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映画「コンパートメントNo.6」感想

 一言で、傷心した女性が世界最北端の駅を目指し、自分を取り戻す列車の旅&ツンデレラブストーリーです。90年代アラサーくらいの方なら響くのか?余白を埋めながら深読みしたい人向きの作品だと思います。

評価「D」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。あまり良い評価はしていないので、好きな方は閲覧注意です。

「最悪に思えた旅が人生を変える」- 世界最北端の駅へ向かう寝台列車の6号室、最悪の出会いが最愛の旅に…。

 本作は、フィンランドのユホ・クオスマネン監督による、第74回(2021年)カンヌ国際映画祭コンペ部門グランプリ受賞作品です。
 ユホ・クオスマネン監督は、第69回(2016年)カンヌ国際映画祭にて、ある視点部門で長編第1作『オリ・マキの人生で最も幸せな日』でグランプリを受賞し、第2作目にして同映画祭コンペ部門にてグランプリを受賞しました。

・主なあらすじ

 1990年代、モスクワから世界最北端の駅「ムルマンスク」にあるペトログリフ(岩面彫刻)を見に行く予定だったラウラは、大学教授のイリーナにドタキャンされて、一人旅立ちます。恋人がもう自分には興味がなさそうだと、薄々感じ、失意の中に。
 寝台列車の同じ6号室に乗り合わせたのは、炭鉱労働者の男性リョーハ。彼の飲んだくれでヘビースモーカーな第一印象で、傷心のラウラには最悪な旅の始まりとなります。しかし…。

・主な登場人物

・ラウラ/セイディー・ハーラ
 ロシアに留学しているフィンランド人女性。女性であるイリーナと恋人ですが、周囲には「友達」と紹介しています。世界最北端にある「ペトログリフ」を見に行くために、列車の旅を計画しますが…。

・イリーナ/ディナーラ・ドルカーロワ
 大学教授で美人。ラウラと旅行に行くはずでしたが、突如ドタキャンします。

・リョーハ/ユーリー・ボリソフ
 寝台列車で、ラウラと同室に乗り合わせてきた炭鉱労働者の男性。飲んだくれでヘビースモーカー、セクハラ発言が多く、ラウラにとっては最悪な印象を残します。

① グランプリって地味な作品が多いのかな?

 本作、カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品ということもあり、期待していたのですが、うーん合いませんでした。
 先に言っておくと、決して「駄作」とか「つまらない」という意味ではないです。「飽くまでも自分との波長が合わなかった」という感じです。

 同じグランプリでも、前年の『英雄の証明』と先日鑑賞した『CLOSE/クロース』はソコソコ面白かったんですけどね。
 それにしても、グランプリって地味な作品が多いのでしょうか?パルムドールが結構「激しい」作品が多いから、その対比なんですかね。『万引き家族』とか『パラサイト半地下の家族』とか。

② 評判は良いのでしょうが、今一つ没入できなかった。

 先述より、カンヌ作品とのこともあり、また映画館でも上映期間が長かったので、一定以上の評価はなされているとは思います。

 ただ、申し訳ないのですが、ストーリーには没入できず、途中で寝落ちしました。「いつ面白くなるんだろう」と考えていたら、終わってました。客席でも、体を伸ばしている人や座り直す人が多く、同じように感じた方が多かったのでしょうか。終了後も無言で退場する方がほとんどでした。

 作風は、「展開がのっぺりで冗長で緩慢、カメラワークが長回し」で、典型的なヨーロッパ映画だと思います。本作は北欧映画ですが、同じ北欧映画でも、『TOVEトーベ』や『わたしは最悪。』の方が見やすかったかな。

③ コンパートメントって何?

 コンパートメントとは、仕切った区画で、特に客車の、部屋のように区切った客室のことを指します。確かに、本作は客室で起こる一部始終を描いていますね。
 寝台列車に乗ったことがある方なら、「あ、これわかる」と納得されるのでしょうか。

  1. 社会主義国家故の暗さや景色の単調さは伝わってくる。

 本作の時代背景は1990年代末のフィンランドとロシアです。そのため、冷戦後の社会主義国家解体前後らしい要素は沢山ありました。

 まず、社会主義国家故の閉鎖的な空気感・地味さ・単調さはひしひしと伝わってきました。
 同じ欧州圏でも、フランスやイタリアのカラフルで華やかな街並みではありません。この辺は、映画『ひまわり』や『FLEEフリー』でのソビエト時代の街並みとも似ていました。

 また、国際電話・ダイヤル式電話機・カセットテープ・SONYのウォークマン・映画『タイタニック』の話・テクノポップな歌手の歌などは、1990年代らしいのかな。この時代に生きていた方は、タイムスリップしたような感覚になるのかしら。残念ながら、私は生まれてまもないので、この感覚には乗れませんでした。

④ その場にあるものから各々が何かを感じ取れれば良いのかもしれない。

 本作は、「伏線」はあるものの、その「答え」はあるようでないし、ないようであるのかもしれません。ある意味、「その場にあるものから各々が感じ取る」作品なのかもしれません。

 まず、「遺跡を見に行く話」と聞くと、「どんな大きな遺跡があるのかな~」と期待していました。ただ、実際は鉄道の中のゴニョゴニョ会話と、偶に途中停車駅で夜に外を歩く場面が何度も繰り返されるシーンにかなりの尺を取っています。
 勿論、鉄道旅行記として楽しむなら、それもありだと思います。しかし、それでも鉄道の下りがあまりにも長すぎるので、寝落ちしました。

 また、とにかく暗いシーンが多いので見づらかったです。電車内も、街もあまり景色が変わり映えしないので、退屈になりました。しかもロシアの冬は、基本的に悪天候なので、吹雪や暗闇でとにかく視界が悪かったです。それにしても吹雪やブリザードはヤバい!
 もしかしたら、カメラワークに拘りがある監督さんなのでしょうか?でも、暗く見える映像なら『ケイコ 目を澄ませて』の方が遥かに見やすかったです。

 そして、キャラクターや会話についても、特段面白くは感じませんでした。ラウラは拗らせ系・空回り系アラサー女性、リョーハは口と酒癖の悪い男性、どちらも口下手でした。

 ここまで来たら、とにかくロシアらしさを探してみようと、画面を見ていたら、結構印象に残るものはありました。例えば、酒と煙草、吹雪と雪山、放し飼いの犬、ロシア料理(ペレペチやスーシュカ、前者はキッシュ、後者はお菓子)、ウォッカと密造酒、おばあちゃんと猫、採石場でしょうか。
 でも、これらから「何を感じたか」と言われると…説明するのはかなり難しいです。

⑤ 所謂ツンデレラブストーリーなんだろうけど、唐突すぎてついていけず。

 本作は、拗らせ気味の女性と、デリカシーに欠ける男性による「ツンデレラブストーリー」です。
 前半、ラウラはリョーハにフィンランド語で「くそったれ」と言いますが、最後の最後は、「愛してるは?」「ハイスタ・ヴィットゥ(F**k you)」となって現れるあたり、「ツンデレかい!」と突っ込んでました。

 ただ、個人的には恋愛の下りがやや唐突だと感じました。
 最初は売○婦呼ばわりされたり、(酩酊中とはいえ)体を触られたりして、セクハラされてたのに、最後は好きになるかなぁ?リョーハに対して、「ピュアだけど不器用男」という意見もありましたが、私は彼に対するマイナスイメージが強すぎて、最後まで気持ちがひっくり返りませんでした。
 特に、若い男女が狭いコンパートメントで同室となることは、当時はあったのかもしれませんが、その当時でも犯罪の可能性はあると思います。だから、映画での初対面の状況はかなり危惧していました。

 一方で、ラウラとリョーハのやり取りが増える一方で、電話口でのイリーナはそっけなくなり、次第に距離が空くように。恋人でも、物理的に離れていくと、心理的にもそうなるということなのでしょうか?

⑥ 「深読み」したい人には向いてるかも。

 ここまで本作を振り返りましたが、やはり何が言いたいのか、わかりにくい作品でした。
 多分、こういう作品は、「余白を埋めながら自分で考えたい」、「深読み」したい人向きの作品だと思います。

 正直、色々と引っかかる点はあります。

・ラウラは実は、LGBTのLレズビアンではなく、Bバイセクシャルなのか?
一方で、リョーハはGゲイなのか?

・結局、盗まれたハンディカメラはどうなった?

・結局、冬季の厳しい気候のせいで、ペトログリフがある場所には行けませんでした。最後に渡されたリョーハの「絵」がラウラにとってのペトログリフってこと?

 何となく、「これが言いたいのかな…?」と思う点はあるのですが、やはり伝え方が弱いと思いました。

 パンフレットや、下記のリンクの解説(「ロシアは必ずまた攻めてくる」フィンランドの言い伝えと映画監督が覆したかった「ロシア人のイメージ」)や、他の方のレビューからは、「フィンランド人の女性とロシア人の男性が仲睦まじくなる、そんな所に反戦メッセージを感じた」、という意見もあるようですが、私にはそこまで読み取れませんでした。やはり、ストーリーが今一つなので、それ以上考察したい気にもならなかったです。

 本作で一番印象に残ったのは、オープニングとエンディングがめっちやシンプルだったことですね。ビビットカラー一色の背景に、大きく名前が表示されたのに驚きました。

・出典

・映画「コンパートメントNo.6」公式サイト

・映画「コンパートメントNo.6」公式パンフレット

・「ロシアは必ずまた攻めてくる」フィンランドの言い伝えと映画監督が覆したかった「ロシア人のイメージ」
※本作の解説が載ってます。


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