日本で放置される木、マラウイで必要とされる木
一見すがすがしいマテバシイ林が実は問題⁉
個人的にはマテバシイ林の雰囲気が好きだ。
1つの株からすらっと何本もの幹が伸び、その上部に枝葉が茂る。空を覆いつくしてしまうほどなので、地面に日光が届かず、下草や他の樹木も育ちにくい。つるつるしてかたい葉は、落ちてもしばらく分解されず、落ち葉が積もったままになる。森林浴として、落ち葉を踏みしめながら歩くのにもってこいの林となる。
その良さは一方で課題ともなる。落ち葉が分解されにくいこともあり、地面が固く乾燥する(=保水力が低い)傾向にある。水がしみこみにくいから、水源涵養の機能が弱い山となってしまう。しみこまず、表層を勢いよく流れる水は山をけずり、土砂を過剰に運んでしまう。
行き先を失ったマテバシイ
千葉県では海苔養殖の木ヒビとして、そして薪炭材として、かつては大活躍だったマテバシイ。寒い冬の日、マテバシイで作った木ヒビから、手摘みで海苔をはがした時代には、冷えた体をマテバシイの焚き火で暖めることもあったのだろう。
そのマテバシイが、今はほとんどが放置林となってしまっている。薪や炭を使う生活は終わり、海苔養殖に使われた木ヒビは網ヒビに取って代わられたからだ。
行き先を失ったマテバシイたちは人知れず成長を続け、大径木化した。結果、「カシノナガキクイムシ」という5mmほどの小さな虫が入りやすくなり、この虫が媒介するナラ菌による「ナラ枯れ」が急速に広がっている。解決するためには、この虫自体を減らすか、適度な間伐をして林の若返りをするか、どちらかが必要だ。
ならば手っ取り早く伐採を進め、間伐材を有効活用すればいいのだが、そう簡単にはいかない。木は非常に堅いため加工しにくく、加工できたとしてもねじれや割れが発生しやすい。木材として使うための乾燥にも最低2~3年はかかる。杉ならば1年もかからないというのに。
そんなマテバシイの乾燥と加工ができる木工所は、今ほとんどない。
マラウイで止まらない森林伐採
日本では残念ながら放置されてしまっている国産の木々。マラウイにおいては人々が喉から手が出るほど必要としているものだ。
電力のほとんどを水力発電でまかなっているマラウイ。マラウイ湖の水位が下がると電力不足に陥り、電気は限られた人々しか使えないものとなる。電気料金も庶民には支払えないほど高い。必然的に、大半の人たちは薪や炭で煮炊きをすることになる。生きるためだ。
燃料となる薪と炭には規制がかかっていて、木の伐採を許可されている森からの薪や認可を受けた炭以外を販売・所持・使用することは表向きには許されていない。しかし、認可された炭なんていうのは都市部の一部の店でしか手に入らないし、高価だから、みんな裏ルートで不認可の炭を手に入れている。裏と言っても、割とどこでも手に入るので、実は裏の方がメジャーだったりする。そうでもしないとモノを食べられないのだから。
山が近くにある農村に行くと、山の方から頭の上に乗っけたり、自転車に積んだりして、薪や炭を運ぶ人たちとすれ違った。取り締まりも本気ではなさそうだから、ある程度見逃しているのだろう。
農村では電気で生活するなんて夢のまた夢。電気どころか、炭も使えない家庭が多い。薪の方が炭よりも安いからだ。薪の使用率が8割を超えるというデータもある。
https://mwnation.com/80-still-using-firewood-illegal-charcoal/
マラウイにおいて勝手な木の伐採が禁止されているのは、とにかく森林減少を食い止めるためだ。まだまだ二酸化炭素の排出量削減うんぬんを議論する段階ではない。マラウイに行くと、至る所でハゲ山が目につく。人口の増加に対して、森林面積が圧倒的に足りていないのだ。
マテバシイがマラウイにあったなら
行き先を失った千葉県のマテバシイ。もしこれが、マラウイに生えていたとしたら、どれだけの人々が救われるのだろうか。後ろめたさを感じることなく、みんなで喜び勇んで山に出かけ、伐採や炭焼きに精を出すことができるのだから。
成長が早い木だから、うまく伐採量が管理できれば、かつて日本の里山で知らず知らずのうちに自然をうまく循環させていた頃のように、環境負荷の少ない生き方にちょっとだけ近づけるかもしれない。
国産材に目を向けて
木は身近にたくさんあるはずなのにそれを使わず、わざわざ外国から安い木材の大量輸入に頼っている日本の現状。その矛盾する恩恵にあずかってしまっている自分。まずは国産材に目を向けて、ほんの少しでもいいから、国産材で作られたものを使うことから始めてみたい。
いつかは自分も、国産材がふんだんに使われた、大きくて立派な家具に囲まれる生活ができるようになるのだろうか。今はまだ、身の丈に合わない気がしているけれど。