映画「フラッシュダンス」感想
一言で、ジェニファー・ビールスのダンスが魅力的で、夢に向かって一歩踏み出す勇気を貰いました。一方で「人種差別」・「男尊女卑」描写は酷く、かなり問題作でもあります。
評価「C」
※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。また、センシティブな内容を含みますので、不快になった方はブラウザバックをお願いします。
ペンシルベニア州ピッツバーグ。18歳のアレキサンドラ・オウエンズ(以降“アレックス”)は、昼は製鉄所の溶接工、夜はナイトクラブ「マウビーズ」のダンサーとして働きながら、プロのダンサーになることを夢見て練習に励んでいました。
彼女は、名門ダンス・カンパニーの入団を希望するものの、「あと一歩の勇気」が出せずにいました。
そんな中、彼女は製鉄所の社長ニックと恋に落ちます。彼は彼女の夢を応援しますが…。
主な登場人物は以下の通りです。
・アレキサンドラ“アレックス”・オーウェンズ : 本作の主人公。溶接工とダンサーという二足のわらじを履いています。プロダンサーを夢見ていますが、オーディションを受ける勇気がなく、日々悶々としています。愛犬のピットブルのグラントと暮らしています。
・ニック・ハーレイ : アレックスが働く製鉄所の社長、実はバツイチ。「マウビーズ」にいたアレックスにアプローチを仕掛けますが、彼女のガードの堅さには「難攻不落」さを感じています。しかし、ある出来事がきっかけで彼女と付き合い、彼女のためを思って「ある行動」を起こしますが…
・ハンナ・ロング : 元バレエダンサーの老女。アレックスにとっては「祖母」的存在で、良き相談相手です。アレックスのダンス好きは、彼女がきっかけです。アレックスには、厳しくも暖かく、現実的なアドバイスを教示します。
・ジェニー : 「マウビーズ」でのアレックスの同僚で親友、フィギュアスケーターです。プロを目指して大会に出場するものの、敗北を喫して挫折し、スケーターの世界を去ります。その後、ジョニー・Cと付き合いますが…
・リッチー : 「マウビーズ」でのアレックスの同僚で料理人、ジェニーの恋人です。コメディアンを目指し、ハリウッド行きを計画しますが、小柄な体格がネックとなり、中々上手く行きません。
・ジョニー・C : ストリップクラブ「ザンジバー」の客引き男。胡散臭さMAXで、アレックスをスカウトしようと近づきますが、ニックに阻まれます。その後、夢破れたジェニーと宜しくなりますが…
本作は、エイドリアン・ライン監督によって制作され、1983年に公開されたダンス・ミュージック映画です。
まず、主演のジェニファー・ビールスは、オーディションで4000人以上の中から選ばれました。その強い存在感を遺憾なく発揮したことで、ゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされました。
また、アイリーン・キャラが歌う主題歌「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」はアカデミー賞歌曲賞を受賞し、サウンドトラック・アルバムはグラミー賞を受賞しました。
そして、ハリウッド映画で初めてブレイクダンスを取り入れた作品ともなりました。
日本では同年に公開され、興行収入約60億円を記録する大ヒットとなりました。
まず、同時期に放送された堀ちえみさん主演のドラマ「スチュワーデス物語」では、本作の主題歌「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」が麻倉未稀さんによってカバーされています。
また、風見しんごさんは本作に影響を受けて、1984年の楽曲「涙のtake a chance」において、振付にブレイクダンスを導入しています。これによって、彼は日本でのブレイクダンスブームの火付け役となりました。
尚、本作の80年代ポップス音楽は、小室哲哉さんや浅倉大介さん、YMOの音楽に似ています。よって、本作や「サタデー・ナイト・フィーバー」(以降"SNF")など、アメリカのダンス・ミュージック映画から、何かしら影響を受けたのかな?と思います。
ちなみに、日本語吹き替え版のジェニファー・ビールス役は、戸田恵子さんです。意志の強い女性像にピッタリの配役です。
1. ジェニファー・ビールスのカリスマ性が凄い!
本作からは、ジェニファー(アレックス)のエキゾチックな美しさや、パワフルでセクシーなダンスの魅力、自分の意志で道を切り拓く逞しさがガンガンと伝わってきます。そのため、彼女は瞬く間に世の女性たちの「カリスマ的存在」になりました。この頃から、ソバージュヘアーやクラブやホールでのダンスが流行ったように思います。
SNFのジョン・トラボルタが男性の憧れなら、本作のジェニファー・ビールスは女性の憧れですね。
ちなみに、1980年代は日本では「バブル期」でイケイケドンドンの時代でしたが、アメリカでは「貿易赤字」で、鬱屈とした時代でした。ここは、SNFと同じく、日米において作品に「真逆」の印象がついているところは興味深いです。
2. ダンス・スケート好きにはお勧めの作品である。
本作には、クラシックバレエ・コンテンポラリーダンス・ヒップホップダンス・フィギュアスケートが登場します。
まず、ダンスのレベルはトップクラスでした。
アレックスのダンスは、どれも印象に残るものばかりで、マイケル・ジャクソンのような滑らかなダンスや、KISSみたいな白塗りメイクでのダンスが凄かったです。また、椅子に体を立てて、上から水が降ってくる演出には心を奪われました。※一部「フラッシュが凄い」シーンがありますので、光過敏性発作の方は要注意かもしれません。
また、アレックスだけでなく、「マウビーズ」の他のダンサーや、ストリートダンサー達のダンスも凄かったです。現代ほどではありませんが、「ポリコレ配慮」はありました。ラテン系・黒人系のダンサーも多く登場しますが、皆それぞれ先祖のルーツやイメージに合うダンス・ミュージックを選択して、自身の強みを最大限に活かしていました。
SNFも本作も、若者達がエネルギッシュでアグレッシブな所が見所です。彼らの仕事に恋に大忙しな日常が良く伝わってきました。アメリカの若者映画らしく、スラングや下ネタは多めですね。
3. 本作は、「人種の壁」を越える物語である。
一方で、本作は「夢を諦めない、一歩踏み出す勇気をくれる」作品・「人種の壁を越える」作品だとも思います。
アレックスは、プロダンサーを目指しており、バレエ団の入団を希望するものの、今までオーディションを受けたことがありませんでした。
彼女は、自分の踊りに「自信」を持てなかったのです。ダンスの実力は「現場(マウビーズ)での叩き上げ」で身につけたものの、バレエの公式レッスンは受けたことがなく、バレエシューズも持っていなかったため、入団には「高い壁」を感じていたのです。
彼女はそれでも勇気を振り絞ってオーディションの受付に行きます。しかし、他の受験者は「白肌に金髪」の人ばかりでした。一方で、アレックスは「褐色肌に黒髪」だったため、ある意味「浮いた」存在でした。そして、他の受験者の「冷たい視線」や「陰口」にショックを受け、外に飛び出してしまいました。
本作ではアレックス自身の人種やルーツは言及されていませんが、教会の「懺悔室」に通うシーンや、溶接工という「ブルーカラー」の仕事を見ると、「ニューカマー」の移民(カトリック信者のイタリア系・アイルランド系・ラテン系)なのかなと思います。※ここは、SNFのトニー・マネロと重なります。
最も、ジェニファー・ビールス自身が、インディアンの血を引くアフリカ系アメリカ人の父とアイルランド系アメリカ人の母との間に生まれているため、彼女の人生において、アレックスの苦悩と重なる部分はあったのかもしれません。
最後のオーディションのダンスは、一番圧巻でした。今まで登場したダンスをリフレイン的に挿入させたのでしょう。※実際のダンスは一部「スタント俳優」が踊っている場面はあるようですが、それでも強い熱意や格好良さがビンビン伝わってきました。
最初は、退屈そうな審査員の顔に嫌気がしました。やはり、「人種」や「見た目」などのルッキズムに偏るのでしょうか…
アレックスは、最初は緊張に押し潰され、一度音楽を止めて再度かけ直します。でもここからが凄かったです。今まで積み重ねてきた気持ちをダンスにぶつけ、全力で踊る姿に審査員は脱帽したのです。
ここは本当に凄くて、私も心を奪われました。特に、側転やロンダートを決めたところは、とても驚きました。
そしてアレックスはオーディションで合格を勝ち取ります。そして彼女は、元々あった「壁」をぶち破る存在になりました。この辺の描き方は、「リトル・ダンサー」や「ドリームプラン」とも重なります。
4. アレックスの愛犬グラントが可愛い。
アレックスの愛犬グラントはピットブルです。日々の挫折で落ち込む彼女を静かに見守る姿はとても可愛く、まるでサイドキッカー(相棒)のようでした。特に、アレックスとグラントが横になって向かい合い、見つめ合うシーンが好きです。
犬がサイドキッカーな作品は他にも沢山ありますが、「ハズレ無し」だと思います。「名犬〇〇」シリーズ、「リメンバー・ミー」、「ドライブ・マイ・カー」、「カラミティ」など…
正直「犬を使った演出はあざとい」や、「今なら倫理観が引っかかる」という意見はありますが、私はこういうの好きです。
5.「女性蔑視」場面はチラホラある。
本作、とてもポジティブになれる作品したが、一方で「問題点」も多いです。特に、「女性蔑視」場面がかなり多く、これらは受け容れがたいものでした。恐らく、本作を公開当時観ていても、現代に観ても、かなり「賛否両論」になりそうです。
全体的に、「性的搾取」の空気感が強く、女性を「モノ」として扱う男性が多く登場するので、ここは嫌悪感を抱きました。※SNFもそうでした。
特に、「セクハラ描写」が多く、ダンスの衣装は「ハイレグレオタード」、ストリップの客引き、挨拶代わりに男性に尻をつままれる、シモの話が露悪的、ストリップで下着の中への「投げ銭」など…この辺の描写はとても気持ち悪かったです。
また、ニックの「コネ」による、アレックスのオーディション「根回し」のシーンは、かなりモヤモヤしました。自分の実力で上に行きたかったアレックスは、このことに激怒して彼に別れを告げます。
しかしその後、彼女はハンナの死を知ります。遺品整理のときに、アレックスは彼女の古びたバレエシューズを見つけました。「もう後には引けない」、そう感じた彼女は、オーディションに臨んだのです。
そして、「コネじゃない」結果を出し、オーディションに合格したアレックスに、ニックがプロポーズして終わります。
本作は、「一人の女性が悩みながらも、周囲の『壁』を壊して自分の道を切り拓く」話です。そこには、一種の「爽快感」を感じました。
一方で、「若い女性が『力』のある男に『流される』」話とも思います。「女性の自立」が叫ばれながらも、「男性の圧力」には敵わない「もどかしさ」も感じました。※この場合の「力」とは、物理的な力だけでなく、金や権力などの社会的な力も指します。
最後に、現代は「フェミニズム」作品が溢れており、物によっては「やり過ぎ感」が否めない場合もあります。しかし、少し前の作品を観ていると、「なぜ現代でこういうムーブメントが起きたか」がわかってきました。
出典:
・「フラッシュダンス」公式サイト
https://nightfever-and-flash.jp/flash/
・「フラッシュダンス」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%B9
・ジェニファー・ビールス Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8B%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B9
・スチュワーデス物語 Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%B9%E7%89%A9%E8%AA%9E