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さつまいもの芽

我が家で収穫したサツマイモから芽が出た。
5月に苗を植えた。それは苗と呼ぶにはあまりにも貧弱だった。数枚の葉がついた50センチほどの茎だった。こんなものから本当に根が出るのか。半信半疑で畑の畝に差し込んだ。そのまましなびて枯れてしまうのではないか。不安な日々はしばらく続いたが、萎れこそすれ枯れることはなかった。一雨降って気温が上がり、ぼくはある日白い根の存在を認めた。
 
根をつけたサツマイモは急速に成長し、スカスカだった畑一面を葉が覆った。サツマイモは真夏の暑さをむしろ歓迎するように葉を広げ、ゲリラ豪雨で降った大量の水を勢いよく吸収した。
 
サツマイモの収穫は苗を植えてから150日後というのがひとつの目安らしい。畑の端を試し掘りすると巨大な芋が姿を現した。いかにも掘り頃だった。翌日友人家族を招いて芋掘りをした。まず葉や蔓を撤去しなければならない。これが大仕事だった。芋を掘るよりも大変である。子どもたちは芋掘りはまだかまだかと待っている。ようやく刈り終わって芋掘り大会である。子どもたちが声をあげて畑に飛び込んでいく。ぼくは掘らないで写真ばかり撮っていた。
 
豊作だった。大量の紅あずまが採れた。ぼくも家族もほくほくの紅あずまが大好きである。昨今紅はるかを代表とするぐちゃぐちゃ系が流行っているようで、美味しい紅あずまはなかなか手に入らない。だから自分で作るなら紅あずまと決めていた。ちゃんとできるか心配だったが、とてもよくできた。目を閉じて食べると栗と区別がつかないのだ。
 
収穫を手伝ってくれた家族がたくさん持って帰ったのはもちろんのこと、知り合いにだいぶお裾分けした。ひとにあげると減るじゃないかと子どもが文句を言うので、いいものはみんなに分けてあげるんだよとぼくは言った。
 
サツマイモは収穫直後よりも2,3週間おいてからのほうが甘くなるという。でも新鮮なサツマイモも十分甘くて美味しかった。掘りたてのサツマイモとスーパーで売っているサツマイモの一番の違いは色である。掘りたてのサツマイモは鮮烈な赤紫色をしていて、実に美しかった。この色はだんだんと赤茶けてスーパーでよく見る色に変わっていく。もし芋掘りをする機会があったらどうぞこの色にご注目いただきたい。
 
床に新聞紙を敷いて収穫した芋を並べている。1日2,3本ずつそこからとって火を入れる。素材が美味しいので色々と料理をするよりもそのまま食べたほうがよい。ストウブで20分ほど蒸し煮のようにするとぽくぽくになる。手間入らずで美味いのだからいうことない。
 
巨大なサツマイモは見栄えはいいが大味である。それで食べるのを後回しにしていたら芽が出た。赤紫色の葉脈が透き通る美しい芽だった。水が一滴もない状態でも芽をだすこの生命力に食料難の時代多くの人が救われたのだ。だから戦争経験者でサツマイモなど見たくないというひとが少なからずいた。そうした世代がやがていなくなり、そして歴史は繰り返す。いや繰り返さないでほしい。どうか子どもたちの未来が明るいものになりますように。そしていつまでもサツマイモが美味しく食べられますように。

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