大仰な客観はいらない 10 chisato_mrt 2022年3月27日 18:17 「私が求めるリアリティの検算というのは、『まさにその通りで、斯くありたいようにリアルである』という些か厄介なもんなのであるが、これは、世間でいうところの“客観的なリアリティ”ではない。私の欲しいリアリティの検算というのは、『木川田くんがとってもリアルなゲイの男の子の一人になっている』という当事者からの証言で、別に『木川田くんこそがゲイの本質を体現するものである』なんていう保証じゃない。自分を限定した特殊な世界の当事者に留めてしまった人間は、往々にして『自分こそが本質を体現するものである』という錯覚を冒すが、『木川田くんはゲイの一人』であっても、『ゲイのすべてが木川田くん』であるわけではまったくない。私は、『そういう男の子が、ゲイであるという事実も含めて、やっぱり好きだと思うから、木川田くんがちゃんと“そういう男の子”になっていればいいな、なってなければ困るな』というばかりである。『オレはゲイだけど、オレはあいつみたいじゃないから、木川田源一なんて全然リアルじゃない』と言われたって構わない。そう言う人間は、『リアルじゃない』という言葉を使って『好きじゃない』と言ってるだけなんだから(しかし私は、そういう発言さえも聞かなかった)。当事者というのは、困ったことに、往々にして自分を“客観”に祭り上げてしまう。『あなたが女だとしたって、別にあなたが女のすべてでもあるまいし、あなたが女のすべてを知っているわけでもない。単にあなたは、自分という女一人を取り上げて、“女とはこうだ”という拡大をしているだけだ』ということは、とってもいっぱいある。大昔に『桃尻娘』を書いた時の反応で、一番多かったのは、『私はこの女主人公のような人間ではないので、この女主人公はリアルではない』というとんでもないものだった。これは、『あなたは私ではないので、あなたはリアルではない』というとんでもない論理なのだが、“客観的なリアリティ”というのは、こういう眦(まなじり)を決してしまったとんでもない人間のものだ。私はただ単に、『こういうのってリアルだから好きだよね』と言いたいだけだから、大仰な客観はいらない。私が欲しいのは“共有出来る主観的なリアリティ”というヘンなものだけである。」橋本治『広告批評の橋本治』 広告批評の橋本治 www.amazon.co.jp 1,500円 (2022年03月27日 18:10時点 詳しくはこちら) Amazon.co.jpで購入する ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #読書 #読書記録 #橋本治 #原っぱの橋本治研究 #日めくり橋本治 #広告批評 #広告批評の橋本治 10