アーティストとサイコシンセシス

アーティストとサイコシンセシス(統合心理学)1

シンボロジー研究会のみなさん

サイコシンセシス(統合心理学)の創始者のロベルト・アサジョーリは、そこにいるだけでいい香りが漂ってくるような感じの人物だったそうですよ。

アサジョーリの弟子たちは「先生はいつも自分の最高の部分を見てくれている」と感じていたようです。人は他者から期待されるだけで、学習や仕事の成果がアップすると言われています。心理学ではこれをピグマリオン効果と言います。

ましてや自分でも意識しづらい自分の最高の側面を見てくれている指導者が身近にいたら人の資質がどれほど開花するかは測り知れないほどです。アサジョーリはそういう意味で人の隠れた資質を引き出す天才だったと思います。そういう人だったから他の心理学者が想定しなかった上位無意識の存在や、さらに個人的な無意識を超えたトランスパーソナルな意識まで自らの心理学体系に位置づけることができたのだと思います。

アサジョーリは深層心理学の系譜の中では、例外的に「意志」の機能を重視した人です。深層心理学者の多くは何らかの問題行動や病理的な行動の原因を無意識に求め、下位無意識にアプローチしようとしました。

これに対し「無意識」よりも「意志」の働きに着目し、下位無意識だけでなく、中位無意識や上位無意識にアプローチして、人間の本来の可能性を発現させようとしようとしたのがアサジョーリの方法論です。

中位無意識と結びついた意志に着目したノウハウは現代コーチングにも受け継がれています。ビジネスマンやアスリートの間でもこうしたノウハウは実践されています。

しかしアサジョーリのいう上位無意識と結びついた意志は忘れられています。ビジネスは中位無意識にフォーカスしていればできるもので、通常の仕事のレベルで上無意識からの高次のインスピレーションなどほとんど要求されることはないからです。

しかしアーティストは違います。日常意識に近い中位無意識レベルにフォーカスしたアプローチだけでは表現力をレベルアップさせるのに十分な効果は得られないからです。

現実に立ち返って日本で講座やワークショップを開催すると、自らの表現をレベルアップさせたいアート系の人たちと、目の前の経済の問題をまず何とかしたいというビジネス系の人々とが入り混じっていますね。さらにアーティストは自らの表現のレベルを高めたいという願いとビジネスマンとして現実の成果を出したいというの側面との両方を備えているために話がややこしくなります(笑)

現代は生活の面倒を見てくれる貴族もいないので、芸術家たちも表現活動だけに集中しているわけにはいかない時代です。

エニアタイプ3には、表現者としての側面とビジネスマンとしての側面を器用にこなしながらメジャーな方向に向かう人が多いようですが、タイプ4w5系の人は大きく稼ごうとはせずに山奥に引っ込んで世捨て人系の生活を選び彼らの考える「本物の表現」を追求する人もいるようです。これも人それぞれでどちらがいいという話ではありません。

アーティストの場合、表現者としてのスキルを高めることで結果として経済的にも潤うというパターンが理想ですが、それにはある程度時間もかかるし誰もがアーティストとして生涯生活していけるというわけでもありません。アーティストが経済問題に直面した場合は、そちらのサポートが必要になりますが、それはアーティストとしての能力を開発するアプローチとは異なるものです。やはりアーティストとしての能力を高めることを目的にしている人たちにはその目的に特化した場所が必要ですね。

ビジネスマンの多くは問題解決型のアプローチが身についているため、どうしても「問題」に注目してしまう癖が抜けていません。そうなるとアサジョーリ博士のように生徒の「最高の資質に常にフォーカスしている」ことなどできず全く違う世界が展開することになります。そのためビジネスマンと一緒のグループではアーティストにとって一番必要な上位無意識へのアプローチが取りにくくなるのです。

現実のワークショップや講座で問題を抱えた人がいれば、グループリーダーは問題にフォーカスします。皆さんもステージを作ったり作品を生み出す過程で何らかの解決すべき課題に直面することと思います。その場合は当然、課題をクリアするために課題にフォーカスしますね。それと同じです。

ここでお伝えしたいのはアーティストとしてレベルアップするための上位無意識にアプローチする方法論であり、問題解決のための方法論とは異なります。私がこの場では対象を7名のアーティストの方だけに限定しているのにはそういう理由もあります。

ゴールを達成する過程で、解決すべきチャレンジ(課題)が現れるのは当たり前ですね。そして皆さんはそうした様々なチャレンジを乗り越えて現在の立ち位置にいらっしゃるのだと思います。ここにいらっしゃる皆さんはそれぞれの活動のフィールドで問題が現れた場合、どのように問題に対処すべきかは既にご存知ですので、ここではそうした個々の問題の詳細には立ち入りません。

ここにいらっしゃる皆さんは、いかに問題を解決するか、いかにミスを減らすかよりも、いかに自らの可能性を拡大するかにフォーカスすべき段階にいらっしゃる方たちです。グループリーダーがそれぞれのメンバーの「最高の資質」にフォーカスできる準備が出来ているということですね。

エニアグラムでいう、統合度の高いアーティストはインスピレーションの源泉である「上位無意識」にアクセスするスキルも高いのです。ここでは上位無意識がどのようなものであるか、そしてその領域にいかにアクセスするかについて主にお伝えしていきたいと思います。そのための知識やノウハウは非常にフラジャイルな側面も備えているため、一般に公開する場合は慎重にしたいと思っています。

理屈っぽい話を長々と失礼いたしました。

こういう話は表現領域での経験の乏しいビジネスマンの方や学生さんには実感が沸きにくい内容ですが、この場では役に立つかと思い、つい長く語ってしまいました。

今日も良い1日をお過ごしください。

アサジョーリ


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