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義父が退院するっぽい<5>

安置も打ち合わせも死亡当日に一段落。
葬儀なし、預かり安置のいいところ、亡くなった人のために時間を割かれなくていいことです。

残された人に、後を追う隙を与えず、忙殺しながらも気持ちの整理をつけさせてくれる四十九日制度、とても素晴らしいと思う。表向きは亡くなった人のためだけど、葬儀も墓も、生きている人のためのモノだと思っている。
だからこそ、遺族の全てが、亡くなった人を悼んで惜しんでいるわけではないのも、汲んでいただきたい。そこまで頑張らなくていいよっていう部分も、あっていいと思う。
盛大な葬儀、立派なお墓、それ以外にも、亡くなった人に対してしてきたことってたくさんあるわけで。それでいいじゃない。

そういう意味で、コロナは、簡素な葬儀がそれなりに社会に受け入れられるのに、とてもいいきっかけになったんじゃないですかね。

ということで、昨日は火葬式日程の中の、空白的な一日でした。仕事にはいったけど、それは日常です。
ちょっと早い出勤だったので、外に作業に出かけない代わりに、起床後はだらだらと家でお茶していたら、ふと思いついた。

やっべ、葬儀の担当者さんに、義父のペースメーカーのこと言ってない。
聞かれなかったから忘れてた、というのが正直。ペースメーカーのことは、火葬前に申告するの、遺族の義務です。
慌てて担当さんに電話しました。あぶないあぶない、火葬場のスタッフさんを危険に晒すところでした。

火葬前の地雷

そして、今日。

憂えることはなくなったはずなのに、イベント日前の小学生のように眠りが浅い。
火葬は午後です。集合時間を考えれば、一時過ぎに家を出れば間に合います。
私は休日には珍しく、八時には起き出して、買ってあったヨーグルトを食べながら、午前中に済ませることを頭の中で組み立ててました。職場仲間と共同購入した果物が今日届くから、それを半分、実家の妹たちに送って、どうせだから一緒にお菓子でも入れてあげよう。じゃあ買い物はこの時間に、とか考えてたら、TVを見ながらスマホをポチポチしていた夫が、

「あとで○○(隣の市の)……」
「なにいってんの?!」

『××につれてって』と予測変換が入った私に即座に怒られる。

そう、こういう人だった。
義母の納骨の時も、「その前に九十九里(近くにあるおかしの直売所)に行こう」と口走って私に散々怒られたはずなのに、まったく懲りてない。

こういう一大イベントの時に無駄に遠出してして、出先で事故でもあったらどうするのか。よその家の納骨のなら、事情で遅れますで済むかも知れないけど、今回は自分の親の火葬だろ。

どうして大事なイベントごとに、自分から地雷を踏み抜きに行くのか。実はわざとなんじゃないか。こころの検索枠に、『夫 学習しない なぜ』とか入力したくなります。

雨の中

来ないと思っていたT某、忌引きがとれたとかで、急遽出席。
T某が行くなら、車も出してもらえます。
マイペースで身支度が私以上に丁寧なT某を待っていたら、予定より二十分ほど出発が遅れましたが、計算の範囲内です。
雨と休日とで、車の通りの多いなか、千葉市に向けて出発。

火葬場は、山の中と言うほどではないけど、緑の深い場所にあります。
車を置いて、待ち合わせ場所に指定されたところに向かうと、担当さんが自分でバン(霊柩車)を運転して、搬入口前で待ってました。今日も一人だ、慣れてるなぁ。

まず受付で火葬費を払い、棺の搬入。炉の前にある小部屋っぽく区切られた場所で、棺の窓を開けてもらい、最後の対面です。
口くらい閉じてくれてるかと思ったら、ほんとにそのままでした。目も半開き。T某が、びっくりしないかと思って、「無理にまぶたを閉じると眼球を傷つけるんだって」的にフォローしたら、納得してました。
ていうか、全員全く冷静で、あっさりしたものです。

焼香後、炉に運ぶ前に、スタッフさんに、
「……はありませんか?」
何を聞かれてるかとっさに意味が判らなくて、聞き返してしまった。

「お位牌やお写真はお持ちではないですか」

ありません。


炉の扉は七つ。
位牌や遺影を置く台があるんですね。普通は写真くらいは用意するのかと思ったら、遺影と位牌があるのはふたつの炉だけ、もうひとつはちいさな写真立てのスナップ写真みたいなのが置かれている。
ああ、なにもないのも、やっぱりありなのね。
型どおりに見送って、控え室に通される。

千葉市凄い。
無料の控え室というから、共同で使うロビーかと思ってたら、炉ひとつにつき、20人以上は楽に会食できそうな控え室がついてくる。
ロビーの片隅の椅子席にも使用料が設定されている葛飾区の火葬を経験した後なので、驚きもひとしおです。
部屋には流しもついていて、食器棚には湯飲みもある。おおきな急須もある。湯沸かしポットもある。
準備さえしていればお茶も用意できるってことです。
ただ残念、お茶っ葉がなかった。

ひととおり部屋を探索したら、葬儀社のスタッフさんが来ました。
義母の時は、搬入前に精算が終わってたんですが、今回はここで精算。
「ペースメーカーのご連絡、ありがとうございました」と言われて、
夫があっと言う顔をする。ああ、忘れてたよね、知ってるよ。

葬儀社のスタッフさんを見送って、あとは、火葬が終わるのを待つだけです。
飲み物は自販機で買い、持ち込んだお菓子をつまみ、ミカンを食べ。
特に故人の思い出話をするでもなく、それぞれ好き勝手に過ごしてました。
私はずっと本読んでました。ずっと前に買って読みそびれてた相棒のノベライズ。場所も時間も忘れて読んでいたら、半分ちょっと読み進んだところで火葬場のスタッフさんが呼びに来た。

通路の外から見える外は、もう真っ暗。炉の周りも人気が無く、どうやら私たちが最終の利用者のようです。
炉から出てきた骨になりたての義父を見せられ、
(左足の)人工関節とペースメーカーはどうなさいますか、こちらでご供養いたしますか。骨壺にお入れしますか。

処分……じゃない、供養をお願いしますと言うことで(邪魔だよねきっと)納骨の準備ができるまで収骨室で待機。

義母の時は私と夫の二人だったので、一つだけ大きい骨を骨壺に収め、あとは係の人がやってくれましたが、今回は三人。
喪主を二回働かせ、四本分を遺族が骨壺に入れ、あとは係の人がやってくれたのですが。
「ご立派な骨です、そのままでは入りきらない場合、砕いて入れさせていただきます」
の言葉通り、ざくざく箸で折られて詰められていきます。焼けた骨がサクサク砕けて詰められるのって、独特の音です。密度があるけどもろい炭って感じ? いいたとえが思いつかない。

骨箱も、おさめ方が義母の時とは違う。
義母の時は桐箱に、白い覆いを掛ける形でした。
今回、骨壺は、先に布で包まれ、重箱みたいな綺麗な模様のついた箱に収められました。いやー、なにも考えてなかったけど、会館のカタログ見せて貰えば良かった。地域によって違うんですね。

それを喪主に抱えさせ、退出。スタッフさんは、雨の中、駐車場まで見送ってくださいました。

で、家まで運ばれてきたその骨壺は。

今駐車場にいます。車の中です。
「家の中に置き場所無いし」と当然のように夫に言い放ち、当然のように車の後部座席に置いてきました。T某もなにも突っ込まない。
これは明日、義実家に運びます。
この日のためにとっておいた、義母の時に使った後飾り祭壇を組み立て、そこに乗せます。おりんも線香立ても全部とってあります。任せろ(何を
ということで、以下次回。

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河東ちか
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