見出し画像

岩波少年文庫を全部読む。(78)藤沢周平を思わせるハードボイルドさ。 今西祐行『肥後の石工』

今西祐行すけゆき『肥後の石工いしく(1965)は、肥後・薩摩両藩で石材加工によって土木工事に貢献した岩永三五郎(1793-1851)を題材とした歴史物語です。

岩永三五郎とは

僕はこの人物を、この小説で知りました。
肥後・八代周辺に生まれた岩永三五郎は、アーチ式石橋の名工。
肥後藩での架橋・干拓工事での声望が高まり、のちに1840年、薩摩藩の招聘で、甲突川こうつきがわ(現鹿児島市)の5つの石橋をはじめ、公共工事を手掛けました。これらの橋のうちふたつは1993年8月の豪雨で流失するまで、残り3つは2000年に開園した石橋記念公園に移設されるまで、現役の橋として同川にかかっていたそうです。

本書『肥後の石工』は史実を題材としていますが、史実と異なるかなり大胆な要素も含んでいるといいます。

 はじめにお断りしておかなければならないのは、この物語は「歴史小説」ではなくて、「時代小説」だということです。

今西祐行『肥後の石工』(1965)
岩波少年文庫版「あとがき」235頁

薩摩藩の軍事機密

作中、肥後から薩摩に呼ばれたてやってきた腕利きの石工・三五郎は、薩摩の石橋にある特別な仕掛けを知ります。
それは、

ここから先は

1,877字
この記事のみ ¥ 100
期間限定!PayPayで支払うと抽選でお得

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?