
放送室からロックンロールは鳴り止まないっ
中学生の頃から好きなバンド「神聖かまってちゃん」がyoutubeの人気コンテンツ「THE FIRST TAKE」に出演した。まさか出ると思っていなくて、最初は嘘かと疑ってしまった。
かまってちゃんは人に好きだと言いづらいバンドだ。名前も妙で入りにくいし、ボーカルの「の子」さんは精神病持ちでメンタルが不安定。曲も鬱曲が多くて、好きじゃない人からしたら「気持ち悪い」の一言で片付けられそうなバンド。
でも刺さる人には刺さるのがかまってちゃんだ。僕はかまってちゃんしか聴きたくない夜がある。かまってちゃんファンは学校や社会に立ち向かうために、の子さんの曲をお守りにして聴いている人が多い気がする。でも、の子さん本人は「音楽で人を救いたい」とか全く考えてなくて、自分のために書いた曲に付いて来れる奴だけ来い!というスタンスでいるのも好きだ。
そんなバンドがまさかFIRST TAKEに出演する日が来るなんて。キラキラした世界に入れてもらえるなんて。かまってちゃんが市民権を得たようで嬉しかったのだ。
僕はかまってちゃんのロックンロールは鳴り止まないっを再生しながら、そういえば高校生の頃、一年生の時だけ放送委員会に入っていたことを思い出した。
放送委員は体育祭や文化祭で運営のアナウンスをするのが主な仕事だったが、お昼休みに校内放送もしていた。僕は自分が好きな音楽をただ流したいという自己顕示欲だけで、放送委員会に入った。
毎週水曜日に職員室の隣りにある狭い放送室に行く。いるのは一つ上の女の先輩と同じく一年生のタカバだけだ。僕は持ってきたお弁当をストーブの上に置く。放送室にエアコンがないからストーブが置いてあって、僕は弁当を温めるのに活用していた。先輩はお弁当をもさもさ食べながら、「今日は何かけるの?」と聞いてくる。
「神聖かまってちゃんをかけたいです」
「この間もかけてなかった?」
「別の曲持ってきました」
当時の僕は自分の聴いてる音楽は最高にイケていると信じて疑わなかった。(今もそうだけど)流行りの曲は流さずに、クリープハイプ、忘れらんねえよ、相対性理論などサブカル寄りのバンドが好きだった。先輩は「そうなんだ」と言いながら、全く興味が無さそうにお弁当を食べている。それもそのはず、先輩はジャニーズのファンだったから、僕が聴くサブカルバンドなど露程興味ないのだ。
同級生のタカバも興味無さそうに、スマホを懸命にポチポチしている。彼はいつも音ゲーをしていた。見た目も眼鏡をかけて、ひょろりとした典型的なオタク男子だった。だから、タカバがかける曲は音ゲーの曲やボカロの曲が多かった。やたら電子音のうるさい知らない曲をいつもかけていた。
三者三様、誰ひとり趣味が合わない。でも、僕らの良かったところは「なにその曲?」と冷笑する人がいなかったことだ。お互いの曲は聴くことはないけれど、否定もしない。僕はわりとその空気感が居心地が良くて、放送室に来るのが好きだった。
「じゃあ僕からかけていいですか?」
午後13時から始めて放送時間は15分。時間的にひとり一曲しかかけられなかった。僕はスマホを放送機材と繋いで、カフを上げて話し始める。
「皆さんいかがお過ごしでしょうか。お昼の校内放送の時間です。今日お届けする曲は、○○と△△と◇◇です。それでは、一曲目から聴いて下さい。神聖かまってちゃんでロックンロールは鳴り止まないっ」
曲を流しながら、自分も耳を傾ける。今この瞬間、全教室で僕の好きな曲が流れていると思ったら、自然と顔がニヤけた。もしかしたら、クラスの誰かが「このハイセンスな曲は誰が流してるの?」と自分に興味を持つかもしれない。
注目されるかもしれない!!
そんな淡い期待を抱いていたが、実際は校内放送など誰も聴いていなかった。みな友達と話すことに夢中になっていて、流れている曲に一ミクロンも興味を持つことはないのだ。そんな単純なことにも気付かずに、僕は悦に浸っていると、放送室の扉が力強く開く。
「おい!職員室まで流れているぞ!」
放送委員会の先生が怒気を含んだ声で言ってくる。僕がビックリしている間に、先生は赤く光る職員室の放送スイッチを消した。
「職員室のスイッチは押しちゃだめだって言ったよな!」
「すいません、気付かなかったです」
校内放送は教室にだけ流すという決まりだったが、僕は自分の曲を聞いて欲しいばかりに全部のスイッチを押していた。職員室にロックンロールが鳴り響いていたみたいだ。真面目な公務員である先生たちにの子さんの音楽は刺激が強すぎる。の子さんは高校中退してニートをしていたし、先生とは真逆の人間だ。理解出来るはずがない。
先生は「気を付けろよ」と言い残し、放送室を出ていった。先輩は「ごめん、私も気付かなかったわ」と全く非がないのに謝ってくれて、タカバも「どんまい」と音ゲーに集中したまま気にかけてくれた。
僕はエヴァの最終回みたいに「ありがとう」とみんなに言って、放送を続けた。
僕は2年生以降も放送委員になるつもりだったのに、K-POPが好きな女子にジャンケンで負けて、放送委員を続けることは出来なかった。教室には知らない韓国アイドルの曲ばかり流れるようになった。タカバも女子に放送委員を取られたみたいで、会った時に悔しさを分かち合った。
僕もタカバも放送室が好きで、サンクチュアリだったのにな。
放送委員になれなかったから、タカバと先輩とも会わなくなった。今何しているかも知らないが、どこかで変わらず自分の好きな音楽を聴いていて欲しいと思う。
そんなことを神聖かまってちゃんの「THE FIRST TAKE」で思い出した。あの時、先生に消された音楽は今や世界中の人に届いている。
僕は中高生の頃好きになったバンドが今も変わらずずっと好きだ。むしろ新しい音楽は聴けない頑固ジジイとなり、自分の好きな曲ばかり聴いている。自分を構成する音楽が高校生の時に決まってしまった。でも、それでいいと思う。高校生だったのは十年前だが、今聴いても色褪せない。多分これからもずっとロックンロールは鳴り止まないだろう。
エッセイ集が無事届いたみたいで良かったです。字が下手なのが悔やまれますが、サインとメッセージも喜んで貰えて良かったです。まだまだ買えるので良かったら是非買って下さいっ!