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読まず嫌いが世界〈文學〉を読んでみた

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『読まず嫌い。』(角川書店)の増補「解体」版。 筋金入りの読まず嫌いが体を張って世界の〈文學〉と、それを読むための「補助線」になってくれる本を読みます。 有料マガジン「文学理論ノ…
書籍『読まず嫌い。』の本体価格と同価格(一括)で、同書の内容を再構成したもの+〈文學〉についての有…
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記事一覧

これからしばらく、おとぎ話について考える

ディズニーが、世界初(諸説あります)の長篇アニメーション『白雪姫』(1937)を実写化した。2024年春の公開と予告されていたけど、2025年に延期されたという。もうすぐですね。 ディズニープリンセスの原型は、『白雪姫』、『シンデレラ』(1950)、『眠れる森の美女』(1959)の3作で形作られた。『白雪姫』はグリム兄弟、残るふたつはペローが原作ということになっている。 そして、ペローもグリムも、民衆の話を書き取って、それぞれのやりかたでアレンジしたことになっている。

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エマ・ボヴァリーが読んだ本

エマ・ボヴァリーは、なにを読んで毒されたんだろう。これが、『ボヴァリー夫人』を読んだあと鮮明に思い出せない。 これは「勘違い読者が主人公の小説」としては珍しいことだ。近代の読者は、セルバンテスやオースティンといった文豪の書く「勘違い読者が主人公の小説」をとおして、当時は流行だったけど結局定番の古典にならなかった騎士道小説やゴシック小説の存在を知るケースが多いと思われるからだ。 僕はドン・キホーテを狂わせた『アマディス・デ・ガウラ』や『ティラン・ロ・ブラン』、また『ノーサン

『小説列伝』は小説の「ミームの歴史」です

前回の記事で、『小説列伝』の原題が仏語版(翻訳の底本)で『小説の思考』、著者自身による英語版で『小説の生命』だったこと、そして英語版 の題から『小説列伝』という強い訳題を思いついたことを書きました。 『小説の生命』という英語版の題は、小説という「類」の進化を語る本だというのがよく伝わります。「ミームの歴史」としての小説史なんです。 『小説列伝』の序章に、こういうことが書いてあります。 本書ではミームという語は一度も出てきません。 でも、本書のダイナミックな記述を読むと、

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『小説列伝』(釣り訳題じゃないよ!)は小説よりもおもしろい小説史です。

訳すのに10年以上かかったのは、僕の仕事が遅いから 西洋小説史を一挙に見通しのよいものにした、パヴェルの『小説列伝』(拙訳、水声社)は、小説よりもおもしろい小説史です。底本はこちら。 Thomas Pavel, La Pensée du roman, nouv. éd. rev. et refondue, Paris : Gallimard, coll. Folio essais, 2014. もう10年前の本です。すみません、仕事が遅くて。 少しでも訳し間違いを減ら

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『小説列伝』には「訳者解説」がありません。

もうまもなく、『小説列伝』という本が店頭に並びます。 Amazonでは売りません 著者は、ルーマニア出身で米国・フランスで活躍している文学理論家・演劇研究家のトマス・パヴェルです。 水声社という出版社から出ます。 この水声社という出版社は、Amazonでは売らない、というポリシーで会社を運営してらっしゃいます。 (なのに予約ページはある) Amazonに出ている水声社の本は、基本的には、Amazonマーケットプレイスに出店している業者さんが、しばしばとんでもないプレミ

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岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻(書誌データ)

ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(1812/1857。佐々木田鶴子抄訳、岩波少年文庫)全2分冊は、『子どもと家庭のおとぎ話集』第2版(1819)を中心に、初版(第1巻1812、第2巻1815)や最終第7版(1857)を参照しつつ、セレクトしたものです。 下巻にも、25篇のむかし話が収録されています。岩波少年文庫版では、合計50話が読めます。これは最終第7版のうち、「子どものための聖者伝」全10話を除く全200話の、4分の1の話数にあたります。 では、記事本体を

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岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻

購入後に全編(05:12)を視聴することができます。

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岩波少年文庫を全部読む。(147)ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)上巻(書誌データ)

ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(1812/1857。佐々木田鶴子抄訳、岩波少年文庫)全2分冊は、『子どもと家庭のおとぎ話集』第2版(1819)を中心に、初版(第1巻1812、第2巻1815)や最終第7版(1857)を参照しつつ、セレクトしたものです。 上巻には、25篇のむかし話が収録されています。 それでは、記事本体をお聴きください(最後のほうちょん切れてます!)。 本書収録作について 「オオカミと七匹のヤギ」(KHM5)、「カエルの王さま」(KHM1

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岩波少年文庫を全部読む。(147)ほんとにドイツの民話なの? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)上巻

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新年早々平身低頭

マガジンを購入すると全編(04:06)を視聴することができます。

岩波少年文庫を全部読む。(145)これ以上なにか足してもダメ、引いてもダメ。奇蹟のようなバランスでもたらされたおとぎ話の美 メアリ・ド・モーガン『風の妖精たち』(抄)

メアリ・ド・モーガン『風の妖精たち』(岩波少年文庫)は、同名の短篇おとぎ話集(1900)から2篇を除く7篇を、収録順に訳したもの。訳者は矢川澄子です。 禁止と違反のセット 物語の世界は、禁止と違反と発覚と罰に満ちています。 禁止は違反の前フリに過ぎないと思えるほどです。 旧ソヴィエト連邦の民俗学者ウラジーミル・ヤコヴレヴィチ・プロップは、『昔話の形態学』(1928)で、ロシアの魔法民話の筋を構成する諸要素を分類しました。 これによれば、魔法民話の各話は、ごく限られた数の

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岩波少年文庫を全部読む。(144)社会の外から行動できるためには、悪人は社会の内部のものごとに通じていなければならない。 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ『きつねのライネケ』(抄)

中世、宮廷は裁判所でもあった 百獣の王ライオンのノーベルが廷臣を招集します。 そこに狐のライネケがいません。狼のイーゼグリムは、ライネケが妻の名誉を傷つけたと訴えます。犬のヴァッカーロース、猫のヒンツェ、兎のランペなど、ライネケにひどい目に合わされた連中が被害者の会を結成します。 ライネケの甥、狸のグリムバートがライネケを弁護しますが、雄鶏のヘニングは、ライネケに惨殺された雌鳥クラッツェフースの屍体を提示し、一気にライネケ告発の動きとなります。 王はライネケを呼び出すこ

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ヴァイオリンを弾きこなし英独仏羅と多言語を解しボクシングと柔術の心得もあるスーパーボーイ 岩波少年文庫を全部読む。(143) エリナー・H・ポーター『ぼく、デイヴィッド』

エリナー・ポーターの長篇小説『ぼく、デイヴィッド』(1916。中村妙子訳、岩波少年文庫) 10歳のデイヴィッド少年は、山腹を切り開いたところで、父とふたりだけの、心静かな生活を送っていました。 父が体調が悪化し、みるみる重病となり、谷へと降りなれけばなりません。 父はいまわの際に、デイヴィッドに大量の金貨を渡し、必要なときがくるまで隠しておくようにと言います。 父のために、デイヴィッドはヴァイオリンを弾き、農場主のシミアン・ホリーとその妻エレンに見つかります。 名字はま

アクタイオンは「のび太さん」より罪が軽いのではないか

↑ これの続きです。 アクタイオンの死 ギリシア神話のアクタイオンは、光明神アポロン(ゼウスの子)の孫だった。アポロンの双子の姉で狩猟と貞潔の女神であるアルテミスの怒りを買い、自分が育てた猟犬たちに噛み殺された。 作者歿後の紀元前405年初演とされる エウリピデスの悲劇『バッコスの信女』における、アクタイオンの罰の説明 を読むと、テバイ王カドモス(アクタイオンの母方の祖父)いわく、 とされている。 紀元前64年ごろに生まれ、紀元後17年に死んだ ヒュギヌスの『

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