メイと呼ばせる女(5)
池袋北口のはずれ、迷路の様なションベン臭い路地の途中、
壊れて点滅する中華屋の看板のわきの階段を上がった
3階のどん詰まりにある福建省の黒社会、斧頭幇の事務所。
中国人に殴られてボロボロの龍が血を流して倒れている。
行先を無くした龍が、おねーちゃんをスカウトして
売ろうとしたら斧頭幇の関係した女性で、うちの事務所に
「你的小流氓招惹我们的女人!
(おたくのチンピラがうちの女の子にちょっかいを出した!)」
と、電話があり、
多少中国語が分かる自分が話す。
「那个人是谁?(そいつは誰だ?)」
「他是龙!(龍だ!)」
「那个人经被逐出我们了,所以在那里做你想做。
(そいつは、すでに破門しているから、そちらで好きにしろ。)」
「它没有。(そうはいかない。)
他抹黑了我们的脸。(うちの顔に泥塗りやがった。)」
「那么你想让我做什么?(それで、どうしろと?)」
「給我銭!(金を払え!) 给我100万円可不可以?(100万でどうだ?)」
今、池袋の黒社会ともめたら、親父の進めている手打ちの話に影響する。
まぁ、100万なら安いもんだ。 後で龍に稼がせるか。
「OK!我们的人将会去池袋付款。(池袋までうちの者が払いに行く。)
当场把龙交给我。(その場で龍はよこせよ。)」
「好的。(わかった。)」
電話を切って、壮一を呼ぶ。
「おい、壮一。 龍が池袋で斧頭幇に捕まっている。
悪いが、この金を持って連れて来い。」
「兄貴、龍は破門になったんじゃないㇲか?」
「いいから、行ってこい。 福建の黒社会は気が荒いし、
すぐ刃物を出すから注意しろよ。」
「恐いㇲね。 隆二兄貴にも一緒に行ってもらっていいㇲか?」
「好きにしろ。」
壮一が出かけた後に、
「組長、すいません。 斧頭幇と破門モノがもめまして、
金で話は着いたのですが、破門モノを引き取る羽目になりました。」
「まぁ、いいさ、おめえは俺の進めている手打ちに支障が出ると
思っての事だろう?」
「はい。」
「破門状はまわしてあるのか?」
「いえ、チンピラなので破門状はまわしていません。」
「そうか、その破門モノは、きちっと教育せぃよ。」
「ありがとうございます。」そう言って組長の部屋を出る。
ボコボコにされた龍が組事務所につれてこられた。
「てめえもこれで組織のありがたさがわかっただろう。
てめえは、今から壮一の舎弟だ。 わかったか? 龍。」
「へ、へい。」
「壮一、便所掃除からやり直しさせろ。」
「へい、兄貴。」
あぁ、そうだ、バー雅のメイに連絡して、
龍が戻ってきたが、相手にするなと言わなきゃいかんな。
時計を見て、もう出勤している時間だろうと思い電話する。
「バー雅かい?」
「はい、そうですけれど?」
「悪いな、ママさんかメイさんを呼んでもらえないかな?」
「ママさんを呼びますね。」
「あら、若頭、どうしたの?」
「いや、メイが付き合っていた、龍が戻ってきたが、
相手にするなと伝えてくれないか?」
「あら、そうなの? でも、それなら直接言ったらどうなの?」
「俺も若頭になって、色々、忙しんだよ。」
「ゴタゴタに巻きこまれているんでしょ。
それならなおさら、若頭から直接伝えた方が良いわよ。
もうすぐ出勤してくるから、席を作って待っているから、
私もあいたいしね。」
「そうか、それじゃ後でよるわ。」
バー雅の扉を開ける音がコロンコロンと鳴る。
「あら、いらっしゃい。 こちらに席を用意してありますわ。」
「悪いな。」
「いいわよ、長い付き合いですもの。 ちょっと、メイを呼んで。」
「はーい」と声が聞こえ、メイが現れる。
「メイ、破門にした龍が戻ってきたが、
今は一から出直ししている。 奴が声を掛けてきたら、俺に連絡をしろ。」
「いい? 若頭はメイちゃんのことを心配して言っているのよ。」
「は、はい。」
「まぁ、今度は壮一の舎弟で一からやっているので大丈夫だとは思うが、
また、そぞろロクでもないことを始めると組としても困るんでね。」
「は、はい。 わかりました。」
「じゃぁ、これで乾杯しましょう。」
「かるくな。 ママは酒豪だから、付き合って飲んだら破産しちまう。」
「乾杯!」と言いながら、ママはメーカーズマークのロックを飲み干す。
俺は、なめるようにグレンフィディックの水割りを口に含む。
相変わらず、良い酒を置いている。
メイはビールのハーフアンドハーフを頼んだようだ。
久しぶりに、ゆっくり酒を飲み、少し酔っぱらった。
ママが「今日はうちに泊まる?」と聞いてきたが、
「明日もあさから忙しいので帰る。」と言って店を出ると、
メイが追いかけてきて、
「色々、すいません。 」
「まぁ、色々あったからしゃーない。」
「これからもよろしくお願いします。」と名刺を渡してきた。
「じゃな、バイバイ。」と言って別れて、名刺の裏を見ると
携帯電話の番号と、うめこと書いてある。
メイと呼ばせる女、うめこ。
・・・
これは創作で、主人公に似た名前の人もフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。
あくまで、妄想ですので事実と誤認しないようにお願いいたします。
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