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届かない声を宇宙から

誰もがコンプレックスの一つや二つを持っていると思うが、僕も常に沢山のコンプレックスを両手で抱えながら生きている。「先生、そんなに持てません」と手を挙げても、気付いたらボールの数が増えている。中でも、自分の声が死ぬほど嫌いだ。

僕はよく人と話す時に「え?なんて?」と聞き返されることが多い。声が低くてこもっているのか、聞き取れないみたいだ。自分ではハッキリと話しているつもりだが、相手の耳には届かない。僕は「すみません」と言って、もう一度さっき口にした言葉をゆっくりと繰り返す。相手にストレスを与えているかもしれない。そう思うと、人と話すのが苦痛になっていく。

小さい頃から自分の声が嫌いだった。あの頃は今よりもずっとずっと声が高くて、ミッキーマウス並みに甲高かった。あの声で話す子供がいたと思ってもらっていい。小さい頃のホームビデオを見ると自分でも似てるなと思う。

そんな特徴的な声をしていたからか、僕はモテていた。同級生とかではなくて大人の女性に、親戚のおばさんや幼稚園の先生によく可愛がられた。僕は背も小さくて、顔も女の子みたいだったからマスコットみたいな扱いだった。ひとり僕を異常に可愛がる先生がいて、僕に会う度に抱きしめたり、頭を撫でたり、明らかにえこ贔屓もいいところな寵愛を受けていた。僕はシャイだったのでそれが本当に嫌で、いつも先生の腕から逃れようと必死だった。

今の男の自我を持ってあの頃にタイムスリップ出来たらどんなに幸せだろう。クレヨンしんちゃんみたいに鼻を伸ばして上機嫌で抱きついていた。あれを5歳で出来るしんちゃんはやっぱり凄いんだな。

話が逸れてしまったが、このミッキーマウスみたいな声が嫌だった。夏休みにおばあちゃん家に行けば、親戚のおばさんが僕の声のマネをする。それを聞いて周りが「似てる」とアハハと笑う。おばさんたちに悪意はないけれど、当時はそれが嫌でずっと早く声変わりをしたいと思っていた。男らしい声になれば、誰にも馬鹿にされないんじゃないか。僕は早く大人になりたかった。

中学生の頃に念願の声変わりをして、今の声になった。今度は低くて誰にも届かない声になってしまった。僕の声変わりがしたいという願望が強すぎて、神様が頑張りすぎたのかもしれない。ミッキーマウスと言われないようにしてやろうと腕をまくって、張り切って僕の声を低くしてしまった。そんなに頑張らなくて良かったのに。

高校生の時にクラスの女子から「宇宙人」と呼ばれていた。別にイジメられていたわけではない。休み時間の何気ない一言だった。

「ちくわって声が変だよね。宇宙人みたい」

その子たちは「顔はいいのに、声だけが残念」と悔しがる感じで話していた。むしろそれ以外はいいんだよと褒めてくれてたけど、僕は顔がいいなんて枕詞よりも、声変わりをしても、また声について言われるのかという事実に落胆した。

自分の声は変だって喉元に突き付けられた。

それ以降、人と話すことが苦手になってしまった。ただでさえ聞こえづらいのに、僕は小さい声で話すから困ったものだ。声のせいで、性格も内向的になってしまった。

僕は話すことが苦手だから、文章を書いている。文章なら声で伝えなくても、自分の気持ちや思いを伝えることが出来る。時間をかけてゆっくりと。だから自分は書くことが好きなんだと思う。ここでは普段誰にも出来ない話を聞いてもらっている感覚で書いていて、それに凄く救われている。

でもそれは、結局は実生活から逃げているだけだと気付いた。社会は圧倒的に人との会話で成り立っていて、誰とも話さないで過ごすなんて100%無理だ。声というツールを使って、誰もが人間関係を構築している。家から一歩踏み出せば、当たり前のように話し声や笑い声が飛び交う。その声が息苦しく感じる時がある。

この間、社会のどこにも居場所がないような気がしてひとり夜に泣いてしまった。あの子たちのように、周りに上手く馴染めない。本当はもっと色んな人と会話をして仲良くなりたい。誰かに声を聞いて欲しい。そう思っている自分がいた。

声は一生変えられない。2回目の声変わりなんて出来ないし、美容整形みたいに後から変えることも出来ない。生まれ持った声で生きていくしかない。もうこの声と折り合いを付けて付き合っていくしかないのだ。

自分の声は好きになれないけれど、聞いて欲しいなら自分から声を上げなくちゃ。宇宙から声を発信しよう。たとえ届かなくても、いつもの「え?なんて?」が返ってきたとしても、心は折れるな。中には僕が話すまで目を見て、耳を澄まして話を聞いてくれる人がいる。僕の宇宙に入ろうとしてくれる人がいる。そういう人の宇宙に僕も近づきたい。宇宙人なりに社会に溶け込めるようになりたい。

あれ、なんだかメン・イン・ブラックが見たくなってきた。




どうしてこの話を書いたかと言うと、尾崎さんのラジオに文学フリマの時の自分の声が乗っていて死にたくなったからです。聞きづらいし、話すのも下手だし何なんだこいつは!

でも、尾崎さんがペンネームと本のタイトルを読み上げてくれて、その優しさが胸に沁みました。お話出来たことに後悔はないです。最後のエンディングに少しだけ入っているので、良かったら聞いてみて下さい。普段のラジオも面白くて最高です!

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