岩波少年文庫を全部読む。(87)平凡な一家に野菜型異生物が降臨 クリスティーネ・ネストリンガー『きゅうりの王さまやっつけろ』
クリスティーネ・ネストリンガーのナンセンスな幻想コメディ『きゅうりの王さまやっつけろ』(1972。若林ひとみ訳、岩波少年文庫)は、「ボルフガング・ホーゲルマンが、ドイツ語の先生のいうストーリーの構成を一応頭に入れながら、真実を語る」という副題がついています。
平凡な一家に闖入する異形の者
語り手の〈ぼく〉、ボルフガング(ヴォルフガング)・ホーゲルマンは12歳。学校の課業では数学が苦手で、苦労しています。
70歳手前の祖父、40歳の両親、15歳の姉マルチーナ(ギュムナジウム5年生)、小学校2年生の弟ニキ(愛称ニック)と6人で暮らしています。
西洋の都市の平凡な一家、といったところでしょうか。
話は去年のイースターサンデーに始まります。
復活祭は春分後の最初の満月のつぎの日曜日です。本書刊行前年(1971年)のばあいは4月11日。ちなみに2022年は4月17日でした。
〈台所のテーブルの上に〉、〈目や鼻や手足〉のある、〈ごろんとした大きなきゅうりか、うらなりのかぼちゃ〉を思わせる〈五十センチぐらいの大きさの、あるものがすわっていた〉のです(19頁。太字強調は原文では傍点)。
亡命王は食わせ者
この〈冠をかぶったきゅうりかぼちゃ〉は、
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?