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【感想】新旧「ドラえもん のび太と鉄人兵団」食べ比べ

 どーも、筑前助広です。
 8月21日に早川書房より新作「独狼 念真流無間控」が刊行されるというのに、今回は故あって、「ドラえもん のび太と鉄人兵団」の新旧映画を観比べたので、その感想を記します。

 まずは、旧版からの感想。

「ドラえもん のび太と鉄人兵団」

この絵柄と声優がやっぱりいい

 この映画を観るのは、何十年振りであろうか。僕の好きなドラえもん映画の中でも、五指に入る本作。何となく、空気砲や瞬間接着銃、やまびこ山を使って戦争をするというイメージがあったが、改めて観ると「思った以上」に戦争をしていた。
 本作、敵が徹底して侵略者であり、侵略の過程がとても怖い。幼心にロボット兵団にビビッていたのを思い出し、あの時の恐怖は戦争への恐怖だったのだと改めて実感した。
 また作中でしずかちゃんが、「時々理屈に合わないことをするのが人間なのよ」と、池波正太郎ばりに小学生らしからぬことを言うが、これがより戦争をリアルにしているような気がする。理屈に合わぬことをするし、理屈の為に徹底して残虐な行為もする。その複雑さが人間であり、ロボットには後者は理解できても、前者は理解出来ない。その対比が見事であったが、のび太たちも人間なので、「理屈の為に徹底して残虐な行為」を容赦なくしている。
 それがジュドの改造。ドラえもんは、(戦争に勝つ為とは明言していないが、そう捉えられる)ジュドの脳を改造し、無理やり仲間に引き入れているのだ。しかも、ジュドは改造以降しゃべらなくなる。これぞ人間が持つ残虐さ(ドラえもんは人間ではないが)であり、かと言って他者を尊重し、平和を願うドラえもんたちの正義の心と矛盾していて、本作が徹底した戦争映画だと突きつけている。
 そして、ラストもまた圧巻ではあるが、エンディング曲「わたしが不思議」が何とも切ない。あの歌声は、戦争で散っていった者たちへの鎮魂歌のような響きでもあった。
 ただ当然ながら、不満点もある。思ったよりバトルの演出は薄かったこと。これは思い出補正があったのかも。そして僕が大好きな、名刀電光丸を使って欲しかった。
 いやー、面白い戦争映画でした。

 続けて新版です。


「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜」

キャラクターと迫力は、かなりアップグレードしている

 基本的な筋は旧版と一緒だが、全てに於いて進化していた。作画は勿論、キャラクターのデザイン、アクションの迫力、話の構成と整合性。全てに於いて整えられていて、かなり見やすいものに仕上がっている。
 これはこれで大変素晴らしいものであり、旧版であったジュド(ピッポ)の頭脳を改造し、仲間に引き入れるという問題の描写が現代的な解釈として改変されていて、令和に合わせて上手くブラッシュアップされていたのだと思う。
 全体的に映画としての満足度は高いが、どうしても作画が美しくなった分、旧版に漂っていた「悍ましさ」は失われているのは否めない。
 ただ、そもそもドラえもんに悍ましさは必要なのか? という疑問も湧くわけで、さらに言えば僕が懐古趣味で、旧版に思い出補正が入っているだけかもしれないが、「戦争」というテーマで見た場合は、旧版には感情に訴えるものがあった。
 つまり作品としての出来栄えは新版であり、テーマ性としては旧版と言ったところか。
 しかしながら思わぬ収穫というか、自分でも驚いたのは、声優交代の違和感は殆ど感じなかった。これは僕が慣れて来たということもあるだろうが、声優さんたちに頑張りだろう。
 重ねて言うが、作品としてはエンタメ性は抜群で、満足度も高い。単純に面白かった。
 その上で新版か?旧版か?の肝は、この作品に何を求めるか? かもしれない。

 正直、作家としてどちらがいいなんて言えない。
 旧版も勿論いいが、出来栄えとしては新版。なにせ、旧版では矛盾を孕んだ行動をしているのだから。
 でも、こうした矛盾こそが人間(ドラえもんだけど)という気もするし、戦争という気もする。
 ただ言えることは、この作品を再び観るきっかけを与えてくれた宮田さんには、心から感謝したいです。


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