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HIP-HOP360展で思い出した、「アートで食べていけない」という圧力とピュアな信じる心のこと

2021年、フィルハーモニー・ド・パリ(Philharmonie de Paris)で「HIP-HOP 360」展をやっていた。フランスのHIPHOPカルチャーをぎゅうぎゅうに詰め込んで、貴重な写真やファッション、ダンス映像を見ることができる。ストリートアートの歴史も詳しく書かれていたし、もちろんたくさんの音源も聴けた。

ストリートアートを描く体験型の展示で、品のいいマダムが dirty word を描いてて、2人で笑いあった。その時の映像は、マダムの携帯の中に保存されてるはず。きっと一生会わないから、連絡先を交換すれば良かったけど…これもまた人生。

ストリートアートを堂々と壁に描ける体験型の展示

わたしが画面にグラフィティ風の文字を描いてたら、いつの間にかギャラリーができていて、子どもから大人までみんなが褒めてくれたのなんか嬉しかった。

そうやっているうちに、よく「イラストを描いて」と頼まれていた10代の記憶が蘇ってきた。友だちのノートに、ポケモンやオリジナルのキャラクター、漫画をひたすら描いていた思い出がある。地方の公立の小・中学校だったのでゆるいヤンキーも多く、彼らにはグラフィティーやタトゥーっぽいイラストも描いてあげていた。

絵を描いて人を喜ばせることの、はじまりの記憶かもしれない。

歴代のレコードジャケットが並ぶ

中学で飛び抜けてやんちゃだった美人のさおりちゃん、わたしに「NYでストリートアートやりなよ」とか「絵がうまいからタトゥーアーティストになりなよ」とか言ってくれた。お兄ちゃんの本も、何冊も持って来てくれた。

地方なので、アート(芸術)が仕事になるなんて想像もつかない環境である。イラストレーター?漫画家?ストリートアート?タトゥーアーティスト?... 誰も本気でそれで食べていけるなんて信じてない。

でも、さおりちゃんは「それが仕事になる」ってストレートに信じて、わたしたちの小さな世界の中からこの2つを導き出したと思うと、なんだかとってもピュアでまっすぐな心である。

アーティストのライブも、360度画面で臨場感たっぷりに展示されている

幼稚園の頃から「アート(芸術)では食べていけない」っていう無言の圧力を感じていて、でも場所が変われば、全然そんなことなかった。

フランスやドイツは、アーティストへの国家的支援も多いし、生きやすい。美大に入れば、その先の進路としてアーティスト・イン・レジデンス(AIR)やギャラリーへの所属がある。それぞれが苦労して生き方を模索しながらも、胸を張って「職業はアーティスト」と言える環境がある。

こんなにいい場所にいられるなんて、諦めなくて良かった。諦めさせてくれなかった、周りに感謝しないといけない。

そんなことを思い出しながら、パリに暮らしている。

グラフィティーで埋め尽くされたメトロの再現がかっこいい

・HIP HOP 360展
会期:2021年12月27日〜2022年7月24日
場所:フィルハーモニー・ド・パリ(Philharmonie de Paris)

ラップやダンス、グラフィティやファッションなど、フランスの文化に影響を与えた40年間のヒップホップの文脈を追う展覧会。写真や映像によるハイセンスな展示や、没入感のあるプロジェクションマッピングなどの手法にも注目が集まった。
https://philharmoniedeparis.fr/fr/activite/exposition/23375-hip-hop-360

公園内でもひときわ目立つ外観

・フィルハーモニー・ド・パリ
フランス、パリの19区ラ・ヴィレット公園内にあるコンサートホールを含む複合施設。2015年にオープン。フランス人建築家ジャン・ヌーベルら設計。 

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