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岩波少年文庫を全部読む。(124)リアリズムとアレゴリーの絶妙なバランス フランシス・ホジスン・バーネット『秘密の花園』

フランシス・ホジスン・バーネット『秘密の花園』(1911)は、児童文学史上でもどうにも位置づけしづらい、規格外の作品です。

ヒロインのメアリ・レノックスは、20世紀初頭の英国領インドで生まれました。
家庭は裕福でしたけれど、両親の愛は受けませんでした。父は仕事一筋、母は遊び呆けています……ってこれ、ケストナーの『点子ちゃんとアントン』(1931。池田香代子訳、岩波少年文庫)の点子ちゃんちと同じじゃん!

「つむじ曲がりのメアリさん」

メアリは現地人の使用人に育てられました。その結果大いに甘やかされ、すっかりスポイルされてしまいました。
自己中心的で我がままで、文句ばかり多い気難しい子に育ってしまったのです。

現地で感染症(コレラ)が流行し、メアリの両親も、多くの使用人も、命を落とします。
生き残ったわずかな使用人は、幼いメアリを置いて出ていってしまいました。

父の同僚である英兵に発見されたメアリは、聖職者に身柄を一時的に預けられます。そこでは、聖職者の子どもたちにからかわれ、嘲られる日々が続きました。
このとき、メアリをからかうのに使われた歌〈つむじ曲がりのメアリさん〉は、マザーグース・メロディのひとつです。

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