腕時計好きが満足する掛け時計
腕時計好きが満足する掛け時計というのがなかなか無い。
腕時計好きにもいろいろいると思うが、ぼくの場合はこうだ。
まず第一に針が十分に長くないといけない。長針と秒針がきちんとインデックスに届いていないと落ち着かない。いや、落ち着かないどころか針の短い時計を見ると気持ち悪いを通り越して興ざめだ。昔の時計は針が長かった。全部とは言わないがほとんどの時計はきちんとインデックスに届いていた。それがいつの間にか世の中針の短い時計がまかり通ることになっている。なぜかと言えばクォーツのせいとも言える。精確な時刻を刻めるはずのクォーツ式であるが、電池の長寿命化を優先しすぎるあまり針を短くさせたのである。電池を持たせるためには当たり前だが消費電力を少なくする必要がある。そのためにトルクを小さくした。針を短く薄く軽くして弱いトルクでも回せるようにした。その結果単三電池一本で3年は持つし、腕時計なら小さなボタン電池で10年持つ時計すらある。
腕時計、置き時計、掛け時計。そのどれもがクォーツ式ならばおしなべて針が短い。短すぎるほどに短い。うんざりするほどに短い。世界に誇るセイコーとシチズンだって針の長さには頓着しない。コスト優先のものづくりだから魅力的な掛け時計などひとつもない。
ちなみに機械式時計でも廉価版は針の長さに頓着しないものが多い。強いトルクを持つはずの機械式時計で針が短いのは興ざめを通り越してこの世から抹消したいほどに見るに堪えない。
さて、掛け時計を買おうという話になって針がきちんと長い時計がほとんどないことに不満たらたらの日々が続いて危うく掛け時計難民になりかけたところに救世主が現れた。それがBRAUN(ブラウン)の掛け時計である。BRAUNはドイツのメーカーで電気シェーバーで有名だろう。そのBRAUNが時計を作っている。掛け時計だけじゃなくて目覚まし時計や腕時計も作っている。BRAUNのデザインはバウハウスデザインと呼ばれるもので、ミニマリズムを追求したシンプルなデザインである。単にシンプルといっても単純さとデザイン性を兼ね備えているからものとしての佇まいがよい。これ、日本のメーカーがやると気の抜けたそっけないものになってしまうから、デザインはシンプルなほど難しいのである。
BRAUNのBC17は長く伸びた秒針が際立っている。その先端が黄色く塗られ視認性の向上とデザイン上のアクセントとして効いている。その秒針はスウィープ運針をする。腕時計ではやたらに有難がられるスウィープ運針だが、電池容量の大きい掛け時計や目覚まし時計ではごく普通の機能だ。スウィープ運針は消費電力さえ気にしなければカチカチ音を出さない利点に加えてバックラッシュを無視できるのでムーブメントの精度にあまり気を使わなくても良いという製造上のメリットがあるから安いムーブメントには必須の機能ではないかと思う。BC17の裏蓋をあけるとがっかりするほどちゃちな中国製のムーブメントが出てくるのでスウィープ運針で正解というわけだ。BC17にはその見た目にもお粗末なムーブメントを隠蔽できる大きなカバーがついている。どうせ壁に掛けてしまえばみえない部分ではあるが、メーカーとしての矜持がそれを許さなかったのだろう。
BRAUNのBC17は9,350円する。セイコーやシチズンのそれが半額くらいであるから掛け時計としては高価な部類に入る。しかし自分ひとりしか見ることができない腕時計に何万円もかけられるのに家族みんなが使用する掛け時計をケチるようじゃあお里が知れてしまう。高いといったって1万円しないし、セイコー5一本買うようなものである。実際買ってみてその満足度は高い。やはり長い針は見ていて気持ちがいいし、全体のデザインも美しい。BRAUNの掛け時計、正解です。