、法隆寺東院の東側にありますが、元々はそこから東へ450mのここにあったとは今さら知りました。

確かに今でも塔や金堂の基壇らしきものが残っています。
また、発掘調査の結果、建造物が南北に並ぶ四天王寺式伽藍配置だったことも判明していますが、講堂や回廊の跡がないことから未完の寺だと推定されているのです。
この時期にコスモスは咲くものの、普段は気付かないほどのただ●●の原っぱなのですが、この中宮寺跡全域は、平成2年と3年に国史跡指定となっています。

ロコさんが動画も撮ってくれたので、16秒のショートにまとめてみました。
一面にゆらゆら揺れるコスモス畑の広がりをお楽しみください
↓↓↓


赤いバスでティータイム

雨がまた降ってきました。
この日最後の休憩場所として、第2回の法隆寺訪問の時に立ち寄った「Secret Base JO-9, cafe」に再び寄りました。

ただし今回は店内ではなく、このcafeのランドマークである入り口の「赤いバス」の中に陣取り、目前に広がる大和川の風景を楽しみました。

雨でかすんでますが💦
ハロウィンの飾り付けがあちこちに。

ここでまたいろんな話に花が咲いたのですが、今回はミコさんだけでなくチコさんもスマホ紙芝居を披露し、話に聞き言っているとすっかり日は暮れて、私たちはやっと帰路についたのでした。
いつもながら終わってみれば、この日もフルに充実した1日となっていました(笑)。

法隆寺訪問は、これで今年最後となります。
次回訪問はおそらく来年の3月頃を予定しています。


この日、立ち寄ったところ↓↓↓

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【参考】
古寺行こう 法隆寺
祈りの回廊
・法輪寺 拝観案内(リーフレット)
・法輪寺 妙見堂(リーフレット)
法輪寺



「法隆寺」を堪能するシリーズ
第1回~プロローグ
第1回~東院伽藍
第1回~西院伽藍
第2回~藤ノ木古墳
第2回~周辺の寺々
第3回~秋の斑鳩と東院伽藍の深堀り
第3回~お宝と七不思議
第4回~期間限定公開を巡る



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千世(ちせ)
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