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映画「ヴォイス・オブ・ラブ」感想

 一言で、世界的歌姫セリーヌ・ディオンの半生をモデルにした伝記映画です。衣装と歌声は凄いですが、若年期は別の女優が良かったです。

評価: 「C」 

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

 世界的歌姫と名高いセリーヌ・ディオンは、1968年3月30日、カナダのフランス語圏ケベック州にて、フランス系カナダ人として、14人兄弟の末っ子に生まれました。
 音楽一家だった家族の中でも、幼少期より歌の才能はずば抜けていた彼女は、12歳の頃にレコード会社に売り込んで歌手デビューします。
 そんな彼女を支えたのは、音楽プロデューサーのルネ・アンジェリルでした。10代で大活躍したセリーヌでしたが、ルネは彼女の才能を見越して、世界で活躍できるよう、仕事を断って、敢えて「休止期間」を作らせました。その間に英語・歌・ダンスを特訓させたのです。 
 17歳で復帰後も、ルネの下で音楽活動を続けたセリーヌ、2人はいつしか仕事の関係を超えて、恋愛関係になります。しかし、母はこの恋愛を大反対します。(2周り以上の年の差恋愛、2度の離婚歴があり、この時点では妻帯者のため)
 しかし、紆余曲折を経て、2人は遂に結婚します。益々スター街道を突っ走るセリーヌでしたが、その反面、徐々に疲労や苦しみを抱えていくようになるのでした。

 尚、本作は、セリーヌ・ディオンの半生を描いた伝記映画ですが、監督の意向で「アリーヌ」という名前になっています。監督自らが主演・脚本を務めており、12歳からはヴァレリー・ルメルシエ監督自身が演じています。また、彼女の音楽プロデューサーかつ夫となるルネ・アンジェリルも、「ギィ=クロード」という別名になっています。ここは、日本で言えば「朝の連続テレビ小説」みたいで、実在の人物名を敢えて使わない感じですね。

1. 衣装と歌声は凄く、セリーヌ・ディオンの再現度は高い。

 兎に角、ヴァレリー・ルメルシエ監督のセリーヌ・ディオン愛はビンビンと伝わってきます。パワフルな歌声やゴージャスな衣装の再現度は本当に高かったです。監督自身もセリーヌに似ているように思いました。それにしても、パンツスタイル時の足の長さには驚きました!※ちなみに、歌声は監督本人ではなく、別の女優のヴィクトリア・シオが担当しています。 
 本作でも、沢山の楽曲が流れます。勿論、映画「タイタニック」のテーマソングとなった「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」もです。この曲で、彼女はグラミー賞を受賞しました。 
 しかし、彼女は初めてデモテープを聴いたとき、「これ嫌い」と言ったのには驚きました。いつ聴いても神曲です。勿論、映画も素晴らしいです。長いのでかなり体力は使いますが。

2. 「強すぎる女性像」のアンチテーゼは示されている。 

 作中、アリーヌはスターとして、妻として、母として、多くの面を見せて活躍していました。しかし、その前に一人の人間なのです。

 現代の女性は、労働者・妻・母など、沢山の役割を求められますが、一方でそれに「押しつぶされそうになる」こともあります。アリーヌを通して、現代の女性が抱える悩みや葛藤を伝えているところは良かったです。  
 彼女が抱えた悩みの一つが「不妊治療」でした。早く子供がほしいと望んでいた2人でしたが、中々思うようにいきません。治療の結果、3人の子供(そのうち1組は双子)に恵まれます。正直、「不妊治療」はとてもセンシティブでシリアスなテーマなので、作品のテーマに取り上げることはかなり難しいです。ここは、賛否分かれるところでしょうね。※最も彼女は芸能人なので、一般人とは桁違いの金額をかけられるでしょう。そのため、本作の描き方が、視聴者や当事者に「勇気」を与えている、とは言い切れない部分はあります。最も、明らかに「傷つけている」とも思いませんが。

 中盤で、メイクアップアーティストのフレッドが登場します。彼は仕事がよくできる男性で、多忙を極めるセリーヌにとっては良き相談相手にもなりました。最も彼はゲイで、彼女とは恋愛関係にはなりませんでしたが、2人が醸し出すバディ感には、頼もしさを感じつつも、若干ハラハラさせられるところはありました。特に、夫の死後、傷心の彼女が彼の家に泊まってしまうところは、本当に「恋愛関係」になるんじゃないかと思うほどでした。

3. 監督が主演・脚本なので、「合う合わない」は分かれる。

 前述の通り、本作はヴァレリー・ルメルシエ監督が主演・脚本を務め、12歳からは監督自身が演じています。つまり、本作は良くも悪くも「監督の色」が強いので、そこが合うか合わないかで、映画の評価は決まるのではないかと思いました。
 正直、アラカンの女優さんが若年期を演じるのは厳しく、無理がありました。(演技が下手とか、そういう話ではないです。) どうやら若く見せるために、CG処理をしたようですが、却って違和感が大きかったです。せめて、若年期は別の女優を起用した方が良かったです。漸く30歳くらいからは違和感は無くなりましたが。
 また、歌声は別の女優を起用したなら、その人が顔出しで演じても良かったのではないかとも思いました。
 さらに、同じ音楽伝記映画でも、「ボヘミアン・ラプソディ」や、「リスペクト」などと比較すると、どうしても歌声やライブのスケールが小さく感じました。これは予算や配給の規模(ミニシアター系中心の上映)の問題かもしれませんが、セットやキャストにはもう少しお金をかけても良かったのではないかと思いました。

4. ギィ=クロードとの恋愛から、年の差婚に至る過程がアッサリしすぎている。

 当初、アリーヌの母は、娘が年の差&離婚歴のある人と恋愛・結婚することには猛反対し、クロードには「娘に手を出したら○す」とまで脅していました。    
 しかし、2人は結婚します。母は、結婚式ではそれを認め、喜んでいましたが、なぜあれだけ反対していた人が最終的に承諾したのか?その拒絶していたものを受け入れる過程がアッサリとしていたので、ここは母目線の葛藤を丁寧に描いた方が、視聴者は共感しやすかったと思います。

5. 他の伝記映画と比較すると、人生のアップダウンはそこまで無い。

 アリーヌは、スターによくありがちな酒やドラックには走らなかった人で、他の人よりは比較的、人生のアップダウンは激しくはないです。
 また、存命の方だからか、クライマックスへのインパクトはやや薄めでした。例えば、ラストで彼女が自身の求められる「偶像」に押しつぶされそうになって、コンサートをボイコットしかけたシーンがありました。しかし、そんな彼女がどうしてステージに戻る決意をしたのか、その過程の描き方が「弱い」ので、結果に対するカタルシスが不足していました。

 本作、観てて楽しい場面はあったのですが、どうしても要所要所でスケールダウンしていたり、過程が雑なところがあったのは否めないです。(役者の使い方やセット、人物描写など) よって、可も不可もなく、「普通」の作品でした。セリーヌ・ディオンのファンの方は観る作品かもしれませんが、それ以外の人には中々浸透しにくいと思いました。

出典元:

・「ヴォイス・オブ・ラブ」映画パンフレット  

・セリーヌ・ディオン ソニーミュージック・オフィシャルサイトhttps://www.sonymusic.co.jp/artist/CelineDion/

・セリーヌ・ディオン Wikipedia

・ヘッダー画像は、公式サイトより、引用。http://www.cetera.co.jp/voiceoflove/

 



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