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読まず嫌いが世界〈文學〉を読んでみた

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『読まず嫌い。』(角川書店)の増補「解体」版。 筋金入りの読まず嫌いが体を張って世界の〈文學〉と、それを読むための「補助線」になってくれる本を読みます。 有料マガジン「文学理論ノ…
書籍『読まず嫌い。』の本体価格と同価格(一括)で、同書の内容を再構成したもの+〈文學〉についての有…
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記事一覧

おとぎ話新論01 伝承の力は、手渡される瞬間にこそ宿る

伝承の力は、どれだけ長く続いてきたか、にあるのではない。 伝承の力は、「いまここ」で手渡されることで生まれる。 というお話。 YOSAKOIの話 僕が若いころ、札幌をはじめ各地に、高知のよさこい祭りに影響されたYOSAKOI系フェスが始まった。 当時僕は(高知県民でもないのに)眉をひそめ、しかつめらしく「軽薄な……」とつぶやいたものだった。 でも、僕自身が若くて知らなかっただけなのだ。 「本家」のよさこいも、札幌よりわずか40年ほど前に、高知の商工会議所が徳島の阿波踊

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押すなよ! ぜったい押すなよ! 物語における禁止と違反

0. まえがき(2025年2月9日公開) この記事は、つぎの2本の記事の続きです。毎日少しずつ継ぎ足す形で公開します。 これからしばらく、おとぎ話について考える 旧型ディズニープリンセスが好きな人に、もう一度胸を張って、好きなものを好きだと言えるようになってもらおう。 僕が来月(2025年3月)に出す予定の本のなかで、物語における禁止と違反の話をしています(それが本のメインではないんですけど)。 「物語における禁止と違反」については、いろんな人が研究してて、いまさ

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旧型ディズニープリンセスが好きな人に、もう一度胸を張って、好きなものを好きだと言えるようになってもらおう。

この記事の続き。 来月、おとぎ話にかんする本が出ます。僕が書いた本のなかで、いちばんページ数が多い本になります。 最初からおとぎ話それ自体に興味があったわけじゃなくて、僕もわりと、「おとぎ話なんて小学校低学年まででしょう」くらいに構えてたクチでした。 でも書いてるうちに、おとぎ話ってものが文学史で果たしている役割が、僕が思ってたより大きいってことがわかってきた。 文学史のなかでおとぎ話が、豊かな地下水脈のように存在し続けていることを、取材・執筆をつうじて僕は知りました。

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これからしばらく、おとぎ話について考える

ディズニーが、世界初(諸説あります)の長篇アニメーション『白雪姫』(1937)を実写化した。2024年春の公開と予告されていたけど、2025年に延期されたという。もうすぐですね。 ディズニープリンセスの原型は、『白雪姫』、『シンデレラ』(1950)、『眠れる森の美女』(1959)の3作で形作られた。『白雪姫』はグリム兄弟、残るふたつはペローが原作ということになっている。 そして、ペローもグリムも、民衆の話を書き取って、それぞれのやりかたでアレンジしたことになっている。

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エマ・ボヴァリーが読んだ本

エマ・ボヴァリーは、なにを読んで毒されたんだろう。これが、『ボヴァリー夫人』を読んだあと鮮明に思い出せない。 これは「勘違い読者が主人公の小説」としては珍しいことだ。近代の読者は、セルバンテスやオースティンといった文豪の書く「勘違い読者が主人公の小説」をとおして、当時は流行だったけど結局定番の古典にならなかった騎士道小説やゴシック小説の存在を知るケースが多いと思われるからだ。 僕はドン・キホーテを狂わせた『アマディス・デ・ガウラ』や『ティラン・ロ・ブラン』、また『ノーサン

『小説列伝』は小説の「ミームの歴史」です

前回の記事で、『小説列伝』の原題が仏語版(翻訳の底本)で『小説の思考』、著者自身による英語版で『小説の生命』だったこと、そして英語版 の題から『小説列伝』という強い訳題を思いついたことを書きました。 『小説の生命』という英語版の題は、小説という「類」の進化を語る本だというのがよく伝わります。「ミームの歴史」としての小説史なんです。 『小説列伝』の序章に、こういうことが書いてあります。 本書ではミームという語は一度も出てきません。 でも、本書のダイナミックな記述を読むと、

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『小説列伝』(釣り訳題じゃないよ!)は小説よりもおもしろい小説史です。

訳すのに10年以上かかったのは、僕の仕事が遅いから 西洋小説史を一挙に見通しのよいものにした、パヴェルの『小説列伝』(拙訳、水声社)は、小説よりもおもしろい小説史です。底本はこちら。 Thomas Pavel, La Pensée du roman, nouv. éd. rev. et refondue, Paris : Gallimard, coll. Folio essais, 2014. もう10年前の本です。すみません、仕事が遅くて。 少しでも訳し間違いを減ら

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『小説列伝』には「訳者解説」がありません。

もうまもなく、『小説列伝』という本が店頭に並びます。 Amazonでは売りません 著者は、ルーマニア出身で米国・フランスで活躍している文学理論家・演劇研究家のトマス・パヴェルです。 水声社という出版社から出ます。 この水声社という出版社は、Amazonでは売らない、というポリシーで会社を運営してらっしゃいます。 (なのに予約ページはある) Amazonに出ている水声社の本は、基本的には、Amazonマーケットプレイスに出店している業者さんが、しばしばとんでもないプレミ

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岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻(書誌データ)

ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(1812/1857。佐々木田鶴子抄訳、岩波少年文庫)全2分冊は、『子どもと家庭のおとぎ話集』第2版(1819)を中心に、初版(第1巻1812、第2巻1815)や最終第7版(1857)を参照しつつ、セレクトしたものです。 下巻にも、25篇のむかし話が収録されています。岩波少年文庫版では、合計50話が読めます。これは最終第7版のうち、「子どものための聖者伝」全10話を除く全200話の、4分の1の話数にあたります。 では、記事本体を

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岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻

購入後に全編(05:12)を視聴することができます。

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岩波少年文庫を全部読む。(147)ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)上巻(書誌データ)

ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(1812/1857。佐々木田鶴子抄訳、岩波少年文庫)全2分冊は、『子どもと家庭のおとぎ話集』第2版(1819)を中心に、初版(第1巻1812、第2巻1815)や最終第7版(1857)を参照しつつ、セレクトしたものです。 上巻には、25篇のむかし話が収録されています。 それでは、記事本体をお聴きください(最後のほうちょん切れてます!)。 本書収録作について 「オオカミと七匹のヤギ」(KHM5)、「カエルの王さま」(KHM1

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岩波少年文庫を全部読む。(147)ほんとにドイツの民話なの? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)上巻

購入後に全編(05:34)を視聴することができます。

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新年早々平身低頭

マガジンを購入すると全編(04:06)を視聴することができます。

岩波少年文庫を全部読む。(145)これ以上なにか足してもダメ、引いてもダメ。奇蹟のようなバランスでもたらされたおとぎ話の美 メアリ・ド・モーガン『風の妖精たち』(抄)

メアリ・ド・モーガン『風の妖精たち』(岩波少年文庫)は、同名の短篇おとぎ話集(1900)から2篇を除く7篇を、収録順に訳したもの。訳者は矢川澄子です。 禁止と違反のセット 物語の世界は、禁止と違反と発覚と罰に満ちています。 禁止は違反の前フリに過ぎないと思えるほどです。 旧ソヴィエト連邦の民俗学者ウラジーミル・ヤコヴレヴィチ・プロップは、『昔話の形態学』(1928)で、ロシアの魔法民話の筋を構成する諸要素を分類しました。 これによれば、魔法民話の各話は、ごく限られた数の

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