『真珠王の娘』
構想10年、作家生活40周年を記念するに相応しい驚きの鈍器本です。
ページ数は550とまさに圧巻!京極夏彦作品以外では久しく見ない大きさでした…
以下あらすじ
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世界史全然分からないしミステリ以外ってほとんど読まないし…と最初は及び腰だったのですが、一気に引き込まれて無事に一夜で読み終えました。
作者の藤本ひとみさんは西洋史を扱った歴史小説がお得意な作家さんなのですが、この作品に関しては太平洋戦争の大体の流れが分かれば充分楽しめます。たびたび英国首相・チャーチルの視点を挟むことで、当時の日本が置かれている状況やそれぞれの国の情勢を知ることができるので歴史音痴も安心です。
いきなり1ページ目でチャーチルが葉巻を吸い始めた時は「本当に着いていけるのか!?」と大層不安になりましたが、合間にこの視点を挟むことで世界史的な流れを整理できる上にハナグルマの価値、早川の人間的な評価の高さが伺えてとても面白いなと思いました。
そして、やはり恋愛における描写は流石だなと。
もともとコバルト文庫で書かれていた作家さんらしいのですが、キャラクターたちの個性が際立つ恋愛描写の上手さは圧巻。女性でありながら職人として働くことを目指す主人公の現代的な言動がより引き立ち、普段恋愛的な要素の強い作品を苦手としているわたしでも読みやすかったです。途中ある理由で主人公の冬美は結婚を決めるのですが、その理由がまた斬新で。結婚が当たり前の時代に、自分の夢を叶えるための手段として結婚を選ぶのが何とも打算的で彼女の芯の強さが伺えてとても良いなと思いました。真面目な優等生タイプと見せ掛けて好きなことにひたむきな猪突猛進ぶりがとっても魅力的な子。生きている時代は違うはずなのに不思議と共感してしまう部分があるのはこうした独立独歩な現代女性の雰囲気ゆえなのでしょうね。
そんな冬美を取り巻く男性たちもまた魅力的。
それぞれに立場や考えがあり、冬美に対する態度や愛し方もまたそれぞれ。個人的には、いかにもな優男風の紳士・早川と享楽的で危険な雰囲気の火崎という対照的な組み合わせが面白くて。2人とも冬美への想いは強く感じられるのですが、火崎の場合は「何故か気になる!惹かれてしまう!!」という好きな子をついからかってしまうようなちょっと幼い感じ。遊び慣れてはいるけど人を愛することには不慣れで、何となく憎めない。対して早川は冬美に対してある操を立てており、自罰的な性格も相俟ってひたすら影から見守っている感じ。早川の方がより「執着」に近くて重いというか、ちょっと恐いなと感じるのですよね。
今の時代に男女で分けるのがナンセンスなのは充分承知の上ですが、男性として世間を生きている方にはこの物語や人物たちはどう映るのかなあと。
自分があまり人に執着がないせいか、ちょこちょこ男性陣の愛の強さというか執着の強さというか…には引き気味だったので気になるところ。いや重い!こわい!!ってなるとこ多くて…。
これは男女の違いというより人生における恋愛の比重の違いによるのかなとも思うのですが、同性だからこそ感じる魅力や共感もきっとあるはずなので。
もし鈍器に挑んだ同志の方がいらっしゃればぜひお聞きしてみたい気持ち。