岩波少年文庫を全部読む。(114) バッドエンドとハッピーエンド、2本のクリスマスストーリー ウィーダ『フランダースの犬』
12月になりました。たまたまですが、1本はバッドエンドな、もう1本はハッピーエンドなクリスマスストーリーの回になってしまいました。
『フランダースの犬』(野坂悦子訳、岩波少年文庫)には、英国の作家ウィーダの表題作(1872)と「ニュルンベルクのストーブ」(1882)というふたつの中篇小説が収録されています。「ニュルンベルクのストーブ」はハッピーエンドですよ!
BIG IN JAPAN
英国の小説家ウィーダ(マリー=ルイズ・ド・ラ・ラメー)は19世紀後半に大人向け・子ども向け双方の小説で大ヒットを飛ばし、派手に暮らしたコスモポリタンな作家だったようです。でも20世紀に入ると読まれなくなり、完全に「文学史上の人」となったそうです。
ただこの作品については、米国では20世紀にはいってもそれなりに読まれつづけていたようで、繰り返し映画化されました。ただし原作の結末があまりに悲しく報われないため、映画ではほとんどのケースでハッピーエンドになっているとのこと。
いずれにせよウィーダは、生前の現役時代には代表作と思われていなかった小品で、その名が記憶されることになったわけです。
日本では、早くもウィーダの歿年である1908(明治41)年に、牧師の日高柿軒が「フランダースの犬」を日本語訳しました。
とりわけ昭和初期以降は何度も新訳が刊行され、バッドエンド児童文学の代名詞となりました。
昭和の後半になるとTVアニメ化(1975。オープニングとエンディングの歌詞が岸田衿子!)され、これによってますます不朽の名作として知られるようになります。
このTVアニメは原作に忠実なバッドエンドで、いまでも日本では原作どおりの展開を支持する傾向が強いのではないでしょうか。
とにかく、舞台となったベルギーでは、かなり遅い時期に知られるようになっていったという話。そして現地の人は必ずしもこれを歓迎していないということもあるようです。
アン・ヴァン・ディーンデレン+ディディエ・ヴォルカールト編『誰がネロとパトラッシュを殺すのか 日本人が知らないフランダースの犬』(塩崎香織訳、岩波書店)は、そのあたりの問題を追った貴重な情報源です。
「フランダースの犬」と「聖母被昇天」
表題作の舞台は19世紀のベルギー北部、フランダース(フランドル)地方の主要都市アントウェルペンとその周辺。少年ネロと飼い犬のパトラッシュを描いた作品です。
ネロ少年はアルデンヌ地方で育ちますが、2歳のときに母を失いました。孤児となったネロは、アントウェルペン近郊の小さな村(ホボーケンがモデルとされます)に住む祖父ジェハン・ダースに引き取られ、貧しい暮らしのなかで養育されます。
ネロとジェハンじいさんはあるとき、撲殺されそうになっていた犬を見つけて救い、パトラッシュと名づけて介護します。元気になったパトラッシュは、ネロの忠実な友となりました。
ネロは貧乏で学校にもいけないので、読み書きができませんが、画才があります。そしてアントウェルペンの聖母大聖堂にあるルーベンスの「天に昇る聖母マリア」(1626。なお、これは訳書中の訳題で、一般には「聖母被昇天」の日本語題で通用しています)をどうしても観たいのですが、拝観料を払うことができません。
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