またBTSに救われてしまった|BTS『Answer : Love Myself』
音楽を聞いて涙が止まらなくなるなんてフィクションじゃない?と思ってた。少なくとも、その主語が私である場合は。
音楽を聞いて涙する人がたくさんいるということは勿論分かっている。でも自分に限っては別だった。そういう感受性の高さを持っている人が羨ましかった。「私はそうじゃない 心が冷え切ってる」馬鹿みたいだけど、そうやさぐれたくなるときさえあった。
そんな私が。日本語訳を見ながらとはいえ、音で理解できない外国語で歌われた歌で。ましてやライブ会場ででも、ライブ映像ででもない。声と音、ただそれだけのみで。
大切にしたいと思う人がいる。私は外向的で、その人は内向的だ。私はオプティミストで、その人はペシミストだ。私は行動し、その人は思考する。私は変化する物事を追うことを愛し、その人は波乱を起こさぬように努める。私は他人から見た自分にさほど興味がなく、その人は仲間から頼られることを原動力としている。挙げ始めるときりがないが、思いつくほぼ全ての性質において私とその人は真逆なのだ(MBTI診断でも真逆のパーソナリティだった)。
そんな私たちが手を取り合って生きていくためには、どうすれば良いのだろう。それはまったくもって一筋縄ではいかない。悲しいことに、分かり合おうとするたびに(と言っても過言ではないほど頻繁に)、私たちは揃って浅くはない傷を負う。傷つき、それを癒やし、また傷つき、またそれを癒す。それを繰り返すうちに互いをより深く理解し精神的に繋がることができるようになるのか、同じところを延々と回り続けるだけで何も変わらないのか、その答えは未だ出ていない。
そして今日も例によって、大切な話を穏便には終えられなかった。私の感覚で言えば、私たち自身について考えるため、私たちは言葉を交わす労を惜しんではならないと思う。しかしその人は、特に重要なものであればあるほど、自分の感情や考えを言葉にしない。
そのとき、2018年のBTSの国連でのスピーチを思い出した。"SPEAK YOURSELF"はまさに、私がその人に求めるただひとつのことだった。
「どうすれば自分を愛せるんだろう」
「それが全然わからなくて怖い」
どうかこれを見てほしい、そうお願いして共有したスピーチの動画を見て、その人はこう言った。
ハッとした。私にとって、自分自身を愛することは当たり前で簡単なことだった。誰が私を嫌おうと疎ましく思おうと、どれだけ私が怠惰で狡い人間であろうと、基本的にどんなときでも私はずっと私の味方だった。自分が幸せでなきゃ!と思っているし、私は私を幸せにできると信じている。私はLOVE YOURSELFの難しさを自分ごととして捉えられていなかった。
そんな中、半ば縋るような気持ちで再生したのが『Answer : Love Myself』だった。
歌詞と日本語訳を見ながら聞き進めていくうちに、涙が溢れて止まらなくなった。豆電球の灯るオレンジの部屋の中、枕をびしょびしょに濡らした。
そこには、私が言葉にし得なかった思いがあった。これが私の気持ちだなんて烏滸がましくて言えないけれど、これをその人に掛けたい、知っておいてほしいと願う言葉があった。私ひとりではその人に寄り添うことはできなかった。でもBTSがその間を埋めてくれるような気がした。
またBTSに救われてしまった、と思った。
もしかしたら
誰かを愛することよりも
難しいのは
自分自身を愛することかもしれないんだ
正直に
認めるべきことは認めよう
君が定めた基準は
君にとって
より厳しいということを
君の人生の太い年輪
それもまた君の1部、君そのものだから
もう 自分自身を許してあげよう
見捨ててしまうには
僕たちの人生は長い
迷った時は自分を信じて
冬が過ぎれば春が来るように
辛いことの後には
良いことがあるんだ
何故、救われて「しまった」と書くか。
私からこの歌詞を押し付けられたその人が、少しでも救いを感じられたかどうか、私には分からないからだ。私だけが心を動かされ、救われたように感じて興奮し、自己満足しているだけの可能性は大いにある。都合良く勝手に救われてしまった私の独り相撲かもしれない。
そしてもうひとつ。ひとりの人間の集まりであるBTSに、理想を押し付けたり、依存したり、盲信したりしたくないからだ。常に(とは言わないまでも多くの場合において)、BTSは素晴らしい言葉や姿勢を示してくれる。それらは機知に富んでおり、包み込む温かさがあり、眩ゆい。BTSのファンであることを誇りに思わせてくれる。だから、つい無闇に信奉したくなる。でもその度が過ぎることに対する恐怖を、私はいつもどこかで感じ続けている。
意図していたわけではありませんが、僕は自分自身を愛するために、みなさんを利用していた気がします。
なので、一つだけ言います。ぜひ僕を利用してください。ぜひBTSを使ってください。あなた自身を愛するために。
なぜならみなさんが毎日、僕たちに僕たち自身を愛することを教えてくれるからです
ワールドツアー「Love Yourself」最終公演でのナムさんのスピーチの一部だ。この言葉を知ったとき、私はそれをナムさんと私との間の約束だと思った。そしてそれを守るため、私の場合は今のように一歩引いた目線を持ち続けることを必要とする。一歩引いた目線を持っている私でないと、私は私を愛せないからだ。
きっとこれから先にもまた、今日のようにBTSに救われる夜が来る。そして私はそのたびに「またBTSに救われてしまった」と、何度も何度も思うのだろう。
そんな捻くれた感情すらも肯定してくれるであろう人たちだから、私はBTSが好きなのだと思う。