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岩波少年文庫を全部読む。(79)石井桃子さんが〈コケモモ〉と訳したのは何ベリー? アリソン・アトリー『西風のくれた鍵』

『西風のくれた鍵』石井桃子+中川李枝子訳、岩波少年文庫)は、アリソン・アトリーの短篇集『幻のスパイス売り』(1944)所収の14篇から、表題作を含む6篇を訳し、そのうちの1篇を新たに表題にした作品集です。

シリーズものではない短篇集

アトリーの石井桃子+中川李枝子訳には、すでに長期シリーズ《グレイ・ラビット》ものの最初の4作を訳した『グレイ・ラビットのおはなし』(岩波少年文庫)がありました。

今回の本はシリーズものではなく、それぞれ独立した短篇です。いずれも民話的な設定をとりながら、妖精や魔法を説得力ある形で作中世界に登場させています。

冒頭に収録された「ピクシーのスカーフ」のディッキー・バンドルは、祖母とダーティムアの荒野へコケモモ(後述)摘みに出かけ、美しい絹のスカーフを拾います。

そのスカーフを持っていると、地面や川になにが潜んでいるかを見通す透視能力、そして日本民話「ききみみずきん」木下順二による再話が『わらしべ長者 日本民話選』[岩波少年文庫]にある)のように動物の言葉を理解する能力を身に着けます。

それはピクシー(身長20cm程度とされる妖精の一種)の女王のスカーフで、ピクシーたちがそれを取り戻しに、ディッキーのもとにやってきます。

〈コケモモ〉は何ベリー?

〈コケモモ〉は一般にはリンゴンベリーをさします。IKEAでジャムを売ってますよね。

クランベリーに似てますが、クランベリーほどの酸味や渋味はありません。

ところが、「ピクシーのスカーフ」には、このような記述があります。ディッキーが突如与えられた超能力に気づく場面です。

ディッキーは熟したコケモモを摘みながら、あちこちをながめ、口笛をふき、小さい絹のスカーフのことはもう忘れて、ぶらぶらと、おばあさんのあとについていきました。そして、むらさき色に染まった両手で、コケモモのしげみをかきまわしたり、小さい葉っぱをおしのけたりしていきながら、いままで考えてもいなかったほど、たくさんのものが見えるのに、びっくりしました。

アトリー「ピクシーのスカーフ」石井桃子+中川李枝子訳
前掲『西風のくれた鍵』所収、9-10頁。
太字強調は引用者による。

〈むらさき色に染まった両手〉? コケモモは赤のはずですが……。

じつはこれには、わけがあります。

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