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一句鑑賞 厚着してシート・ベルトの縛を受く/能村登四郎

重ね着をして分厚いコートを着て、車に乗り込み、シート・ベルトを締める。

厚着とシート・ベルトに手足の自由を奪われ、まるで包帯ぐるぐる巻きのミイラになってしまったような気分。「縛を受く」がユニークでどきっとする。

作中主体はこの束縛を心地よく思っていそうでもある。

赤子の「おくるみ」を思い出す。赤子は布でぐるぐる巻きにされ、手足の自由を奪われると、不思議と泣き止み、すやすやと眠りはじめる。

現代生活の何気ない一瞬を切り取り、人間の感覚の不思議さを読者に投げかける一句。「シート・ベルト」の中黒の表記もアクセントになっている。

こちらの句は能村登四郎の第11句集『長嘯』に掲載されている。この句集が出版されたとき、登四郎は81歳。年齢を重ねるにつれて自由になってゆく登四郎の俳句に惹かれて、能村登四郎全句集をすこしずつ読んでいる。

この一句鑑賞は五月ふみさんの素敵企画に便乗しました。ありがとうございました。


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