CEIBS MBA修了に際しての雑感
今日、CEIBSの卒業式典を迎えます。
本来は3月の予定でしたが、コロナウィルスの影響で延期の憂き目にあった上に、オンラインでの開催となります。しかしながら168人の卒業生のうち、中国国内に残っている学生90人以上がオフラインで卒業式典を自発的に組織しました。ほとんどの同級生は春節以来あっていませんので、今からが再会が楽しみです。
さて、良いタイミングなので、これまでの歩みを簡単に以下のポイントに沿って振り返ってみたいと思います。
対象とする読み手は、
MBAを考えている人、海外で働きたい人、中国ビジネスに携わる方、ですかね。
1. クラスメートには感謝してもしきれない
2. 当初の期待は何だったのか?
3. 私がCEIBSを選んだ理由
4. 成果はあったか?
5. さて、次は何をするか?
文体がやや翻訳調になっているのは、Deep Lで英語版を簡易翻訳したせいです。私の日本語能力が衰えていることも一因ですがw
以下、本論です。
1. クラスメートには感謝してもしきれない
まず第一に、だいぶシニア目な同級生をあたたかく迎え入れてくれたクラスメイトには本当に感謝しています。
非中国人学生からは、文化や枠にとらわれない考え方に触れることができましたし、中国人のクラスメートのおかげで、ケースメソッドを超えて、彼らのビジネス文化や市場の洞察力をよりよく理解することができました。これは私にとって素晴らしい補修教材でした。
グループワークの機会も数多くありましたが、それ以上に、上海、インド、台湾、韓国、ドイツなど各地域文化をテーマにした交流イベントから、最も印象に残るイベントの一つであるデザートチャレンジ(3日間で砂漠を70キロ走破するクレイジーなレース)まで、様々な課外活動がありました。そしてもちろん無数もの飲み会も。クラスメイトから常に刺激を与えてもらい、励まされもしました。これが私の目標とどのように関係しているのかは、後ほど詳しく説明します。
2. 当初の期待は?
そもそもの、動機付けは以下noteに記載しましたが、改めて。
北京で2年半ほど働いていましたが、常に物足りなさを感じていて、どのキャリアコースを選ぶべきか悩んでいました。それまでは、仕事をしている時間が長すぎたので、じっくり考える時間がなかったのです。昨今、物議を醸している尋常ではない働き方の中(中国で言う996=朝9時から夜9時まで週6日勤務)で.. まあ、少し燃え尽きていたかも部分もあるかもしれません。
北京での生活!キャッチアップのためにあらゆる努力をした。/引っ越して最初にしたことは、部屋にホワイトボードを買ったこと。休日はずっと中国語づくし / 天気が良い時もあれば、そうでない時もある......霾雾。
中国での仕事は私にとって非常に刺激的な経験であり、中国の同僚やパートナーとのコラボレーションを本当に楽しんでいました。北京での勤務で最も幸運だったのは、カウンターパートがCXOレベルのエグゼクティブだったことです。しかし、その分、戦略的なフェーズではクライアントの問題に答えられないことを実感しました。そこで、パートナーとしてクライアントの事業戦略にどう貢献できるかを考えるようになりました。
次に気付いたのは、現地のネットワークが不足していることです。よく言われることですが、中国では「関係(グアンシ)」という関係性は決して過大評価できるものではありません。前職の会社が業界最大手の国営企業と提携しているのは確かですが、それを十分に活用できていないように感じました。それは、相手が何を提供してくれるのかを正確に見極める目を持っていないことが原因の一つだとも考えました。
また、私は適切なリーダーシップを発揮することができませんでした。何でもかんでもやろうとしてしまい、あっという間にサーバントリーダーになってしまい、自分で期待していたほどの成果には至りませんでした。それは、同僚の個人的なモチベーションと会社のミッションとの橋渡しを怠っていたからです。その結果、若く優秀な同僚たちを活用して、チームにダイナミズムをもたらすことができませんでした。中国の労働文化は、平均勤続年数が2~3年(ドイツは11.7年、日本は16.2年、アメリカでも5-6年)というユニークなものです。特に若い世代は会社へのロイヤリティーが低く、組織の知識や能力のほとんどを身につけたと思ったら、すぐに辞めてしまうのです。大切なのは、彼らの職場や人生に何を期待しているのかを見極め、彼らのビジョンに合わせて仕事のデザインをしてことであると感じました。この時点で、ポストMBAで、中国のテック系/ネット系の会社へん転職を考えていたので、次代を担う中国の若者との働き方は私にとって大きなテーマでした。
以上の仮説に基づいて、自分に必要なのは次のようなことだと考えました。
1. 「中国市場で勝てる」事業戦略を立案する能力
2. ローカルネットワークを活用して確実に実行するための基盤
3. ラテラル・リーダーシップ、年功に基づかないフラット型組織の統率力
その後、私は自分の散らかり切った人生を整理し、長期的なキャリアプランを練り始めました。
3. なぜCEIBSなのか?
私には時間と環境が必要でした。じっくり次のような機会を持つことで、中国市場でビジネスを拡大するためのヒントを知ることができるのではないかと考えました。
1. 中国市場における事業戦略ケースが学べる場(企业战略规划)
2. 中国のインナーネットワークに入り込む(融入圈子)
3. ラテラルなリーダーシップが必要とされる場所に飛び込む(横向领导)
そういう意味では、CEIBSは、グローバルで通用するマネジメントスキルを学びつつ、中国を深掘りする(China Depth、Global breadth)という明確な指針があり、かつ、先端マーケティングコースがありました。世界的にもレピュテーションが高まりFinantial Timesで世界5位に躍り出たタイミングでもありました(この評価については内部でも色々な議論があるが、またの機会に)
次に多様性が低い(70%は中国人!)という点で、私の中国人インナーネットワーク潜入という目的に適った場所でした。なお、中国の上場企業のうち7%はCEIBS出身というデータもあります。
最後に、年齢層的に30前後が多いフルタイムMBAも魅力的に映りました。前職では、社内で相談したところ、私の年齢とキャリアを考慮するとフルタイムのMBAコースではなく、働きながらパートタイムのEMBAコースを受講した方が良いと勧められましたが、しかし、EMBAは私が望んでいたほどコースに没頭できるカリキュラムではなく、学生も40歳前後の大企業管理層が多く、ラテラルなリーダーシップを学ぶ場とはほど遠いものでした。したがって、最終的にはフルタイムのMBAに通うことを決心しました。
そこで私は会社を退職して、CCTVの真向かいにあるアパートから、15平米の寮の部屋に引っ越すことに決めました。
実際には、寮生活は快適だった(笑)
4. 成果はあったの?
前提としてアカデミックな内容については、ほぼ実務や書籍や通信教育で学び得るものだという前提でお話しします。私の場合はとにかく立ち止まる時間がなかったので、相対的に緩い(時間的にもrequirement的にも)雰囲気の中で、自身の経験を客観的に捉え直す時間ができたというのが一番の収穫だったかもしれません。
まず第一に、フレームワークや理論を使って自分のキャリアを振り返る時間がたくさんありました。
組織行動学とHRマネジメントのコースでは、自分が職場で何をしたかを評価し、「学習する組織」を作るために何をすべきだったのかを知るための非常に実践的なフレームワークを学ぶことができました。
マーケティングの選択科目では、中国企業の事例が多く、CDPやアドテックの最新のショーケースでもありました。DiDiやファミリーマートなどの大手企業のデータマーケティング戦略について、信頼できる情報提供者を持つ教授もいて、彼らからローデータを入手して分析することもありました。それはとても刺激的でした。最先端の事例は実体験で知っているつもりでしたが、O2O戦略をはじめとしたリテールマーケティングの事例が新たに出てきて、自分の知識不足を露呈することも多くありました。
また、クライアントに提案したものが本当に効果的で、企業戦略に沿ったものだったのかを再考するためにも、ストラテジーのコースは役に立ちました。ゲーム理論やミクロ経済学は、中国要素が色濃く、市場/競合分析に直接応用できる部分もありました。
総じて、理論やフレームワーク等を、実際のビジネス上の問題と容易に関連付けることができたので、非常に有益だと感じました。一方で、ファイナンスのような自分にとって全く新しい科目を学ぶには準備不足でした。実務で必要となるタイミングには確かな基礎になるでしょう。
クラスメイトからも多くのことを学びました。特にアジア諸国ではミレニアル世代が経済を牽引しており、彼らは単なる消費者ではなく同時にトレンドセッターでもあります。同級生の中でも、ひときわシニアな学生だった私にも親身になって率直なフィードバックをくれたクラスメイトには本当に感謝しています。私は彼らが社会的なトレンド、ライフスタイル、最新の技術について何を感じているのかについて、興味深い洞察をシェアしてくれました。
SONY元会長の出井さんや、タタモーターズの元社長など、めちゃくちゃ気軽にsessionの時間くれます
さて、CEIBSが標榜する”China Depth”ですが、正直言って、講義は「中国深掘り」という文脈に欠けていて、私の期待を超えるものではなかったと感じています。それが、「中国」の要素を補うために、CEBSのコミュニティ内外でのネットワーク作りに力を入れた理由の一つでした。
学外でのネットワーキングについては、卒業生や同じ背景や興味を持つ外部の人たちとのつながりを築くことができました。アリババ、テンセント、バイトダンス、IDEO、Flipkartなど、多くのトップ企業を訪問しました。そこでは、現場の人たちが実践的なアドバイスをしてくれました。実際のビジネスの世界で何が起こっているかを常に把握しておくことは、1年や2年にわたるMBAプログラムで何を学び取るべきかを逐次判断する上で非常に重要だと感じました。さもなければ、トレンドの変化速度が著しい中国だと半年くらいで時代遅れの過去の遺物化してしまいます。。ケースとネットワーキングのバランスが必要だと思います。
そう言えば、海外・中国モジュールの素晴らしさに触れ忘れていました。2週間の間にシリコンバレーと深センのモジュールに参加し、世界最大のイノベーションハブである両都市の差異を理解する機会を得られたのはラッキーでした。
企業訪問(アリババ/IDEO/Flipkart/Bytedance...) / 展示会(CES)/ファミリーマート中国向けICSP
まとめると、、
1. 「中国市場で勝てる」事業戦略を立案する能力
→学んだことをすぐに応用する機会も得られ、概ね満足。
2. ローカルネットワークを活用して確実に実行するための基盤
→EMBA、卒業生を含むCEIBSコミュニティに潜り、協業体制の拡充中
3. ラテラル・リーダーシップ、年功に基づかないフラット型組織の統率力
→若作り作戦であらゆる機会で交流を図り、理解を深める。まだ途上。
当初想定していたことは得られたものの、カリキュラムに乗っかって過ごしていても、十分なVFM(費用対効果)が得られないというのが、私の実感です。China Depthは、欧米人向けにはそれなりの深みとして感じられるかもしれないが、日本人で中国で一定期間働いた方には食い足りないかもしれないです。この辺は、自分の動き方次第、というありきたりの回答にはなってしまいますが。
5. それで、次は何をするのか?
卒業前の昨年末、MBA修了後に中国大手育児メディア「Babily」を運営するスタートアップ(Onedot)にChief Strategy Officerとして参画しました。
ユニチャームとBCG Digital Ventures発のスタートアップで、育児メディア事業に加え、自社で培った事業知見を生かして、日系企業の皆様と中国事業/マーケティング領域で協業させていただいております。
ポストMBAのキャリア選択については、また別の機会に詳述しようと思いますが、アリババなどの中国企業からのオファーと比較しても、最終的にジョインした一番の理由は、中国市場でクライアントを勝たせるための能力を備えた精鋭集団を作れるのではないかと考えたからです。
当初目的とした3つの能力が十二分に培われていれば、事業も上手く運ぶのではないかと考えて、謎の実習生おじさんとして半年ほど手伝っていましたが、たまたま幾つかのプロジェクトが上手く運んだこともあり正式にジョインして事業拡大にコミットすることにしました。
今回、そのOnedotにて10.5億円の資金調達を発表しました。
まだ資金調達を通じて事業拡大の目処が立ったという状態で、しばらくは企業価値の向上のためにも、ハードな日々が続きますが、ポストMBAのキャリアとしては大体、当初思い描いたような仕事ができている状態です。
私の経験としては、こんなところではありますが、先日AGOSのセミナーの事前打ち合わせで、「コロナ後は、全く状況が変わっているのでオフラインの講義やネットワーキング機会があることを前提とした経験譚は、今のアプリカントにとっては価値ないのでは?」との議論になりました。
たしかに、再現性の低いエピソードを書き連ねても意味が薄いので、私なりにMBAの価値について、アプリカントや(一部)アンチMBAな方々の中に渦巻く疑念について、答えてみました。ご興味のある方は、こちらの記事をご参照ください。
最後に
改めて、CEIBS受験に際して相談に乗って下さった方々、背中を教えてくださった方々、アルムナイの皆様、いつも私の勝手気ままな生き方を肯定してくれる家族....皆様のお陰で、この二年間でまたとない経験をさせてもらいました。改めて御礼申し上げます。
万人受けするスクールではないけれど、これから中国事業に関わる可能性があり、かつMBAを目指す方にとっては、一旦覚悟を固めて飛び込めば間違いなく最高の体験を提供してくれる装置だと思いますので、是非選択肢の一つとして考えていただければと思います。
私自身は、今後も、どのキャリアコースに進むにしても、中国とのクロスボーダービジネスに携わり続けたいと思っています。それはビジネスの機会という実利的な目的だけでなく、中国各都市の豊かな文化に魅せられたからでもあります。この3年間、主要都市に行ってきました。(北京,上海,青岛,天津,烟台,阿拉善,银川,西安,南京,武汉,长沙,成都,香格里拉,丽江,大理,昆明,广州,福州......) まだまだ中国の都市を探索したいので、何かお勧めがあれば、教えてください!
私は日本と中国をつなぐ「架け橋」になりたいというほどナイーブでも野心的でもありませんが、相互理解があってこそ、未来志向の関係が築けると強く信じています。ですから、私は中国のことを学び続け、日本の友人たちに中国のビジネスや文化の最新情報を伝えていきたいと思います。最近の中国ドラマや映画はレベル高くて面白いですよー。
引き続き、よろしくお願いします。ではまた。
2020/6/20 谷哲也