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岩波少年文庫を全部読む。(83)伴侶にするならメンタルが安定してる人がいいよ。 エリナー・ファージョン『本の小べや2 天国を出ていく』

エリナー・ファージョンの自選短篇集『本の小べや』(1955)には、27篇が収録されています。
石井桃子訳の岩波少年文庫では2分冊で刊行されました。第2分冊『天国を出ていく』には、表題作を含む13篇が収録されています。

はっきりわからないことがあると、叱りつける人と、笑う人

前回、第1分冊『ムギと王さま』石井桃子訳、岩波少年文庫)で、このように書きました。

収録された作品には、動物や空想上の存在、超常現象が跋扈するいわゆる「おとぎ話」の世界もあれば、歴史のなかに錨を下ろしたリアリズム的な世界もあります(後者の例については、第2分冊『天国を出ていく』[石井桃子訳、岩波少年文庫]の記事で触れます)。この振れ幅の大きさが、この作品集の魅力ともいえましょう。

https://note.com/chinobox/n/nece37f4d87b6

この双方の傾向を持つ作品は、第1分冊にも第2分冊にも均等に存在すると思いますが、とりわけ第2分冊のほうに後者の印象的な作品があった気がします。

たとえば20世紀の英国を舞台とする「コネマラのロバ」
主人公である7歳のダニー・オ・ツール(オトゥール)は、姓からわかるとおり、アイルランド人の父を持つ子です。

イングランド人のなかには、はっきりわからないことがあると、叱りつける人と、笑う人と、ふたとおりあります。オ・ツールさんは、イングランドへきて住むようになったとき、気をつけて、笑うほうの人をおかみさんに選びました。だから、おかみさんは、いま、朝ごはんのお皿を重ねながら、おかしそうににっこりしています。

エリナー・ファージョン「コネマラのロバ」
『本の小べや2 天国を出ていく』(1955)所収、
石井桃子訳、岩波少年文庫、77頁(太字強調は引用者による)。

「パートナーにはメンタルが安定している人のほうがいい」
という大人向けの智慧が、このような児童文学にもさらりと入っていて、すごいな、と21世紀の日本人は思うのですが、じつのところはそうじゃないんですね、たぶん。

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