ホテルビュッフェで心満たして
今年の冬は九連休。溜まっていた探偵ナイトスクープの録画を見たり、小説を読んだり、家で充実した日々を過ごしていた。毎日、二時間昼寝もして睡眠もしっかり取る。ベッドに寝っ転がりながらスマホをいじる堕落した時間が何よりも好きだ。でも、友達のSNSを見ていると隣りの芝は青く見える、旅行に出掛けている投稿に羨ましく思ってしまう。
沸々とのび太みたいな気持ちになってきて、「どこか遊びに行きたいよ」とドラえもんに泣きつきたくなる。うちにドラえもんはいないから、その感情は家族に向けられる。悲壮感たっぷりに「みんな旅行してるって」と呟いてみる。
「せめてホテルビュッフェに行きたいな...」
家族で新横浜プリンスホテルのビュッフェに行くことになった。時間は17時から。本当は19時半からの回が良かったのに、父が帰るのが遅くなるのが嫌だという理由で17時からの回になった。せっかくのビュッフェなのに17時から飯が食えるか!僕は昼ご飯は軽めにして全ては17時のビュッフェに備えるため、お腹を空かしていた。
開店前のお店には既に人が集まり始める。二世帯で来てる家族が多かった。久しぶりに会う祖父母と美味しいご飯でも食べようという話になったのだろう。どの家族も和やかで楽しそうだ。
後ろに並んでいた小学生の男の子が「ハンバーグあるかなぁ」と可愛いことを言っていて、心の中で「ハンバーグよりも美味しい食べ物があるよ」と微笑ましく思っていた。でも、よく考えるとこの子は小学生の分際でホテルビュッフェを食べるのかということに気付き、途端に羨ましくなる。
僕が初めてホテルビュッフェに来たのは、大学生の時だ。その時は世の中にはこんな華やかな世界があるのかと甚く感動したのに、その感動を小学生の小さい体でもう体験出来るなんてリッチだ。「流石横浜の子だね」なんて思いながら、夢の扉が開くのを待つ。
時間が来てホテルマンがゆっくりと扉を開けると、ひと家族ごと座席に案内される。僕は席に案内される道中もビュッフェに何が並んでるかをチラ見して、期待に胸を膨らましていた。
席に着いて、すぐにローストビーフを母と取りに行く。ホテルビュッフェはローストビーフを食べに来てるようなものだ。目の前でシェフがお肉を切ってくれて、「ソースは和風ソース、グレービーソースどちらにしますか?」と渋い顔で聞いてくる。グレービーの意味も分からないけれど、グレービーソースを選んでかけてもらう。ツヤツヤなソースがお肉にかかって、光り輝く。
一旦ローストビーフだけテーブルに置こうと席に戻ると、隣りにいるおじさん二人組は既にサラダとお寿司だけ取って食べ始めている。
母と二人で「あれだけでいいのかな?」「てかあの二人は兄弟かな、めっちゃ顔似てるけど」とコソコソと話す。隣りのテーブルが大人の余裕を見せるなか、僕たちはせわしなく動き、食べ物を置いては取りに行くを繰り返す。フードファイター並みに食べ物が並んでいく。ひとり一万円のビュッフェ。一万円分食べないと損でしょう。
どれも家では味わえない美味しさ。姉が「これも美味しいよ」と僕が選んでない料理を勧めてくれて、今度はそれを取りに行こうと二週目も楽しむ。あれもこれも食べて二週しただけで、お腹ははち切れそうになった。二時間制なのに、開始一時間でダウン。勢いよく食べていた僕たちは急に「苦しい」と息を漏らし、箸は止まる。他の家族は和やかに談笑しているのに、うちだけがっつきすぎである。食べたお皿がタワーのように積み重なって恥ずかしい。こんなに本気で食べている家族はいない。
「マラソン大会で序盤だけ飛ばして、後から抜かされるタイプだね」
母がぴったりの例えをして笑ってしまった。それでも、どうしてもデザートを食べたいから僕は三十分休憩を挟むことをした。「デザートは別腹」なんて言うけれど、別腹もないくらいお腹はパンパンである。三十分経っても食欲は回復はせずに意地だけでデザートコーナーに向かった。でも、不思議とショーケースに並んでいるケーキを見ると途端に食べたくなる。好きなものを好きなだけ、お皿に敷き詰めていく。
その後、ソフトクリームも食べてようやく満足、さすがに満足。「もう食べれないね」と話していると、ウエイトレスがスッと黒い伝票を持ってくる。僕が予約をしたから僕の名前が書いてあった。「ちくわ様」だって。大人になった気分を味わいながら、僕は父と母に颯爽と宣言する。
「今日は僕と姉が払うから払わなくていいよ」
十二月にボーナスも入ったし、僕の我儘で連れてきてしまったから、最初から出そうと思っていた。今年もまだまだ実家にいる予定だし、これで日頃の感謝が全て返せるわけではないけれど、たまには親孝行しないとね。母と父は気を遣わなくていいのにと、照れながらも喜んでくれた。新年早々、美味しいご飯を家族揃って食べられて幸せである。心もすっかり満たされた。
家に帰り、リビングで全員牛みたいに横になった。これが正月の醍醐味でもある。今年もこんな当たり前の幸せを嚙みしめて生きていきたい。また来年も行けたらいいなと思いながら、今朝体重計に乗ったら2キロ増えていて戦慄した。少しは瘦せよう。
あけましておめでとうございます。明日で休みが終わってしまうのが、本当に嫌です。また仕事のある日々に戻ってしまう。気持ちを切り替えて、心穏やかに今年も頑張っていきましょう。noteも週1か週2のペースで書いていきますので、今年もよろしくお願いします。