見出し画像

岩波少年文庫を全部読む。(104)マレビトはトラブルメーカー。ジブリアニメ化希望 ジェイムズ・リーヴズ『月曜日に来たふしぎな子』

ジェイムズ・リーヴズ『月曜日に来たふしぎな子』(神宮輝夫訳、岩波少年文庫)は、Pigeons and Princesses (1956)から4篇、Sailor Rumbelow and Britannia (1962)から2篇と、2冊の作品集から計6篇を収録した作品集です。

民話と近代文学との折衷案

民話的な設定を用いながら、近代文学の作家が個人の創作をおこなう──。そのルーツはドイツや英国のロマン派にさかのぼるのでしょうが、児童文学の分野においては、アンデルセンがその先鞭をつけたと言っていいでしょう。

アンデルセンは、近代的な意味での「児童文学」の祖です。ですから、彼が自覚的に選択した「民話的な設定を活用して新作短篇童話を書く」というスタイルは、そのまま近代的な意味での「児童文学」の──またさらには文学ジャンルとしての「ファンタジー」の──出発点となった、と考えていいと思います。

アンデルセン以後、ヨーロッパの多くの作家が、民話的な設定を発展させて短篇児童文学の新作を作ることを試みています。岩波少年文庫でも、英国のエリナー・ファージョン、アリソン・アトリー、ポーランドのマリア・ケンジョジーナなど、少なからぬ作例に触れることができます。

本書『月曜日に来たふしぎな子』に収録されたジェイムズ・リーヴズの作品も、そういった「民話的設定を活かした近代文学」としての童話の作例です。

ジブリアニメで見たい表題作

表題作「月曜日に来たふしぎな子」は、実直な夫婦と子どもふたり(そろそろ11歳のトムと8歳の妹フランシス)のパン屋一家のもとに、ある嵐の夜にやってきたマレビト(折口信夫ふうに言えば)の物語です。

その客人は9歳か10歳の、薄汚い女の子。

 変な子だねえ、とおかみさんは思いました。小さな二つの目はくっつくように並んでいる。髪は黒くてまっすぐ。歯がぜんぶ見えるくらい口が大きい。ほんとに不器量だねえ。

ジェイムズ・リーヴズ「月曜日に来たふしぎな子」
神宮輝夫訳『月曜日に来たふしぎな子』所収、
岩波少年文庫、12頁。

ここから先は

2,803字
この記事のみ ¥ 100
期間限定!PayPayで支払うと抽選でお得

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?