職人魂 えのきぞの 三代目 榎園豊成氏
無形文化遺産にも登録されている和食の素晴らしさは、何と言っても、旬の食材がふんだんに使われており、見ているだけでもアートでもあり、一つ一つの食材を目立たず騒がず、静かに腹に染み入る、体に優しい自然食であることだ。「侘び寂び」の世界の代表格である和食。日本人に生まれて良かったと思う瞬間である。
久しぶりに京料理「えのきぞの」(榎園豊成料理長)の料理写真群を見ていると、急に腹の虫が鳴き始めたのだった。実は、別のテーマにて記事を書き始めていたのだが、さっさと記事を削除し、同店の料理を眺めながら、和食のイメージを堪能しようかと・・・。
最近、ホテルレストランの西洋料理では、ワンプレートでのランチが目立つようになってきた。流行だからそれはそれで良いけれども、和食のように、器を愛でながら、料理の歴史を紐解きながら、和食の職人と語り合えば、食の大切さと、子供たちへの食育への意識が高まると言うものだ。
数年前に、大都市部の五つ星ホテルでルームサービスを頼むことにした。ホテルテナントである有名和食店の松華堂を頼み、部屋で待つことに。30分ほどして運び込まれた二段重と吸い物付きで一万円。正直、食後の満足感は百点満点とは言えず、その仕上げ具合も大したことはなかった。
大都市部の料金体系はバブル時とは変わらず、熊本の料金と比較すると、約3倍〜4倍の値段となっている。勿論、家賃や人件費、仕入れる食材の原価などを考えれば当然なのかも知れないが、廃棄される食材情報を知れば、バブル時と変わらず無駄無理が存在していることになる。
鱧(ハモ)についても、熊本県天草地方では数百円で上物が入手できる。それが、大阪で「鱧のおとし」なんぞ食せば、一人前一万円は下らない。鱧は小骨が多く、捌く手間暇考えれば、やや高くなっても良いかと思いつつ、元値からすれば、数百円が一万円になるのだから、腑に落ちるものではない。
中国料理も同様に、熊本ホテルキャッスル 四川料理 桃花源では、「美味三宝膳」なるもの、八品にて1万円程度である。ところが、大都市部の五つ星ホテルテナントの中国料理店では、4万円弱。しかも、鮑のステーキは、桃花源のものが秀逸であり、深みのある味わいに腰を抜かすほど。
食の比較論を語ればキリがないので、ここらで京料理「えのきぞの」の話を戻すことに・・・。
今の世の中は、食事処や宿は大変な状況下であるのは周知の事実。ただ、以前からずっと変わらず、旬の食材を仕入れては、リーズナブルな料金体系で経営している同店には頭も下がり、このような良心的な食事処には心からエールを送り、多くの方々に応援して欲しくなる。
因みに、同氏の祖父は、昭和元年に東京上野の精養軒に入社し、この熊本へ、西洋料理を持ち込んだ、立役者である。それから、料理学校を開設し、熊本市内の主婦層で知らない人はいないほど、人気の料理学校であった。よって、90年前の洋食レシピが同氏(三代目)に受け継がれているのも、実に嬉しいことである。
以下の料理で、特筆すべきは、吸い物の繊細さである。また、土鍋で炊き立てのご飯が食べられるのも、すこぶる新鮮で、土鍋の中の白米が阿波踊りのように元気で、米粒がピカピカツヤツヤした顔をしている。三杯ほどお替りをするほど、美味であった。
近頃の街場のレストランはガス釜で炊いているところが多いが、その保存状態が悪く、ランチタイムぎりぎりに足を運べば、白米が黄色くボソボソと乾き気味の店もある。これじゃ、せっかく美味しい料理が並んでいたとしても台無しとなってしまい、セブンのオニギリの方が旨く感じてしまう。
何はともあれ、真面目に美味しい料理を提供する京料理「えのきぞの」を皆で応援して頂ければ、この上なき幸せとなる。勿論、同店の弁当はとても評判が良く、満足度の高い逸品ばかりを準備している。ただし、同店は全て予約制なので、必ず電話で予約をして、店内会食なり、弁当のテイクアウト頂ければと・・・。
<えのきぞの>
〒862-0975 熊本市中央区新屋敷1丁目9-19 濫觴77A
TEL:096-211-5525
※定休日は月曜日